21:騎士学校卒業式

 セレスティア達は騎士学校の卒業式を迎えた。


 セレスティアは卒業時には18歳となっていた。10歳から8年間在学していたのだ。彼女は騎士学校へ入学してからは、兄ディーンと同じように大きな休みにしか実家に帰らなかったので、ジョアンナやソフィアとはあまり顔を合わせる機会はめっきり減っていた。これには、セスが縁談騒ぎの時に、ジョアンナやソフィアとの確執が浮き彫りに出たために、セスも無理に帰るようにとは言わなかったからだ。その甲斐もあってか、嫌がらせをされる頻度はめっきりと減っていた。(全くなくなった訳ではない。)

 

 セレスティアは卒業証書を手に、学校の門を出たところで振り返り校舎を見ていた。(もう、ここに通うこともないんだな。長かったような短かったような・・・友達はあんまりできなかったけど、この学校には助けられたわ。おかげで家に帰らなくてもいい口実もできたし、それに通えたからこそ竜騎士にもなれた。感謝しないとね。)セレスティアは残念なことに、確かに友人はあまりできなかった。理由は異性絡みで、セレスティアが意図せずともモテてしまうことで、同性の女性からの妬みを買ってしまったからだ。異性とは、仲良くなると恋愛感情を持たれてしまうことから、本人もゴタゴタが面倒になりボッチが気楽になってしまったのだ。しかし彼女の目標はあくまで竜騎士になることだったので、青春といった意味で物足りないかも知れないが、勉学や訓練に没頭できたことは良かったと思っていた。


 周りを見れば、別れ行く友人たちと涙ながらに語らう者、笑いながら語らう者などの顔があった。今後の進路は、王宮騎士になる者もいれば、神殿で守護騎士になるもの、高位貴族の専属騎士になる者など、この卒業式を期にそれぞれの道へと進むのだ。そんな思いに耽っていると、唐突に声をかけられた。



 「セレスティア、卒業おめでとう!」


 声の主ははルッツだった。


 「おめでとうって・・・貴方もじゃない。」


 ルッツは同級生であり、職場では同期なので手には当然卒業証書を持っていた。

 

 「はは、まぁそうなんだけどさ。」 

 

 「ルッツも、おめでとう。」


 「あ、あぁありがとう。」


 ルッツは、セレスティアと話すことができただけで内心は喜んでいた。


 「あ、あのセレスティアは今日のプロム出るんだよね?」


 「えぇ、一応ね。欠席できるものならしたかったのだけど・・・」


 「はは、セレスティアらしいね。やっぱりエスコートはお兄さん?」


 「えぇ、兄のディーンにお願いしたわ。」

   

 「あ、やっぱり、そうなんだ。も、もしできたらなんだけど。」


 「?」


(いうんだ!ルッツ、男だろ!)ルッツは自分で活を入れ、伝えたかったことをセレスティアに告げた。


 「ダンス!プロムで1曲踊ってもらえないかと!」


 ルッツはエスコートは諦めたが、ダンスは諦めていなかったのだ!


 「・・・ダンス?」 


 だが、セレスティアは王子の事があったので、「ダンス」という言葉に反応して、不穏な空気を漂わせた。


 「あ・・・え・・・と」


 そしてルッツは空気の読める男だったので、「ダンス」という単語はセレスティアとってNGワードであると瞬時に理解した。


 「ご、ごめん!嫌ならいいんだ!聞かなかったことにして!じゃじゃあ、これで!」


 ルッツはショックを受けた自分の顔を見られまいと、慌ててセレスティアの元を去ろうとしたが、


 「待って!」


 セレスティアも慌てて、ルッツの手首を掴んだ。


 「え?え?」


 ルッツはセレスティアから掴まれたことに、戸惑いがありつつも、嬉しかった。


 「ごめんなさい。そういう意味じゃないの。誤解をさせてしまったのなら謝るわ。」


 「え?どういうこと?」


 ルッツもセレスティアに何かしらの事情があるのだなと察した。


 「何かあったの?」


 「そうね、誤解されたら嫌なので、事情を先に言っとくわ」


 そして、セレスティアは王子と踊らなけれないけなくなった経緯を説明した。



 「うわ~それって・・・。」


 ルッツは、心底同情した表情を浮かべていた。


 「面倒でしょ?それがあったらダンスという言葉に敏感に反応しちゃったの。ルッツの事が嫌いとか、そう言うのでは全然ないから。むしろルッツとダンスなら歓迎だから。」


 「え?!歓迎って!!」

 

 ルッツはセレスティアの言葉に一瞬期待をするも、


 「そりゃ勿論仲間ですもの。仲間からの誘いを嫌がる訳がないわ。」


 「・・・あ、そうだよね。」


 淡々とした表情のセレスティアは反対に、なんとも落ち込んだり、喜んだり、悲しくなったりとコロコロと表情の忙しい男であった。

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