【完結】竜騎士の私は竜の番になりました！

147：ハインツの前世～⑪～

　早々に未亡人となったイベルナであったが、ここからいかに人間が醜悪で残酷であるかを思い知らされることとなった。

　ジャックはイベルナとは2回目の結婚であったので、亡くなった前妻との間に子供は二人いた。だが、イベルナはジャックの子供とは面識がなかった。イベルナも不思議には思っていたのだが、ジャックはあまり自分の子供のことをあまり語りたがらなかったし、一度話題には上がったものの、ジャックが言い淀んでいたことから、イベルナも親子の関係が上手くいってないことは、言葉が少なくても察することができた。だからそれからはイベルナはジャックの子供について話題にすることはなかった。

　ジャックはイベルナと結婚後に、早々に男爵位を長男のカルロスに譲渡すると同時に、後々財産で争うことがないようにと、イベルナにも財産を残していたのだが・・・それが仇となってしまったのだ。

　「キャッ！」

　何の前触れもなく、ジャックの息子だという二人は突然、イベルナとジャックが住んでいた小さな屋敷に訪れた。今現在はイベルナが館の主となっていた。そして、出会い頭にいきなり、罵倒され突き飛ばされたのだ。

　「この買女が！平民の血が混じってるくせに、どうやって親父に取り入ったんだか！」

　「どうせ、色仕掛けで、親父をたらし込んだんだろう？アイツは独り身が長かったから、若い女ってだけで、簡単に落とせたんだろうからなぁ！！」

　イベルナは、突き飛ばされ尻もちを着いた体制のまま目がまん丸になっていた。（この二人は一体何を言っているの？）イベルナはジャックの息子だと名乗る、目の前の二人の男の言っていることが理解できなかった。

　「何を呆けてる！さっさと立てよ！」

　「ひっ！」

　いきなり突き飛ばしておいて、今度は立てという無茶ぶりにイベルナはこの目の前の男達に恐怖しかなかった。ジャックの息子だという二人は確かに面影は少しあるが、その振る舞いはとてもあの優しいジャックの子供には到底思えなかった。

　「忙しい俺達がわざわざ来てやったのはな、お前にあることをしてほしいからだ。」

　「してほしいこと・・・ですか？」

　いきなり来たこの二人の男は、イベルナに用が合って訪問してきたのはわかった。そして会うなりいきなり自分の出生である庶子であることを責めてきたことで、イベルナは思い出したのだ。自分が育った異母兄姉も自分が庶子であることで嫌がらせをされてきたことを。やはり貴族はこういう反応が当たり前で、ジャックは稀有な存在であったのだと、こんな時ではあったが改めて認識していた。

　「この書類にサインしてほしいんだよ。」

　そういうと、現ボドラーク男爵であるカルロスが一枚の書類をイベルナの前に突き付けたのだ。

　「何の書類ですか？」

　イベルナとて、バカではない。何の書類かわからないモノにサインなどできるはずもないからだ。

　「お前が読む必要はない！さっさとサインすればいいんだよ！」

　言うと同時にカルロスの弟であるグスタボにイベルナは頭の髪を鷲掴みにされた。

　「い、痛い！！」

　「四の五の言わず、さっさとサインすればいいんだよ！」

　いきなり毛を引っ張られ、何の書類かわからないモノにサインを強要してくるなど、絶対自分にとって都合の悪い書類だということは、イベルナも理解できないわけがなかった。

　「い、いやです！まずは書類の確認を確認をさせてください！」

　「あぁ！庶子ごときが立てついてんじゃねぇぞ！」

　あぁ、こんな時に限ってマーサさんが外出をしているなんて・・・怖い！誰か誰か、助けて！

　マーサは買い物の為、外出していた。そして今はこの小さな屋敷にイベルナとメイド長であったマーサの二人で暮らしているのだ。

　その時、いきなりドアが大きく開いた。