97:ディアナの葛藤~前編~
ディアナは、信じられなかった。利用されていると分かってて敢えてそれを受け入れるなど。ダンフィールはどれだけバカなんだと思ったが、同時に大切なモノをディアナは思い出したのだ。
ディアナは獣人の豹族の集う村で生まれた。彼女の家は兄妹が沢山いて、両親は農家で生計を立てていた。耕す畑の土地があったので、なんとかその日暮らしができている状況ではあったものの余裕のある生活ではなかった。それでも家族総出で、兄妹の大きくなった者は自分も含め親の手伝いをして働いていたし、小さい者は家事を担っていたりと、各々が役割分担をして、裕福ではなかったが、笑いのある温かい家庭でディアナは育ったのだ。
だが、転機が訪れた。ただし悪い意味でだ。両親が持っていた土地を親戚に騙され取られてしまったのだ。そのせいで、ただでさえ裕福ではなかったところへ、一気に生活が困窮する事態に陥ってしまった。そんなところに、ディアナの両親の元に追い討ちをかけるように嫌な話が舞い込んだ。子供がたくさんいるのなら、口減らしのために奉公にださないか、というモノであった。兄妹の中でも一番器量良しであった、ディアナに白羽の矢が当たったのだ。当然ディアナの両親は断った。しかしディアナは自分が奉公に出ることで、家が少しでも楽になるのならと、親兄妹の反対を押し切って、奉公に出ることを決めたのだ。
ディアナは、獣人のトラ族の貴族の館で奉公に出ていた。暫くはメイドとして過ごしてはいたが、仕事に慣れた頃に、それは起こった。
「だ、旦那様、やめてください!」
ディアナは仕えている館の主人に襲われてしまったのだ。勿論はじめは抵抗した。しかし、脅されてしまったのだ。
「別に嫌なら構わないが・・・お前が断ると家族はどうなるだろうなぁ?」
「!」
ディアナが奉公することで、家に援助をしてもらっていた。だが、ここで拒否をしてしまえば・・・
「・・・いう事を聞きます。旦那様。」
「くく、分かればいいんだよ。」
ディアナに端から断る選択など初めからなかったのだ。ディアナは心の中で泣いていた。だが、身体はどんなに穢れようとも、絶対に心は屈しないと心に固く決めたのだ。
それまでは、定期的に家に帰ることもあったディアナではあったが、あんなことがあってからは、帰る頻度はめっきりと減ってしまった。合わせる顔がなかったことと、どんな顔をすればいいのか、わからなかったのだ。それに親に事情を話すこともできなかった。きっと言えば、親は兄妹はそんなことをしなくてもいいと、言ってくれるのはわかっていたし、悲しむことも目に見えていたからだ。だけど、しなくなったとしたら忽ち家はまた困窮してしまう。自分の下には、また弟や妹もいる。まだまだお金がかる時期だ。ディアナは弟や妹がせめて独り立ちするまでは我慢すればいいと思っていたのだ。
そんな時、真実を知ってしまった。その日は本来は非番であり、いつもなら外出をするのだが、この日はたまたま館にいたのだ。そして親をだました親戚が館に入るのをディアナは目撃してしまったのだ。嫌な予感が働き、ディアナはこっそり後を着けていった。それは、騙した親戚と館の主人が話をしている様子であった。
「いやぁ、お貴族様がディアナを見初めていただいたおかげで、こちらも懐が潤っています。」
親戚は下卑た笑いをして、トラ族の館の主に媚びを売っていた。
「くく、アレはいい仕事をしているよ。ただまだ反抗的ではあるが、何もうすぐ心も屈服するであろう。気が強いところは気に入っているがな。ああいう娘を従順にさせるのがまた楽しい・・・」
「お貴族様の元に、ディアナをお渡しした、私共の功労は忘れないでくださいよ~」
「ふむ、アレにまだ飽きないうちはな。」
「本当に苦労したんですよ~。お貴族様にディアナをお渡しする為に、あの家族の土地を騙し取るのは本当に骨が折れたんですから・・・」
「わかっておる!あと、その話はここではするなと言っておるだろう!誰かに聞こえたらどうするつもりだ!」
「おやぁ、すみません。お忘れになられては、私共の苦労がなかったものになってしまいますから、つい・・・」
ディアナの親戚は、しつこく恩にきせる為に、自分達が行ったことを都度話しているようだった。
(う・・そ・・)ディアナは今しがた聞こえた会話が聞き間違いでがないかと思いたかった。
え・・・何?私の・・・せいなの?ここの貴族が私を手に入れるために、両親の土地を奪い、私をここで奉公させたってことなの?
ディアナの中では、憎悪が渦巻いていた。(許さない許さない許さない許さない!!!)ディアナは許せなかった。そんなことの為に、自分の家族を追い詰めたこと、自分の純潔を奪われたことに、陥れた親戚やこの館の主が許せなかった。
「う~~~~っ!」
ディアナは裏庭で泣いていた。許せない、だけどどうすることもできない現実に、弱者はこのまま何もできないのかと嘆いていたそんな時だった。
「手伝ってあげようか?」
『あのお方』から声がかかったのだ。
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