17:親睦会~後編~
「そういやさ、皆は竜の名前はなんて付けたの?ちなみに俺はウリクルっていうんだ。」
パートナーとなった飛竜はバディである竜騎士達が名付けるのだ。そしてノアベルトの飛竜は風属性である。
「俺はソールって付けたよ。」 ルッツは土属性の竜だった。
「フィンだね。」ハインツは火属性の竜だ。
「シーラ」テオは水属性の飛竜だ。
「・・・ランカ」
珍しい光属性の飛竜のパートナーは、口数の少ないケヴィン・フォルツで黒髪にヘーゼル色の瞳の男だ。家は男爵家の三男であるが、仏頂面に加えてかなり無口だった。実はセレスティアはこの男の事は知っていた。とは言っても学校で話したことはない。何せケヴィンは無口のせいなのか、あまり他人とはつるむことはなく、いつもボッチだったので、セレスティアも同じくボッチだったことから、勝手に親近感があったのだ。
そしてセレスティアの番になり、
「私の竜はカイエルというのよ。だけど名を付けるというよりは、そう本人から聞いたからだけど。」
「え?聞いた?」
ルッツを初め、他のメンバーも頭の上に疑問符が浮かんでいた。
「えぇ、何て言うか、漠然とした声のようなものだけど、カイエルという風に聞こえたの。」
「うーん、それはセレスティアだけじゃないかなぁ。」
ルッツは考え込んだ。
「え?そういうものじゃないの?」
セレスティアは、皆同じようなものだと思っていたので、驚いた。
「いえ、僕達は自分で名付けたし、そういう声?のようなものは聞いたことないな。ただ名付ける時に好き嫌いはあったようで、何個か言って、気に入ってくれたのが『フィン』って名に決まった感じだったかな。」
「あー俺もそうだったな。初めはジョンとかにしようとしたら、露骨に嫌な顔っていうか、そっぽ向かれたもんな。」
ハインツやルッツがそう言うとテオは頷き、ノアベルトもケヴィンも同意見だったようだ。
「まぁ、あの黒い飛竜は規格外なとこあるから、そういうこともあるんじゃね?団長のイールもそれっぽいし。」
と、ノアベルトが言うと、皆も頷いて賛同していた。セレスティアはそういうものなのかと、深く考えるのを止めた。
「だけど飛竜って面白いよなー。知能は高いとは聞いていたけど、名前決めるのにも自己主張してくるしさ、なんていうか愛おしい存在なんだなって、まだバディ組んで全然短いけど、実感あるよな。」
「・・・あぁ確かに。」
珍しくほとんど話さないケヴィンがボソッと言ったので皆少し驚いたが、言えることは、皆それぞれが自分のパートナーである、飛竜を愛おしく思っているのだ。
「よーし!それじゃそれぞれの相棒に対して乾杯だ!」
「なんだよ、それ!」
「俺達は竜騎士になんだぞ!飛竜に敬愛を示さなくてどうする!」
「はは、わかったよ。」
「ふふっ」
セレスティアはノアベルトとルッツのやり取りに、笑いが込み上げていた。そこには『氷の人形』と呼ばれていたとは思えない、笑顔の美しい女性がそこにいたのだ。
「「「「「!!」」」」」
思わず5人はセレスティアを凝視してしまい、そして全員が赤面してしまった。
「・・・俺、恋愛禁止5年守れる自信がない・・・」
ルッツがそういうと、手で顔を覆った。
「バカやろう!そんな軟弱な根性では竜騎士は勤まらないぞ!」
そして叱咤するノアベルト。
「ある意味、拷問かも・・・」
そしてぼそっとテオが囁いた。
「え?え?」
セレスティアはまたもや、何のことなのか意味不明だった。
その頃、ユージィンとライモンドは、とあるバーにいた。
「団長、今回初の女性竜騎士で懸念事項があります。」
「ふーん?何?」
ユージィンはライモンドが言わんとすることはわかっていたが、敢えて続きを促した。持っているグラスの氷をカランと鳴らして遊んでいたが。
「セレスティア・ローエングリンは何というか、こういうことを告げるのは本来憚れるのですが、さすが団長の姪っ子だけあってと言いますか、容姿は十二分に整っています。」
「ふーん、何となく言いたいことはわかるけど、続けて?」
「はい、竜騎士は5年間恋愛禁止です。彼女にその気がなくとも、そういう輩が出てくるのではと・・・」
ライモンドは不安だった。今まで団には女性はいなかった。竜騎士ではない、後方支援部隊でさえ女性の入隊はいなかったところへ、竜騎士の紅一点となる見目麗しいセレスティアが悪い意味での起爆剤にならないか不安だったのだ。
「有り得ない話ではないだろうね。だけど、思うのは勝手というか、仕方がないのもあるからね。要は恋人にならなきゃいいだけだよ?それに・・・」
「それに?」
「あの黒い飛竜、カイエルはきっとソレを許さないから大丈夫だよ。」
「まぁ、嫉妬の強い飛竜だということは初日で充分にわかっていますが。」
「それに僕としては、先に言ったけど思うのは仕方ないとしてもね。その程度で規律を守れないようなやつなら、隊には必要ないと思っている。もしかしたらハニートラップだっていつくらうかわからないんだよ?それぐらい凌げないとね。」
「で、ですが、ただでさえ、うちは少数精鋭なのに!」
「僕は烏合の衆などいらない。」
ユージィンはばっさりと言った。
「その程度の規則を守れないなら必要ない。ダメなら中途採用もやってるだろ?」
中途採用とは、何かしらの理由で竜騎士を辞めなければならなくなった時は、人員補充為に中途枠で選定が行われることがあるのだ。
「た、確かにそうですが、私としてはせっかくの若い芽を摘みたくないというか・・・」
「まぁ、その気持ちはわかるよ。だけど、ま、杞憂だと思うよ。僕の見立てでは、セレスティアにその心配は無用だからね。」
「あ・・・」
その時、ライモンドは、ユージィンを見ていて気付いた。
(そうか、団長の時と似ている・・・ということは、きっと彼女は・・・)
「・・・すみません。私の杞憂でしたね。」
「そういうこと。」
ユージィンはニヤリと笑い、氷の入ったグラスを静かに見ていた。
そんなやりとりが、セレスティア達新人の親睦会の裏で行われていたのだが、テオが呟いた『拷問』というワードはあながち間違いではなかったのかもしれなかった。
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