14:とある男の顛末

 こうして、一悶着はあったが、セレスティアは、黒い飛竜に認められたことにより、晴れて竜騎士として認められることになった。遅刻ついては、当然のことながら不問となった。


 黒い飛竜に狙われた、とある人物が自白したのだ。


 彼は、今回の『竜の御目通り』の試験の監視官のメンバーの一人であったが、今回の候補者の中の者と親戚であった。身内可愛さで、何としても竜騎士にならせてあげたかったらしい。一人でもライバルはいない方がいいと思い、どうせ女性が飛竜に選ばれることはないだろうとは思ったものの、セレスティアが優秀であることは周知の事実だったので、念のためにと策を講じたのが『竜の祭壇』の会場入りを遅らせることだった。会場入りした時に、『竜の御目通り』が終わっておけば、出る幕はないだろうと履んだのだ。


 だが、黒い飛竜はセレスティアの為に『竜の祭壇』に来たのだ。なのに、セレスティアがいなかった為に機嫌を損ねて怒ったのだ。

 ユージィンの時もそうだったのだが、稀に特定の人物だけの為の飛竜が存在する。基本的には、飛竜からのフィーリングで決められることが大半であるのだが。


 そして、その監視官は当然責任を取らされることはもちろん、『竜の御目通り』の試験会場である『竜の祭壇』が黒い飛竜によって観客席が破壊されてしまった部分については、当然のことながら損害賠償を言い渡されることになった。破壊したのは黒い飛竜ではあったが、きっかけを作ってしまったからである。


 よって、セレスティアの遅刻も仕組まれたモノだとわかったことだったので、不問になった。男の動機は実に稚拙なものであった。



 「あの黒い飛竜は、あの監視官が犯人だとわかっていたってことなんでしょうか?」


 「そうだね、恐らく自分のパートナーを相棒を貶めてたということは、悪意でわかったんだと思うよ。僕のイールと同じような感覚をあの飛竜を持っているんだろうね。」


 「しかし、まさかだからといって暴れるとは・・・」


 「まぁ、あれでも結構抑えてはくれていたと思うよ。実際ブレスを吐くことはしなかっただろう?まぁいわば、初めての遭逢を邪魔されたもんだから、癇癪を起こしたんだと思うよ。」


 「癇癪ですか・・・規模がでかいですね。」


 「まぁ身体もデカいからね。あの程度で済んだのは幸いだったと、僕は思うけどね。」


 「しかも女性が竜騎士になるとは、あ!もしや団長わかってたんですか?」


 ライモンドは今思えば、ユージィンがセレスティアを迎えにいけと言ったことも、そういうことならば、合点がいくと思ったからだ。だがユージィンは、


 「さぁ?どうだろうね?」


 あやふやな回答だけをして、それ以上は語らなかった。


(ふむ、まだ私の知らない、飛竜の秘密なようなことがあるのかもしれないな。)ライモンドは前々から、ユージィンとイールが一般の竜騎士と飛竜の関係とは、少し違うことはずっと傍で見てきたから、わかっていた。

 (恐らくセレスティア嬢も、団長と同じようなことになるのでは?)と、『竜の御目通り』の様を見たライモンドは、何となく漠然としながらも確証めいたものを感じていた。




 竜騎士団本部の取調室にて_____


 (そんな、なぜ、なぜこんなことに!私はただ、竜騎士の選定に女など意味がないから排除しようとしただけだ!なのになぜこんなことに!!)


 「君は、飛竜を舐め過ぎだ。僕のイールもだけどね、中には人間の悪意を敏感に感じるモノもいるんだよ。」


 「そ、そんな私はただ!」


 「ましてや、自分のバディになる相手にそんなことをされたのでは、相棒である飛竜は黙ってはいられなかったんだろうと思うよ。」


 「ま、ままさか!」


 男は飛竜がそこまで理解しているとは思えなかった。いや思いたくなかった。


 「彼女の一声で、かの飛竜は従順になっただろう?それで証明は充分だからね。君は初の女竜騎士の誕生を阻害しようとしたんだよ。それを陥れようとした相手に救われるなんて、皮肉な話だ。」


 そう、あの時男は本当に殺されるかと思ったのだ。だけど確かに女の一声であの飛竜は動きを止めたのだ。偶然という言葉では片付けられないのは、目の当たりした男が一番よくわかっていた。


 「!そ、それは・・・まさか・・・そんな女が竜騎士だなんて。。今まで誰もいなかったのに・・・」


 「せっかくの初の女竜騎士の誕生の舞台だったのに・・ねぇ。まぁこれはこれで、なかなかインパクトの強い『竜の御目通り』ではあったけどね。」


 「寄りによって、私の甥っ子の時に、こんなバカなことが?!」


 男は信じられないといった様子だった。


 「心配しなくても、あの黒い飛竜は君の甥っ子は選ぶことはないよ。正確には彼女以外は誰も選ばない。そういう飛竜だったからね。」


 「そんな!そんな!では私のやったことは無意味だったと?」


 「そういうことだね。だけどこちらには収穫はあった。このような事をする輩は団としてはいらない。排除するいい理由にはなったよ。」


 「あぁあああああ!!」


 男は今更ながら、後悔の波が押し寄せていた。だが、もうどうしようもないことだった。


 「連れていけ。」


 「はっ!」


 こうして、竜騎士団の後方支援部で監視官であった男は、せっかくの高収入の就職先がなくなり、代わりに犯罪者という汚名が着せられることになったのだ。

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