126:アンティエルの決意

 「ほぅ・・・魔物がのぉ・・・」


 アンティエルはフェルディナントと夕飯を共にしていた。テーブルに並べられた料理は、ユージィン邸で培った腕前の賜物で、アンティエルの手作り料理である。ここは、フェルディナント・キルンベルクの公爵領中にあるキルンベルク邸の庭にある小さな家だ。基本的にアンティエルとフェルディナントはこちらを生活基盤とし、一応王族の体裁が必要なことから、客人が来た時は邸宅に戻るといった生活スタイルを続けていた。


 「あぁ、辺境の地で急に活発になってね。ギルドだけでは対応しきれなくなったから、騎士団は勿論のこと、ユージィン団長が率いる竜式団にも魔物討伐には参加してもらうことになったんだよ。」   


 「ふむ、国としてはそのように采配するであろうな。」


 アンティエルは魔物が増えたことで、何かを思い出しかけていた。何であったかは、はっきりと思い出せないものの、よくないモノであったことは覚えていた。だからこう口走った。


 「作為的なモノを感じるのぉ・・・・」


 「アンもそう思うかい?」


 フェルディナントもそうでなければいいとは思っていたが、アンティエルの言葉に確信を持った。


 「実は、ユージィン団長からもそのように報告は受けていてね。だけど、相手の目星や目的がわからないと言っていたよ。」


 「ルディ」


 アンティエルはフェルディナントの目を見つめて、愛称で呼んだ。


 「どうしたんだい?」


 「前に妾が言ったことを覚えておるか?」


 「え・・・とごめん。どれのことだろう?」


 アンティエルの言わんとすることはわからないでもないが、抽象的過ぎてどれのことなのか、本当にわからなかったのだ。


 「妾たち、『竜の祖』が国の政には関与しないといった話じゃ。」


 「あぁ、それは肝に銘じているよ。僕もそんなことで、アンを駆り出すなんて絶対に嫌だし。」


 アンティエルに出会ってから、フェルディナントはすっかり心身共にアンティエルに溺れていたのだ。


 「だが、一つだけ例外はあるのじゃ。その時は妾の力を貸してやろうぞ。」


 アンティエルの目は真剣だった。さすがにこの意味がわからないほどの疎いフェルディナントではなかった。

    

 「アン・・・確かに君の力があれば、問題はあっという間に解決するだろう。だが僕は・・・」


 フェルディナントは、席を起ち椅子に座っているアンティエルの傍まで来てしゃがみ、すっと手を取り自身の頬に当てた。


 「・・・番である君を危ない目に合わせたくはないんだ・・・」


 「ルディ、其方の気持ちは嬉しいぞ。妾も同じ気持ちじゃ。」


 アンティエルはしゃがんでいるフェルディナントの頭を優しく手を添えて、髪にキスを落とした。そしてそのままの姿勢で抱きしめた。


 「じゃが、それでもやらなければならない時もあるのじゃ。」 


 「アン?」


  突如アンティエルの声色が変わった事に、フェルディナントは訝しんだが、抱きしめられていることで、アンティエルの顔が見えなかった。その表情は決意に満ちた、悲しみと怒りを滲ませているような、何とも言えない表情をしていたことをフェルディナントは知る由もなかった。 

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