33:竜の就任式~①~

 竜の御目通りから2か月、今日は新人騎士たちの就任式だった。


 竜騎士達は、他の騎士たちよりも騎士学校卒業前から、既に騎士として働いていたが、他の聖騎士団・近衛騎士・王宮騎士団に配属される新人騎士たちは本日の就任式の後に配属となり、社会人としての第一歩となるのだ。


 それぞれに制服や鎧の色は異なり、聖騎士団は白を基調とし、近衛騎士は赤、王宮騎士団は青、そして竜騎士団は黒を基調としているので、どこに所属しているのかは一目瞭然であった。

  

 就任式はパレード形式になっており、主に王宮の外堀の周りを馬に乗って行進をするのだが、竜騎士達は、飛竜にのって『竜の祭壇』から王宮まで飛んで登場するのが習わしだった。その様が圧巻であることから『竜の就任式』として世間では認知され名物となっており、竜騎士と飛竜を見たいがために、自国民だけでなく、他国からも観光に来ることから、お祭り騒ぎとなり、観光名物の一役を買っているというわけである。  

 そして、今年はセレスティアという初の女竜騎士が誕生したということで、さらに世間では賑わっているのであった。


 新人竜騎士達は『竜の祭壇』にいた。

 ここから羽ばたいて、王宮まで飛ぶことになっているのが、就任式のコースとなっていた。祭壇の観客席には既に観客で賑わっていた。補足をしておくと、以前『竜の御目通り』でカイエルが破壊した観客席は突貫工事で修復は終わっている。

 『竜の祭壇』の控室には新人騎士たちとユージィンがいた。副官のライモンドは王宮で待機している。

 

 「セレスティア緊張してない?」


 テオは心配そうにしていた。


 「大丈夫よ。騒がれるのは想定済みだからね。」


 「ん-ならいいけどさ。」


 テオは、セレスティアが大丈夫と言うなら、それ以上は言うまいとあっさりしたものだった。


 「セレスティア、無理、するなよ・・・」


 ケヴィンは普段無口だが、さすがに心配だったようだ。


 「ケヴィンありがとう。」


 ケヴィンから珍しく声を声けられたので、セレスティアはちょっと嬉しかった。


 「ったく、めんどくさいよなー。なんでこんな見世物みたいな真似しなきゃなんねぇのか。こんなことする為に騎士になったんじゃねーつーの。」


 ノアベルトは家は侯爵家の割に、形式ばったことが嫌いだった。


 「はは、しょうがないよ。こういう形式ばったことも時には必要だからね。」


 ルッツは、真面目だった。


 「僕は緊張で吐きそうだよ・・・」


 ハインツは、プレッシャーからか確かに顔色が悪かった。


 「ちょ、ちょっと、大丈夫?」


 セレスティアは流石に心配になり、ハインツの元へ駆け寄った。


 「ごめん、心配かけて。ちょっと外の空気吸ってくよ。」


 「ま、気持ちはわからないでもないなー」


 ノアベルトは控室から出ていったハインツを見て後ろからそう言うが、お前は違うだろ、とノアベルト以外の全員が思った。


 「満員御礼って感じだね。」


 ルッツは小窓から観客席の様子を見て、そう言った。


 「ま、今回は目玉がいるからな。」


 ノアベルトがそういうと、一斉にセレスティアを見た。セレスティアは何かをした訳ではないが、何となく少しバツが悪い気持ちになった。


 「でも、毎回こんなんじゃないの?」


 テオがそう言うと、


 「ふふ、そうだね。飛竜なんて早々に見られるものじゃないからね。毎年満員御礼だよ。」


 言いながら控室にユージィンが入ってきた。後ろからは先ほど出て行ったハインツも着いてきていた。


 「だ、団長!」


 ノアベルトは実はかなり姿勢を崩して座っていたのだが、ユージィンを見て慌てて立ち上がった。


 「敬礼!!」


 ルッツが言うと、全員がそれに習って拳を作った片手を胸に当てた。ユージィンは新人竜騎士達の前に立ち、話し始めた。


 「さて、と。もうじ君たちの就任式が始まる。人も沢山見に来ているからね。緊張するのはわからないでもないけど、何、君たちのいつもの練習の成果を見せてやればいい。まぁ最悪は人のいるところに落ちなければいいよ。」


 団長であるユージィンの言葉が思っていた以上に軽かっただけに、皆緊張していたのが少しほぐれた。






同じ頃____


『竜の祭壇』の竜厩舎にて、



 ユージィンと同じように、イシュタルこと、飛竜のイールは今回の新人竜騎士達の飛竜に向かって活(脅しともいう。)を入れていた。


※以下は竜だけがわかる言葉で話しています。


 『いい、貴方たち!今日の就任式は失敗するんじゃないわよ!もし失敗なんてしたら、私のブレスをお見舞いするからね!』


 実は飛竜たちは、イールとカイエルがただの飛竜ではなく、『竜の祖』であることはわかっていた。


 『は、はい!肝に銘じております!』


 他の飛竜も頷いていたが、


 『けっ、俺が失敗するわけねぇだろ!』


 カイエルは例のごとく悪態を付いていた。


 『カイエル、あんたはしんがりを務めるんだから、油断するんじゃないわよ!セレスティアの晴れの舞台なんだからね!』


 此度の行進では、先頭はユージィンの駆るイール、その後ろに新人の竜騎士が並ぶのだが、実は並行しながら飛ぶのはかなり難しいのだ。先頭にイール、その後ろにウリクルとランカ、その後ろにソールとシーラ、その後ろにフィンとカイエルが並ぶのである。


 『か、カイエル様、練習通りよろしくお願いします。』


 カイエルに並んで飛ぶのはハインツの相棒フィンだ。


 『おぅ、遅れをとるなよ』


 『は、はい。』


 『ちょっと、その子は私の眷属なんだからね!ぞんざいに扱ったら許さないわよ!』


 フィンは火属性の飛竜だからである。


 『るせーな!何もしてねぇだろ。』


 『あんた記憶がないくせに性格かわってないわね!』


 その様子を見ていた飛竜たちは、


 『イシュタル様とカイエル様、仲がいいのか悪いのか・・・』


 『俺は仲がいいと思ってた。』


 『僕も』

 

 『俺も』 


などと、飛竜たちの間で繰り広げられていることを、竜騎士達は知らなかった。

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