62:カルベルス王国の滅亡~④~(過去編)

 エレノアは確かに不義の子ではあったが、母親似の見目美しい娘と成長したことから、政略結婚の王女として謙遜はなかった。ロレンシオ王もそれを見越しての挿げ替えであったのだが、それは実物を見てからの話であり、そもそもが見た目の話ではない。当然この花嫁の挿げ替えについては、ペルニツァ王国にすればカルベルス王国に対しての心象がかなり悪くなってしまったのは、エレノアの懸念していた通りになっていた。


 


 「なんだと?小国のくせに生意気な!」


 ロレンシオ王はペルニツァ王国からの返書の内容を見て激怒していた。だが、ペルニツァ王国の言い分は、第三者が聞いても最もな内容であったのだ。エレノアに婚約者が変わる旨の通牒を受け取ったペルニツァ王国は反論をしてきた。当初と約束が違う、一体どういうことなのかと。当初の約束を反故されたペルニツァ王国は、アーレンベック国より下に見られたと受け取ったのだ。このままであれば、協定の話はなかったものにするか、今まで行われてきた貿易についての中身も今一度見直さなければならない等、かなり強気な内容で返書には記されていた。


 「おのれ!優しくしておれば、調子に乗りおって!」


 ロレンシオ王は返書を感情のまま握り潰し、ワナワナと怒りで震えていた。重鎮たちは、王がいつ癇癪を起こすかわからない状況ではあったが、言わない訳にもいかず、大臣の一人が意見具申した。


 「王よ!せ、僭越ながら申し上げます。ペルニツァ王国の言い分は最もでございます。事が大きくなる前にやはり当初の予定どおり、ユリアンヌ王女をペルニツァ王国に嫁いでいただくのが、得策ではないかと!」


 きっと、王はさらに激高するであろうとはわかっていたが、重鎮として、国の未来を考えれば言わないという選択肢は大臣にはなかった。


 「貴様ぁ・・・誰にモノを申しておる!!」


 皆の予想通りロレンシオ王は激高した。実はロレンシオ王自身、彼の中でも全くわかっていない訳でもなかったのだ。だが、六大国家の一員の大国としてのプライドがあったこと、可愛い娘のお願いもあったこと、実際に上手くいけばペルニツァ王国とアーベンレック国の二つの国の後ろ盾ができるのであれば、良い事ずくしではないか?と見通しの甘い見解をしてしまったことが、結果として見事に外れてしまったという訳だ。


「えぇい!皆の者散れ!!」


 結局、この日はロレンシオ王の癇癪が治まらず、重鎮が集まったものの何も決まらずに散会することになってしまった。


 





 エレノアは、自室にて溜息を付いていた。(カイエルに会えなくなってどのくらい経っただろう・・・。)軟禁状態になって三週間ほどが経ち、この頃にはエレノアは、カイエルと待ち合わせの方向を眺めるのが日課となっていた。


 そして誰もいない部屋で、エレノアはカイエルに会いたいのに会えない寂しさで押しつぶされそうになっていた。(カイエル、会いたい、会いたいのよ!)


 「なんだ、それならもっと早く来れば良かったな。」


 「?!」


 エレノアは一瞬幻聴かと思ったが、声をした方に振り向いてみれば、本来であれば、いるはずのない人物が開いた大きな窓の傍で笑顔で立っていたのだ。


 「カイ・・エル、どうして?」


 エレノアは信じられないものを見た目で、驚いていた。


 「俺に会いたいんじゃなかったのか?」


 「そ、そんなこと、会いたかったに決まってるわ!」


 エレノアは言うと同時に駆けだしてカイエルに向かっていった。それをカイエルは抱きとめ、エレノアを抱きしめた。エレノアはカイエルに会えた嬉しさで涙が止まらなかった。


 「俺もだ。俺もエレノアに会いたかった!ごめんな。もっと早く来れば良かった。なんか忙しいそうに何かをやってるから邪魔しちゃいけないのかなって思ったんだけど、エレノアが悲しんでるから、俺もう我慢できなくて。」

 

 「カイエル!カイエル!」


 エレノアは、まさか会えると思っていなかったカイエルに会えたことに、そして抱きしめられていることに今まで一番幸せを感じていた。カイエルもしばらく会えなかった寂しさで、エレノアを逃がすまいと両手でがっしりと抱きしめていた。そしてカイエルは少し落ち着いたトーンで、思い詰めたように話を切り出した。


 

 「俺・・・エレノアに言わなきゃいけないことがことがあるんだ。」


 「言わなきゃいけないこと?」


カイエルは抱きしめていた腕を緩め、エレノアの顔見つめた。

 

 「俺の目、わかるだろ?」


 「うん・・・瞳が縦長よね。」


 エレノアはカイエルの瞳孔だ縦長であることから、普通の人ではないであろうことは気付いていた。それは、教会の神父も気付いていて、


 『エレノア、カイエルはきっと何か訳アリかもしれないが、それは細やかなことだ。彼が何をしているかで、判断しなければいけないよ。』

 

 エレノアは神父の言いたいことはよくわかっていた。カイエルはぶっきらぼうではあるが、教会の子供たちの面倒はよくみてくれたし、エレノアがすることにも不器用ながらに進んで手伝ってくれていたのだ。エレノアにはそれが全てであり、カイエルがどこの誰であろうと、どうでもいいことだったのだ。

 

 「エレノア、俺は『竜の祖』黒竜のカイエルだ。そしてお前は俺の番(つがい)なんだよ。」


 「え?竜?って、え?番?」


 エレノアはカイエルが普通ではないとは思っていたが、まさか竜と言われるとは思っていなかったので驚いた。そして番とも言われ、頭が全く整理できていなかったのだが、


 「あぁ、番だ。俺の唯一・・・。」


 そういうカイエルの顔はうっとしとして色気を放っていたものだから、エレノアは真っ赤になっていた。

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