112:不協和音な一家団欒
セレスティアは、父セスと義母ジョアンナが再婚した当初は別に義母の事も、ソフィアのことも嫌いではなかった。幼かったセレスティアはむしろ仲良くしようと頑張っていたのだ。だが、前妻の子であるセレスティアが気に入らなかったジョアンナは、セレスティアに対して意地悪をしていたし、義妹であるソフィアも義母の悪い真似を習い、同じようにセレスティアに意地悪をしていた。そしてジョアンナはどうしてもセレスティアを遠くにやりたくて、幼い頃にセレスティアに無理やり縁談を画策したものの、イールことイシュタルとユージィンに寄って、その企みは実ることはなかったが、その企みを知ったセレスティはジョアンナとソフィアとは、距離を置こうと決めたのだ。嫌われている人に無理に好きになってもらう必要はないと、まだ幼かったセレスティアの中で、家族は父セスと兄のディーンと叔父のユージィンの三人だと思うようになったのだ。
セレスティアが10歳になった時には、希望通り騎士学校の寮へ入り、ジョアンナとソフィアのいる家には全然寄り付かなくなったことから、弟ショーンに会う機会はあまりなかった。だが、なぜかショーンはセレスティアを慕ってくるのである。セレスティア自身もショーンに特に何かをした覚えはなかったので、不思議であったのだ。
「ショーン、お勉強中だったの?だったら抜け出したらダメよ。ちゃんとお勉強しないと・・・」
「ご、ごめんなさい。僕も悪いことだってわかってる!だけど・・・」
「だけど?何か理由があるのね?」
セレスティアは、ショーンが何か理由があって、勉強中であるにも関わらず抜け出したということがわかったので、理由を聞こうとしたが・・・
「 う、うん。あのね・・「ショーン!早く戻りなさい!」」
だが、ショーンが言い切らないうちにジョアンナが口を挟んだ。ショーンはジョアンナの威圧的な声に、身体をビクっとさせ、おどおどしだした。
「なにがあろうと、抜け出すなんて言い訳がないでしょ!早く戻りなさい!!」
セレスティアはその言い分にカチンときた。セレスティアはスッとショーンとジョアンナの間に立ち、
「待ってください。それはあんまりではありませんか?」
セレスティアは間に入ったことで、ウッと一瞬怯んだものの、
「あ、貴方には関係ないことでしょ?口を挟まないで!」
ジョアンナは、負けじと言い返した。
「本当に関係がないのであれば、私も口を出したりしません。ですが実際ショーンは私の元に来るために、勉強中にも関わらず抜け出したのです。関係ないとは言わせません。」
セレスティアもキッパリと言い返した。
「だ、だけど!「ジョアンナ、いい加減にしないか。」」
その声は主はセスであった。
「で、ですが貴方、「いい加減にしろと言っただろ。」」
それでも、尚食い下がろうとしたジョアンナに対しての次のセスの声は一段と低い物になり、さすがにジョアンナは不味いと思った。
「・・・客人のいる前だ。控えなさい。」
「え?客人ですか??」
ジョアンナもソフィアも何のことかわかっていなかった。
「何を言っている?いるだろう。セレスの傍に。」
「え、え??」
セスが何のことを言っているのか、ジョアンナとソフィアは訳が分からなかった。
「あーごめん。俺、自分に『認識阻害の魔法』をかけてたから、俺の存在に気付いてなかったんだと思う。」
二人はまだわかっていなかったが、カイエルの声がしたことで、客人の意味が分かった。じゃ解くわ、とカイエルが魔法を解呪したところ、二人はカイエルの存在に驚いた。
「し、失礼しました!まさかお客様がいらしていたなんて!!」
「え・・・ステキ・・・」
カイエルが『認識阻害の魔法』を解呪したことによって、ジョアンナとソフィアは、カイエルがいたことにやっと気が付いたのだ。そしてカイエルを見るや否や二人とも顔を真っ赤にしていた。
「と、とんだご無礼を。わ、私はジョアンナ・ローエングリン、セスの妻にございます。」
「私はソフィア・ローエングリンと申します。セレスティア姉さまの妹でございます。」
二人とも、見事な淑女のカーテシ―を披露していた。その様を見てセレスティアは、こういうところは流石なんだけどな、と思っていた。カイエルは、興味無さげにしていたが、セレスティアから肘鉄をくらったことで、挨拶をしろっと言われたのがわかったので、渋々ながらも「俺は、」と自己紹介をしようとしたが、その前にセスが挟んだ。意図的にカイエルの言葉を封じたのだ。
「とにかく、ショーンは何か話があるそうだし、セレスティアはとは中々会えないからな、今回は大目にみてやりなさい。あと、私はまだ客人と大切な話があるから下がってなさい。」
「わ、わかりました。」
さすがにセスにそう言われては、それ以上返す言葉はジョアンナにはなかったので、セスの言う事に従うことにした。そして、ソフィアが顔を真っ赤にしながらボーっとカイエルに見惚れていたことを、ディーン以外誰も気付いていなかった。
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