90:急転
「姉貴、何を言っている、ディアナは俺の番だ。わかるだろ?」
「番・・・ねぇ?」
イシュタルはまるで見透かすような視線をディアナに放っていた。その視線にディアナは焦りを見せていた。
「そ、そうよ。私はダンの番なのよ!なんでそんな言い方をするの?」
ディアナとダンフィールはしっかりとお互いの手を握りしめ合っていた。
「姉貴と言えどディアナを侮辱するのは許さんぞ!」
先ほど引っ込めたばかりの威圧をダンフィールは再び、いや先程よりもさらに剣呑を帯びていたものを放っていた。
「くっ!」
イシュタルと一緒に部屋に戻ってきていたライモンドは、威圧を感じ取り後ずさりしていた。しかしユージィンは先程と同じく微動だにせず、ディアナが予想すらしていなかったことを指摘した。
「・・・僕としてはね、その腕輪よりも、彼女が付けている指輪に興味があるんだけどね。」
ユージィンはニコニコしながら、ディアナが人差し指に付けている指輪を見ていた。それは銀の指輪に紫の石が埋め込まれたモノだった。
「!!」
ディアナはまさか指輪の事に触れられると思っていなかったのでかなり動揺し、思わずソファから立ち上がった。
「指輪?何のことを言ってる?」
「?」
ダンフィールとライモンドはユージィンが何を言っているのかわからなかったが、イシュタルはユージィンの意を汲み取っていた。
「なるほどね、ソレを使っていたのね。」
「くっ!」
ディアナはこれ以上、この場でユージィンとイシュタルに言葉を続かせることは不味いと判断し、咄嗟に近くにいたライモンドの後ろを取り、首を締め上げた。
「ぐぅっ!」
「動かないで!!」
ユージィンとイシュタルもまさかいきなりライモンドを人質に取るようなことをされるとは思っていなかったので、出遅れてしまった。ディアナは腰に帯刀してた短刀をライモンドの首筋に当てていた。
「さすが、フェリス王国の竜騎士団団長といったところかしら?想像以上に厄介なようね。」
「で、彼を人質に取ってどうするつもりだい?」
「交換よ!!」
「交換とは、君が先程からいってる『アレ』のことかな?」
「それ以外にないでしょ?!」
ディアナはキッとユージィンを睨みつけていた。
「ディアナ、これは一体?」
ライモンドを人質に取ったのは計画していたことではなかったようで、ダンフィールも困惑しているのが見てとれた。ディアナは締め上げていたライモンドの耳元で何かの呪文を唱えた。一瞬、ライモンドは目を見開いたが、急激に睡魔に襲われてしまい、眠らされてしまったようだった。
「ダン、早く!早く行くわよ!」
「わ、わかった!」
ディアナに代わりダンフィールがライモンドを担ぎ上げ、二人は部屋から慌てて出て行った。
「ユージィン、追手は?」
「いや、相手は獣人と『竜の祖』だ。返ってケガ人が出てしまうからね、放置でいい。」
「で、でもライモンドが!」
イシュタルは、ライモンドの身を案じていたが、
「彼女は僕を交渉の場に、引きずりだしたいだろうからね、ライモンドの身の安全は大丈夫だと思うよ。それにライモンドは竜騎士だ。柔な男じゃないよ。」
ユージィンはイシュタルを抱きしめ、イシュタルを安心させようと頭を優しく撫でていた。
「ユージィン・・・」
「大丈夫、すぐに何かしらのコンタクトを取ってくるよ。余程アレが欲しいみたいだからね。」
「一体、何のために・・・」
「そうだね、まさか番の真似事をしてくるとは、僕も思ってもみなかったよ。」
ユージィンはイシュタルを抱きしめながら、事は単純ではないだろうと思っていた。
「さて、交渉はさておきダンフィールをどうしようかってところだね。」
「そうね。獣人の女はどうでもいいけど、ダンは厄介ね。」
獣人相手なら、身体能力は高いといえど、ユージィンはそれほど厄介な相手だとは思ってはいなかった、だが、ダンフィールは『竜の祖』であることから、別格である。できればイシュタルの弟である彼を傷を付けるような真似はできるだけしたくはないと、ユージィンは考えていたが・・・
「ユージィン、私のことなら気にしないで。」
「え?」
「貴方はなんだかんだいって優しいのは知っているわ。だから私に気を使わなくていいのよ。」
「イシュタル・・・」
イシュタルは気付いていた。ユージィンが弟ダンフィールを傷つけたくないのは偏に、イシュタルに悲しんで欲しくないであろうということに。
「イシュタル・・・やはり君には敵わないね。」
そう言うと、ユージィンはイシュタルにキスをした。
「もう、こんな時に。」
そう言いつつも、イシュタルも素直に受け入れていた。
「ふふ、ごめんね。」
「私達は頑丈だから、滅多なことではどうもならないわ。だから気兼ねなくしてくれたらいいのよ。」
「わかった。ではお言葉に甘えようかな。」
いきなり、竜騎士団に乗り込んでくるような輩なことから、早々に向こうから何かしらのアクションがあることは疑う余地はなかった。
(事は単純ではない。なぜ『アレ』を必要としているか、問題はそこだな・・・)ユージィンは、ある可能性を見出してはいたが、できれば杞憂であってほしいと願っていた。
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