12:竜の御目通り~中編~
『竜の御目通り』の試験日、なんとセレスティアは遅刻をしてしまった。
彼女自身の寝坊などといった、怠慢からくるものではない。要は嫌がらせの一貫で、わざと違う方向に連れられてしまったからだ。
なぜこんなことになってしまったのか?
試験会場である、『竜の祭壇』へは単騎ではなく、馬車で行くことが決まっていた。だが、セレスティアの手配された馬車は本来の目的地である『竜の祭壇』とは違う、別方向に向かっていたのだ。
(あら?竜の祭壇までこんなに時間がかかったかしら?)
セレスティアは馬車の中にいた為に、目的地から離れていることに気付くのが遅れてしまった。思えば初めの方に違和感はあった。
(あれ?こっちに曲がった?・・・この方向からの行道があるのかな?)
違和感はあったものの、もしや自分の知らない道があるのだろうと、深く追及することはしなかった。それ故まさか目的地である竜の祭壇から離れたところにいるなど思いもしなかったのだ。
そして、『竜の祭壇』では意図せぬ事が起きていた。
『竜の祭壇』とはいうものの、実質は楕円形の巨大な闘技場のような作りをしていた。5匹の飛竜が降り立つことができるよう天井部分は解放されており、周りにはその様を見届けることができるよう、観客席も設置はされていた。しかし『竜の御目通り』については試験なので、観客席には関係者以外は誰もいなかった。そして、飛竜の降り立つ場所に候補者達は並ばされていた。なお、セレスティアは遅刻しているので、この場にはいなかった。
「セレスティア・ローエングリン!セレスティア・ローエングリンはいないのか?!」
『竜の御目通り』の試験の前、監視役の団員から点呼が行われていたが、セレスティアはその場にいなかった。何せ、何者かの策略で、目的地から外れたところにいたのだから。
「おいおい、こんな時に遅刻なんて有り得なくないか?」
「これだから女は・・・」
「大方めかし込んで遅刻でもしてんじゃないか?」
「こんな時に遅刻だなんて、何かあったんじゃないか?」
「彼女らしくない。おかしいぞ。」
などなど、蔑む内容もあれば、心配している者など様々であった。
「ローエングリン団長、いかがなさいますか?」
「取り合えず、試験は時間厳守で構わない。飛竜側も時間になれば来るからね。」
ユージィンは身内が遅れているからと、開始時間を遅らせるようなことはしなかった。試験はセレスティア不在のまま、予定通り執り行われることになった。
飛竜のやってくる時間となり、候補者の目の前で一匹、2匹と飛竜が順次降り立つ様はなかなか壮観であった。
飛竜はその色味で大体の属性がわかるようになっていた。赤銅色なら火属性、暗い青色なら水属性、深い緑色は風属性、焦茶色なら土属性、といった感じに一目見れば飛竜が持つ属性は一目瞭然であった。大方は飛竜の鱗は暗めの色が多いのだが、イールは珍しい鮮やかな深紅の鱗を持つ飛竜だった。
しかし『竜の祭壇』では、最後にやってきた飛竜を見るなり異様な雰囲気が漂い始めていた。
『ギュルルル!!!!』
「お、おいなんだあのデカい飛竜は?」
「なんだあの色?真っ黒だと?」
「それに5匹のはずなのに、なんで今回は6匹いるんだ?」
「気のせいか、あの飛竜怒ってないか?」
「顔、怖ぇ・・・」
本来なら、5匹の飛竜が来るのだが、なぜか今回は1匹多かった。それもあまり見ない色彩を持つ真っ黒な鱗の飛竜で、大きさも他よりも群を抜いていた。
見届け人として、観客席にいたユージィンとその副官のライモンドは、今回の『竜の御目通り』が今までと違うことは直ぐにわかった。
「だ、団長、もしかして団長の時と同じではありませんか?」
「・・・そうだね、僕の時はイールが来たからね。まぁイールは小柄で華奢な女の子だけど、今回のはでかいねぇ。」
ユージィンは頬杖をつきながら、異常事態ではあるのにのんびりと答えた。
「え?イールが華奢?小柄はわかりますけど・・・」
副官のライモンドは思わず突っ込みを入れてしまった。
「僕のイールに文句でもあるのか?」
ユージィンはそういうと、ライモンドをジロリと睨んだ。なまじ顔が中性的で女性と見紛う美貌をもつばかりに迫力があった。
「い、いえ団長のイールはそれはもうお綺麗で、えっと華奢です・・・」
とりあえずライモンドが取り繕うと、
「うん、よくわかっているじゃないか。さてと、ふざける場合ではないな。」
「そ、そうですよ!」
一番最後にやって来た黒い大きな飛竜は首を動かし金色の目をキョロキョロさせて明らかに何かを探していた。だが、それが見つからないことに、段々とイライラしてきているのがわかる。
『グゥウウウウウ!!!ギュルルルル!!』
その黒い竜は威嚇をしているようだった。そして同じ場所にいる候補者は勿論のこと、『竜の御目通り』に来た他の飛竜達もが、その黒い飛竜に対して恐れおののいていた。
「だ、団長なんか不味くないですか?」
「うん、怒ってるねぇ・・・ま、誰かさんが余計な事をしちゃったから無理もないんだろうけどね。」
「え?それはどういう?」
「ふふ、イールもそうだけどあの黒い飛竜も悪意には敏感なんだよ。」
ユージィンは意味深にそう囁いた。
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