72:カルベルス王国の滅亡~⑭~(過去編)

 カルベルス王国は、カイエルの放った呪文により一夜にして壊滅状態となってしまった。城を中心とし、王都からその近隣までが液状化してしまい、建物と人々を飲みこんでしまったのだ。全員が亡くなった訳ではなく、王国の端ほど被害はほぼなかったが、国の中心部が建物ごと無くなってしまった為、事実上国としては成り立たなくなってしまったのだ。再建するにも、土壌が液状化していることから適わなかった。


 王族であった、ロレンシオ王とユリアンヌ王女は亡くなり、王妃も城にいたために同じように地中に飲まれてしまい亡くなっていた。唯一、息子であった王子はたまたま外交で他国にいたために、生き残ってはいたが、肝心の国が無くなってしまったことにより、後ろ盾がないことも再建も適わぬことから、復興させることは不可能となってしまったのだ。

 液状化を免れた国の辺境にあった市や村にいたっては、近隣の諸国の領となり、カルベルス王国は地図から消えることになってしまった。それに伴い、六大国家から五大国家となってしまったのだ。




 カイエルは人型になっていた、カルベルス王国の隣接しているブレストン山から、無くなってしまったカルベルス王国を見て佇むいでいた。


 「・・・・気は晴れたのか?」


 カイエルの直ぐ上の兄のヴェリエルがカイエルに問いかけた。ヴェリエルは、水属性の『竜の祖』で、青みがかかった藍色のストレートの長い髪に青眼の美丈夫ではあるが、姉弟の中では一番冷静な男であった。


 「辛い気持ちはわかるが・・・やりすぎだカイエル。」


 ヴェリエルの直ぐ上の兄、ダンフィールが咎めるように言った。ダンフィールは、土属性の『竜の祖』で唯一、褐色の肌を持ち、ダークブロンドの短髪、カイエルと同じ金色の目をしていた。ガタイもよく、いかつい風貌ではあるものの、『竜の祖』はこぞって美男美女であるため、皆顔は整っていた。


 「カイエル、貴方が悲しくてやりきれない気持ちなのはわかるわ・・・だけどね、これでは本末転倒よ。それに、きっと貴方の番はこんなことをしても喜ばないわ。」 


イシュタルはカイエルに言い聞かせるように、優しく言ったが、


 「うるせぇ、姉貴に俺の番の何がわかる!!」

  

 カイエルは、姉イシュタルの言っている意味が分からない訳ではなかったが、それを素直に受け入れる心境ではなかった。


 「彼女はきっと輪廻の海を渡ってまたお前の前に現れるよ。」


 ラーファイルはカイエルを慰めるようにいった。


 「もう、いらねぇ!!」


 カイエルの言葉に他姉弟はギョッとした。


 「こんなに苦しいなんて!こんな思いをするくらいなら、俺はもう番なんていらない!」


 カイエルは、エレノアを心の底から愛していた。だからまた失った時の喪失感を考えると、また番に巡り合いたいという気持ちになれなかったのだ。


 「何を言ってるの・・・それでは役目が・・・」


イシュタルは窘めようとしたが、


 「うるせえ!俺に指図するな!!俺は、まだ気が済んだわけじゃないんだ!こんな、こんな世界なんか無くなってしまえばいい!何度繰り返せばいいんだよ!」


 「お前は属性が近いから、引き摺り込まれやすい傾向があるのかもしれない・・・」


 ヴェリエルは、カイエルが自棄になっているのは、番を喪失しただけではないのだろうという見解を示していた。


 「知った風なことぬかすな!!!エレノアのいない、こんな世界!お前らも一緒に、葬り去ってやってもいいんだぞ!!!」


 カイエルは、姉兄達を睨みつけ言い放った。


 「・・・カイエル今の言葉を撤回するならば、妾も大目に見てやるぞ。お前が今の言葉を有言実行するならば、我らも黙っている訳にはいかんのでのぉ。お前に封印をしなけらばならなくなるのじゃ。」


 アンティエルは、カイエルがこれ以上暴れるなら、封印も辞さないと警告した。


 「俺に指図するなっていっただろ!お前らもカルベルス王国と同じ目に合わせてやる!」


 カイエルはいきなり上位の攻撃魔法をアンティエルに放ったが、アンティエルは目の前に結界を展開し、攻撃魔法は霧散した。

 

 「ちっ!」


 「・・・ふむ、少し痛い目に合わないとわからないみたいじゃのう。」 


 長女アンティエルの言葉により、他の4人の姉弟も臨戦態勢に入った。

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