リアルJK作者の日常を手短にパロってみましたので読んでみたらええやん。
@standstone
第1話 電車に挟まれた日
竹中 文人は走った。
時刻は午後4時50分を回っていた。
本数の少ないど田舎の学校からの下校、最寄りの電車を捕まえられるチャンスは30分に一度。これを逃したら毎週見ている夕方6時からの「僕の○ーローアカデミア」を見逃してしまう。
今朝、母親に録画を頼むのを忘れて閉まった俺にはもうあとがなかった。
「扉が締まります。ご注意ください。」
ホームへ続く階段を駆け下りている途中、アナウンスが聞こえた。「いける、まだ間に合う!」
俺は過去最速でホームへ滑り込むと、ちょうど閉まろうとしていた電車に飛び乗った。
「やってしまった。」
乗った瞬間に扉が閉まり、気づいたときにはもう遅かった。小指がドアに挟まれてしまっている。
幸い、扉の間にゴムのようなものがついていて、鬱血するほど強くは挟まれていないが、そのまま引き抜けるほど扉は緩くなかった。
何しろど田舎なので、次の駅まで10分ほど揺られるわけなのだが。
「俺の指飛んでかないかな」
一番の不安はそれだった。
短いトンネルを抜け、森を突き抜けると、少し賑わいのある町の駅につく。途中で車体に何が当たるのかもわからないから、扉から第2関節くらいまで飛び出したこの小指が無事に開放されることを祈って、できるだけ小指を折り曲げてじっとしていた。
小指って切れたら痛いんだろうか。そりゃ痛いんだろうけど、ヤクザとかでよく指を詰めるって言うからな…。死にはしないだろうけど、でもやっぱり地味に痛いんだろうな。
頭を抱えていると、ふと冷たい視線を感じて、周囲を見渡す。
車内には小さなおばあちゃんが一人、同じ高校の制服を着たJKの集団がちらほらと、きれいなお姉さん達に混ざってその母親らしきおばさんが数人。
なんだか違和感を感じた。
この異様に女性が多い車両は何なんだ…?
これも気づいたときにはもう遅かった。
おばさんたちのじっとりした目に耐えきれず、顔をそむけて窓の外を見ると、ちょつどそのガラスに「女性専用車両」のステッカーが貼ってあるのを見つけた。何もかも、手遅れだったけれども。
ものすごく恥ずかしくなって、早く別の車両に移りたいのに、小指が抜けずその場を移動できない。
引っ張る手に力を込めようと変に動けは、それこそ女性専用車両の扉の前で不審な動きをするヤバいやつになってしまう。
俺は何も気づいてなさそうな顔を作って、スマホを触ろうとした。しかし、片手で鞄のチャックを開けてスマホを取り出すのは至難の技で、到底できそうにないことにすぐに気がついた。
俺はもうただ静かに下を向いて気配を消した。
「俺は無害ですよ〜、運が悪かっただけなんすよ〜。」そんなオーラを頑張って出す。
「あらぁ、あの子気づいてないのかしらね。」
「言ってあげるべきかしら?」
みたいなヒソヒソ声が聞こえた、気がする。
何か楽しいことを考えようと思って、楽しみにしていたアニメの先週回を振り返ろうとしたけど、頭が真っ白になって何も思い出せなかった。
どうしたらいいのかわからなくなって、目の前が滲んでくる。
「もうやだ。」
ぽつりと呟いた、その時だった。
「ねぇ、大丈夫?」
同い年くらいの女の子が俺の顔を心配そうに覗き込んで言った。
「体調悪いの?次の駅まで頑張れる?」
優しい女の子はかばんからハンカチとペットボトルの水を取り出すと俺の方へ差し出した。
「いや、そういう訳じゃないんだ。ありがとう。」
必死で背後に右手の小指を隠し、女の子にバレないようにする。
「でも、顔色悪いよ?遠慮しないで飲んで。」
女の子は「絶対に引かない」といった感じで俺の前へ立ちはだかるとしきりに水を勧めた。今の俺にはその優しさが逆に苦しい。
「いや、今俺片手が使えなくて。そういうのできないんだ。」
なんとか理解してもらおうと試みるが、女の子は何を勘違いしたのか、「ごめんなさい、無神経なことして。」と言いながらキャップを開けて飲み口を俺の顔の方へ近づけた。
ペットボトルの飲み口は、ほんのりハイチュウイチゴ味がした。
「あ、俺の初チュウ奪われた。」
そんな我ながらキモいことを考えながら左手で女の子のペットボトルを持つ小さな手を上から抑えた。
…プシューーー…
「…プハッ」
ペットボトルが口から離れると同時に待ちに待った電車の扉が開いた。
自由になった右手をグッパグッパと動かしてしみじみすると、俺はそのまま電車を飛び降りた。
扉の向こうでびっくりしている優しい女の子にペコリと礼をして、電車が通り過ぎるのを待った。
「仕方ねぇ。ちゃんと次の電車待つか。」
家に帰って見る予定だったアニメはオープニングは見れなかったものの、本編の方はなんだかんだ間に合うことができた。
リビングから母親のガミガミ声がする。
「あんたペットボトルこんなとこおいてないで、さっさと自分で片付けなさい。」
思わず持って帰ってきてしまった女の子のペットボトルをこれ以上飲むわけにもいかない。
ポケットをごそごそやって、ペットボトルと一緒に持ってきてしまったハンカチを取り出す。
端っこには「秋山 彩花」と刺繍が入っていた。
「秋山ちゃん。」
いい子だったなぁ。今日の出来事を反芻すると、あの子にもう一度会いたくなった。同じ制服だったし、その可能性は十分にある。
「捨てるのはもったいねぇや…。」
16歳の夏。初めてのチューは、ハイチュウイチゴ味だった。
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