32:溜息

 カイエルの飛竜化については、難なく解決した。イシュタルの指導の元、あっさりと飛竜に戻ることができたからだ。


 その後は、ユージィンの助力が大きかった。

 何せカイエルは勝手に龍の厩舎から抜け出したものだから、このままでは竜の厩舎の責任者がその責を問われてしまう。セレスティアはカイエルの勝手な行動のために、責任者に罰則を負わないようにユージィンにお願いをした。


 「勿論わかっているよ。」


 おかげで、竜の厩舎の責任者は責を問われることはなくなった。カイエルが脱走したのは相棒たるセレスティアを思うが故の暴走(ここは、そのまま事実である。)であったが、他に危害は何もないことから、お咎めはなしということになった。人化の件は、今のところ国には報告していない。それはユージィンも以前からイシュタルの事は黙っていたからだ。


 竜騎士団本部、団長室にて____



 「叔父様、じゃなかった、団長ありがとうございました。」


セレスティアは深々と礼をした。


 「ふふ、さすがに厩舎の責任者が可哀想だからね。それに実は僕も似たようなことがあったんだよ。」


 「団長も?」


 「あぁ、僕が竜騎士に成りたての頃にね、イールが厩舎を抜け出したんだ。」


 「イシュタルさんが・・・」


 なるほど、『竜の祖』は皆同じようなことをするのだなとセレスティアは思ったが、


 「まぁ、だけどそこはイールだからね。ちゃんと目暗ましの魔法をかけていったから、抜け出したこと事態バレてはいなかったけどね。」

 

 こういうところは、爪の甘いカイエルとは違ってイシュタルは流石だなとセレスティアは、感心した。


 「うん、やっぱりカイエルとは違いますね。」


 セレスティアは、きっぱりと言ってのけた。




 その頃のカイエル______


竜の厩舎にて


 『ギャッフン!』


 「うわ、カイエル風邪でも引いたのか?」


 厩舎を掃除していた清掃員が、カイエルのくしゃみに気遣っていた。


 『・・・・』


 カイエルは絶対何か悪口的な事をどこかで言われていると確信していた。『竜の祖』らはこういった勘めいたものは、百発百中で当たるのだ。


 「・・・ま、大丈夫そうだな。」 


 清掃員は引き続き掃除をしていた。









 「はぁ~」


 「あれ?セレスティア、また溜息?」


 「え?」


 「最近よく、溜息ついてるよね?何か悩み事でもあるの?」


 今この時間は、団員のみで訓練をしていた。ハインツから指摘をされ、セレスティアは焦った。


 「え?そんなにしてた?」


 「うん、僕だけでなく他の連中も気にしてたよ?何か悩みがあるんだったら、相談にのるよ?まぁ無理にとはいわないけど・・・」


 そんなに態度に出ていたのかと、セレスティア反省した。


 「ううん、ただ就任式がもう間近だから緊張してただけ。懸念事項はあるのよ。」


 「懸念事項?」


 セレスティアはカイエルの事で悩んでいた。だが、それを言う訳にはいかなかったので、もう一つの懸念事項である王子のことを言っても差し支えないだろうと思い、ハインツに話すことにした。


 「就任式には王族も来るでしょ?できれば王子には会いたくないなーと」

 

 「あぁ、そういえば卒業パーティの時、踊っていたよね。やっぱりあの時何か言われたの?」


 「うん、また会いたいし、また会えるだろうって。」


 「えらい、意味深だね。」


 ハインツも、王子の言葉に驚いていた。


 「でしょ?」


 「まぁセレスティアは初の女竜騎士だからね、もしかしたら、失礼だけどプロパカンダ的な意味合いで、王族から狙われることは考えられると思うよ。」


 ハインツは頭が切れる、言われたことも確かに説得力はあった。


 「なるほどね・・・だけどあまり嬉しい物ではないわね。」


 「まぁでも僕たちは5年の縛りがあるからね、王族も無茶はできないんじゃないかな?」


 「そうね、そうであって欲しい。」


 「第二王子って僕たちの2つ上だったよね、5年も待ってたらいい年になっちゃうから、それまでに、どこぞの貴族の令嬢と婚約とかすると思うよ。」


 ハインツの言うとおり、子供の頃ならともかく、成人してから5年も待つとは考えにくいなと、セレスティアも思った。


 「そうね、少し自意識過剰になってたかも。ありがとうね、ハインツ。」


 「いや、大したことは言ってないよ。」 


ハインツは、セレスティアに相談されて悪い気はしていなかった。



 

 セレスティアは、今後のことを人化したカイエルと話しをしたかったのだが、就任式の準備や訓練などでバタバタしており、あの初めて人化した日以来、人化したカイエルとはじっくり話す機会がなかったのだ。


 そうこうしている内に就任式はもう直前に控えていた。

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