1:叶った夢

 空を見上げると、人を乗せた竜が飛んでいる。青空の中、赤い竜が人を乗せて、羽を広げ悠々と空を駆けていたのだ。


「綺麗・・・・」


少女の目には、空を駆ける赤い竜を映しだし、キラキラと輝いていた。

私もあんな綺麗な竜に乗って空を駆けてみたい!


 かくして、一人の小さな少女の思いは自分の夢となり、己の夢をかなえるべく、鍛錬を積み重ね、ついに叶うことになる。





___________




 ここは、アルス・アーツ大陸。

 主に5大国家から成り立つ大陸である。

 この世界は、人間、亜人(獣に変身することができる。)、エルフ、ドワーフ、魔獣、魔女、魔人、竜などの、いろんな種族がおり、また魔法が当たり前のように使える世界でもあった。


 この物語の舞台はその5大国家の内の一つ、竜騎士発祥の地となるフェリス王国から始まる。




 ローエングリン伯爵の館内の応接間にて、胸の下まである長いプラチナ色の髪をサイドに三つ編みで束ね、黒の詰襟には銀色の蔦模様の刺繍が入った軍服を着る薄水色の瞳の女性がソファに座っていた。パッと見は彼女の纏う色彩と普段からあまり感情を表に出さないことから(というより出せてない。)「氷の人形」と呼ばれる彼女ではあったのだが、今はとある事情で困った顔をしていた。とはいうものの、先にもあるように表情筋の動きが乏しいもので、自信は困った顔になっているつもりだが、実際は無表情になっていた。


 彼女の名はセレスティア・ローエングリン。女性で初めての竜騎士の職に就いたばかりの新人の竜騎士である。


 彼女の家は伯爵位を持つものの、代々騎士を輩出している武闘派の家系だった。そういった家系だったので、女性でも騎士という職になったとしても何ら不思議はなかった。実際ローエングリン家の過去にも少数ながらも女騎士の成り手はいたからだ。


 ただ、竜騎士となると話は変わる。女性の竜騎士は今まで誰もいなかったからだ。竜騎士の相棒である飛竜がなぜか女性をパートナーとして認めないといった事情から、今まで女性の竜騎士は存在しなかったのだ。その為、男性のみの職業と認識されていたのだが、此度はセレスティアが強く志願をし、時代も変わったことから試して見てもいいだろうということで、竜騎士の指名制度、『竜の御目通り』(飛竜が認めし者)の試験をセレスティアは受けることができたのだ。


 そもそも竜騎士は、本人が志望したとしても、そうそう簡単になれるものではなかった。『竜の御目通り』その名のごとく、飛竜との面接で飛竜に認めてもらえないと(気に入るともいう)竜騎士になることは不可能なのだ。故に男性だからといっても誰でもなれる訳でもなかった。ただし飛竜に認めてさえもらえれば、意のままに飛竜を操り、空を駆けることができる機動力に加えてブレス(火や氷など)を吐くため、国にしてみれば強力な戦力が手に入るのだ。それゆえ、竜騎士という職業は稀有であり、優遇もされるエリート中のエリートなのだ。


 そして此度初めて『竜の御目通り』にて飛竜に女性が認められるという、異例の事態が起こった。女性初の竜騎士が誕生したのだ。それがセレスティア・ローエングリンであった。


 一言に竜といっても、『竜』と『飛竜』は異なる。似て非なる者だ。竜騎士が乗る飛竜はわかりやすくというと、獰猛なペットといったところだろうか。もちろんペットといっても、大きさは馬の3倍以上はあるし、また知能もそれなりに高い。その為、飛竜の意志を尊重する為にも『竜の御目通り』をして、飛竜にパートナーとして認めてもらわないと、竜騎士になることは不可能なのだ。


 一方で『竜』の知能は人間でいうところの賢者以上の知能をもち、また膨大な魔力を有しているから上位魔法も操ることができ、そして大きさも飛竜の比ではない。めったと人前にでることもなく、その気になれば国の一つや二つ壊滅させるほどの力も持っていると言われているので、神獣として扱われている。

 あとは、魔物として認定されている竜種もあるで、一言で『竜』はとても語りつくせないのだ。


 と、前置きが長くなったが、念願の竜騎士にはなったものの、今彼女は別事情で面倒なことになっていた。

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