85:来襲

竜騎士団支部団長室___




 「へぇ、獣人の二人組がねぇ・・・」


 「はい、閣下に拝顔したいと願い出ておりますが、いかがいたしましょうか?」


 「なるほどねぇ、ふふ、直接乗り込んで来るとはね。」


 ユージィンは面白そうに口角を上げていた。だが目は笑ってはいない。


 「え?」


 ユージィンの呟きがよく聞こえなかったので、部下の竜騎士は聞きなおそうとしたが、ユージィンは、別に聞いてもらいたい訳ではなかった。それよりも堂々と乗り込んできた、例の獣人の女と『竜の祖』の対面をある意味楽しみにしていた。


 「いいよ、お通しして。」


 「はっ!」


 部下の竜騎士は、退室した。それを見届けてから、ユージィンはライモンドに声をかけた。


 「ライモンド、すまないがイシュタルを厩舎から呼んで来てくれないかな?」


 「え?ですが・・いいのですか?」


 ライモンドはユージィンが仕事中でイールの事をイシュタルと呼ぶことがなかったことから、人化したイシュタルをここ(団長室)に連れて来いっていってることを瞬時に理解した。ただ理解はしたが、本当にいいだろうかと、心配になったのだ。何せ今までここ、竜騎士団支部で少なくとも公にはイシュタルは人化したことはなかったからだ。


 「あぁ、構わない。」


 それにユージィンはわかっていた。敏い彼女の事だから、もう準備はしているだろうと。


 「わ、わかりました。呼んできます。」


 ライモンドは慌てて、イシュタルを呼びに行った。


 「ふふ、感動の姉弟のご対面だね。どうなることやら・・・」


 ユージィンは、面白そうにはしていたが、やはり目は笑ってはいなかった。







竜の厩舎___


 『!』


 『わかったようね。』


 イールは、近くにダンフィールが来ていることを察知していた。

 

 『あぁ、直ぐ傍に来ているな。』


 カイエルも同じく気配を感じていた。


 『じゃ、私はちょっと行ってくるわね。』


 『え?』


イールはそういうと、途端にイシュタルに人化した。


 『会いに行くのか?』


 「えぇ、久しぶりのご対面よ?それにダンフィールの番(つがい)にも興味あるじゃない?カイエルも来ない?」


 『ふーん、俺はいいや。』


 カイエルは即答だった。


 「あら。つれないのね?」


 『兄貴の番(つがい)なんざ俺、興味ねぇもん。それに兄貴とは会う必要性があれば、必然とそうなる、違うか?』


 「ふふ、その通りよ。」


 『姉貴、わかってると思うが、気をつけろよ?』


 カイエルも何かを感じていた。そしてそれがあまりよくないモノだということも。


 「ありがと、お気遣い痛み入るわ。あら、お迎えが来たみたい。行ってくるわね。」


 『あぁ。』


 イシュタルは『認識阻害』の魔法を自分が先程までいた場所にかけていった。この魔法によって、イールがいなくでも、イールを気にするという事がなくなるので、いなくても騒ぎにならないのだ。カイエルはライモンドに連れられていく姉を見送ったが、先程はあぁは言ったものの、あまりよくないモノも感じ取っていたことから考えを巡らせていた。(率先して会うつもりはねぇが・・・セレスティアに関わることになるのなら、話は別か・・・)  





再び、竜騎士団支部団長室__



 「はじめまして、団長さん♪私は獣人の、豹族。ディアナ・アンテスって言うの。以後お見知りおきしてね♪」


 猫耳、もとい豹の耳をもった獣人の女は、上目遣いでユージィンを見ていた。ユージィンは猫耳と聞いてはいたが、実際は豹だったのだなと、認識を改めた。


 「俺は、もうわかってはいると思うが、『竜の祖』ダンフィールだ。お前がイシュタルの番だな。」


 男は報告にあったように、褐色の肌のダークブロンドの短髪に緑色の目を持つ、容姿の整った偉丈夫であった。


 「これはどうも。僕は竜騎士団団長、ユージィン・ローエングリンと言います。イシュタルの弟さんですね。初めまして。」


 ユージィンはにっこりと社交辞令でお迎えしたのであった。

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