123:暗躍
『え?ということは、まだなの?』
『・・・』
カイエルは前日に姉イシュタルから激励を受けていた。姉としてもカイエルとセレスティアの関係にヤキモキしていたのである。それで昨日解禁日であることから、いよいよかと思ったのだが、まさかの弟の「まだ」の回答に驚いたのだ。ちなみに、竜の厩舎の中なので、二人とも現在は飛竜の姿である。
『貴方がいいのなら、いいけど・・・大丈夫なの?』
『・・・別に今のままでも特に不自由はないから問題ない。』
『そう・・・ただアン姉さんが、気になることを言っていたのよ。何かが起こる前触れじゃないかって。』
『アン姉が?』
『ええ。』
『そうか・・・』
姉、アンティエルの言う何かとは、恐らくよくないことであろうとは想像がついた。そして何かが起こるというのならば、それはきっと近いうちに言葉の通りで何かが起こるのだろうと、姉弟たちは共通の認識があった。今までもアンティエルの予感はほぼ予言に近いものだったからだ。
『だから、貴方には、封印を解除していてもらいたかったのだけど・・・』
カイエルもイシュタルの言わんとすることは、何となくわかった。だが、
『ま、なるようにしかならねんじゃねえの?』
『そうかもしれないけど・・・』
イシュタルはいまいち納得できなかったが、その時竜の厩舎の入口からカイエルを呼ぶ声がかかった。セレスティアの声だった。
「カイエルー訓練に行くわよー」
『お、お呼びがかかったから行くわ。』
『ええ、頑張ってね。』
イシュタルはカイエルを見送ったあと、考えていた。
『本当に、何もなければいいけど・・・』
イシュタルもアンティエル同様、不安に掻き立てられていた。
『ヴェリエル・・・どうして姿を現わさないの?』
いまだ姿を現わせない弟のヴェリエルの安否が、気になって仕方がなかった。
黄金期の時、なぜか不思議な法則があった。番が見つかる時は大抵はほぼ同じ場所で見つかるのだ。実際、イシュタル、カイエル、ラーファイル、アンティエル、そして本来は国が違う獣人のエメリーネでさえ、このフェリス王国に導かれ、ダンフィールと出会うことになったのだ。
だからヴェリエルもフェリス王国とまではいかなくとも近隣にいるだろうと当たりをつけていたのだが、いまだに姿を現わさないことに不安に思っていた。『竜の祖』達は長寿であるが、番はそう言うわけにいかない。残念ではあるがその種族の寿命で天寿を全うするのである。だから番と出会えた時には、竜たちにとって最も眩しい時なのだ。
とある、屋敷にて____
椅子に座りながら椅子の肘掛に頬杖をついた女と、その女の横には男の姿があった。だが、影になっていて顔はよく見えない。
「ふふ・・・期は熟したか。そうだな、まずは手始めに、」
女はちらりと自分の横に立っている男に目を向けた。だがすぐに正面にいる男に視線を移した。
「ドラゴンスレイヤーのマスターが邪魔だな。」
「仰る通りです。」
正面にいた水色の髪の男は跪いていた。
「ふん、話の通りなら、私が出た方が早いな。だが、私とていっぺんに竜の相手をするのは少々骨が折れるからな。其方の案を用いて各個撃破と行こうか?」
「光栄です。マイマスター。」
跪いていた顔を上げた男は、赤い目に喜びを滲ませたイリスであった。
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