18:ヤキモチ焼きの飛竜

 カイエルは機嫌が悪かった。かの飛竜はふて寝ポーズで寝そべって、平たく言うと身体全体で『フン!』といった風にまるで拗ねているようであった。ある意味わかり易かった。そういった様子だったので、セレスティアはもしやと思いつつも聞いてみた。


 「んーと、カイエル怒ってるの??」


 『グウ』


 カイエルは不機嫌そうに唸っていた。


 「・・・えーと、まさかとは思うけど、昨夜飲み会に行ったことで拗ねてるの?」


 『グウ』

 

 今度はカイエルは唸るとソッポ向いてしまった。まるで知らない!とでも言ってるかのようであった。その様子を見たセレスティアは、なんだか笑いが込み上げてきた。


 「ふふ・・・やだ・・・あはははは!」


 『ギュルルル!』


 何がおかしい!とでも言うかのように、抗議の唸り声をカイエルは発していた。


 「ほんと、カイエルは焼もちやさんね。」


 『ギューーギャウッ!!』


 なんだと!っと言ってるかの鳴き声であったが、それも直ぐに治まった。

何故ならセレスティアがカイエルの頬にそっと寄り添ったからだ。セレスティアは、真っ黒なのに、気のせいか顔が赤くなってるように見えるわね。と思いつつ、言葉を続けた。


 「私のこと信じてくれてないの?カイエル」


 『ギュ・・・』


 それは・・・と、言ってるかのように明らかに言い淀んでいるようであった。


 「私言ったよね?お金貯めたら二人で暮らそうって。信じてくれないの?」


 『ギュー・・・』


 そう言うわけじゃないけど、と言ってるようにセレスティアには感じとれ、


 「なら、焼もちはここまでよ、カイエル。今回の飲み会だとか、訓練でも団員とはやり取りすることは頻繁にあるのよ。それも仕事を円滑に回す為に必要なことなんだからね。だからそんなことでいちいち怒ってちゃ身がもたないわよ?それにね、私を夢中にさせた男は後にも先にもカイエル、貴方だけなのよ。だから自信持って!」


 セレスティアは諭すように言うべきことはきっちりと伝えつつ、最後は持ち上げていた。ある意味できる女である。そしてカイエルはまんまとソレに乗っていた。


 『ギューーー!』


 カイエルは寝転んでた体制から起き上がり、何とかもおだてられたら木に登る状態で、機嫌をすっかりとり戻したようだった。


 「ふふ、カイエルったら可愛い♪」


 だけどそんな様子はセレスティアにとっては堪らないものだった。端から見れば、バカップルである。その様子を見ていたハインツとテオも訓練の準備の為に竜の厩舎に来ていた。


 「何て言うか、飛竜相手なら恋愛禁止にはならないのかな?」


 「ならないんじゃない?」


 「・・・そうか。」


 まだ短期間ではあるが、セレスティアを観察していたハインツはわかった。彼女は人といる時は確かに無表情が多いのだが、(とはえいえ、昨夜の一瞬だけ見せてくれた笑顔にはかなりドキリとしたけど、と思いつつ)飛竜と接している時は、普通の女の子にように表情がコロコロと変わるのだなと。


 「なるほどな、飛竜限定ってわけなのかな?」


 「何が?」


 「いや、何でもない。」


 「そっか。」


 テオは良くも悪くもあっさりした男だった。


 などといった、のほほんとしたやり取りをしていたが、またもや一悶着起こることになるとは、この時は皆思っても見なかったのだ。

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