◆番外編 レティ様ルート 2

 この大陸には、聖メルティア教国以外にはティンジェル王国、カイル帝国、スパイト王国がある。

 大陸というのは、海で囲まれた地続きの場所のことを言うそうだ。

 海というのは水しかない場所で、当然人間は水の上に立っていることができない。


 その水に囲まれた大陸で、昔は小さい国がたくさんあったそうだけど、いろんな戦争を経てこの4つの国までまとまったらしい。


 そして、国をまとめる時にとても役に立った人々を『貴族』と呼び、役に立たなかった人間を『平民』として分けているのだそうだ。


 今はもう国はすでにまとめられた状態だ。

 だから国をまとめる時に役に立ったという貴族というのはみんな既に死んでいるんじゃ?


『いえ、貴族というのは子どもやその子ども、さらにその子どもにも受け継がれていくのです』


 どうして? 

 その子どもとか役に立っていたわけじゃないでしょ?


『貴族として貢献したことはとても立派なことで、それを忘れないためにその子どもたちも貴族とするのですよ』


 とりあえず私は理解を諦めた。

 いつか理解できるのだろうか。



◇◇◇



 ある程度教養?というのを叩きこまれたので、『鑑定の宝珠』で私のスキルを調べることになった。

 鑑定の結果を私が理解できるまで待っていたらしい。



 この鑑定には教皇様がいらっしゃった。



「エリシア……?」



 教皇様がわずかな驚きを顔に表しつつ呟いたのは、聞き間違えでなければ母の名前。


 だけどそれを聞く前に、教皇様から鑑定の宝珠に手を触れることを指示され、言われた通りにする。



★固有スキル【結界の聖女】

(固有スキル【????】)



 他にも【中級光魔法Ⅲ】【メンタルI】などが浮かび上がってくる。



「ふむ、まあまあだな。精進するがよい」


 そう言って教皇様は去っていった。

 この結果自体は予想されてたみたいで、特に騒がれることはなかった。

 今の聖女様が次の聖女の情報(私のことだったらしい)をあらかじめ【神託】スキルで把握していたからだ。


 周りにいた神官もほっとした様子で、これでメルティア教もしばらくは安泰だ、というような声も聞こえた。


 だが、二つ目の固有スキルについては誰も触れなかった。

 気づいていないようだ。



 あとで教育係の先生に聞いてみた。


「二つ目の固有スキルですか? 古い文献にはありますが、災いと繁栄をもたらすと言われていますね。よく分からないのですが発現例はありませんので、その文献も真実性が疑われています」


 黙っていたほうがよさそう。



◇◇◇



 そして、主に回復を中心とする魔法の修練が始まった。


 けどその前に大事なこと、として何度も繰り返し強調されたのは、



『聖女といえど万能ではない』



 さすがに死者蘇生は聖女でもできない、ということは一般の教徒でも知っている。

 だけど、死んでさえいなければ何とかなる、思っている人は意外と多いらしい。

 聖女とて回復魔法の練度には限度があるし、そもそも対象となる本人が病弱であれば病は治しても再発したり衰弱したまま死ぬことだってある。


 そういうとき聖女に恨みが向かないように、回復の施しには必ずベテランの神官が同席している。

 聖女の力を持ってしてもどうにもならないとき、神官がストップをかける。

 聖女は治そうとしたが神官に止められたという体にしておき、ヘイトは神官が負う。

 こうして聖女のメンツは保たれひいてはメルティア教の威厳も保たれる、というわけだ。



◇◇◇



 魔法の指導は引退した先代の聖女様が行ってくれた。

 魔法の基本、瞑想から。

 目を瞑って背筋を伸ばし、深呼吸を繰り返す。

 そして、まずは自分が健康になるイメージ。

 小さな切り傷をわざと腕につけてそれを治す練習。

 大怪我した人や重病の人を見学して、その人が完治するイメージを強くもつ。

 治った人が無事に歩き回ったり、もう会えないかもしれないと思っていた子や孫に会って嬉しそうにする笑顔。

 そういうものをたくさん見て、回復や治療のイメージを強めて効果を高くしていくとのこと。



◇◇◇



 そしてある日、病気だった母と近い症状の人を治せたから、私に『母を治させてほしい』、とお願いしたところ。


「え、お母さんはとっくに死んでたの?」


「今まで黙っていて申し訳ありませんでした。あなたが大神殿にいらした直後にお亡くなりになりました。もちろん手は尽くしたのですがここに運ばれた時点で全身に病が回っていてなす術がありませんでした。申し訳ありません」



「……やっぱり」



「聖女候補様の修行に差し障りが出るとよくないと思いまして、お伝えしていませんでした。恨むなら私のみを」



 この付き人は私が大神殿に来てからずっと私の面倒を見てくれた女性だ。

 外の世界の常識的なことも教えてくれたし、基本夜の外出は禁止されているにもかかわらずこっそり連れ出して綺麗な夜景を見せてくれたりした。


 だから、責める気にはなれなかった。

 かと言って母のことを黙っていたことを素直に許せるわけでもなく、私は何を言ったらいいのかわからなかった。




 次の日、付き人は変わっていた。




 私よりも年下の純朴そうな女の子だ。

 前の付き人は責任を取って遠くの修道院に入ったらしい。

 一晩経って少し冷静な頭で考えると、あの付き人の女性はスケープゴートだったのだろう。

 教会にとって聖女候補はそうそう現れない貴重な人材。

 その成長を遅らせるわけにはいかない。

 私の恨みを買う役が必要だったわけだ。

 あんなに優しかったのも罪悪感の裏返しだったのか、はたまたただの仕事だったのか。



 考えてもしょうがないことを忘れるため、母の弔いをさせてもらったあと、私はさらに修行に打ち込んだ。



◇◇◇



 修行を繰り返し、実際に病人を癒す。

 孤児院の子どもや娼婦などもし失敗しても教会の権力で何とでもなる人たち。

 さらにスキルレベルが上がれば、今度は下級貴族の治療。

 彼らは小金持ちでかつそこそこ数も多いのに単体ではあまり強い権力がない。

 最後は大貴族やその身内。

 絶対に失敗できないので入念に準備を行い、場合によっては教皇就任の儀式並みの人員を動員することもある。



 私の場合は、『結界の聖女』ということもあって魔を払う結界をあらかじめ展開したうえで回復魔法を施すなどすれば成功率はほぼ100%だった。

 大貴族からの治療依頼がひっきりなしに来るようになり、また野外のモンスター討伐において治癒結界や退魔結界などの展開も任されていた。


 そうした実績の積み重ねもあって、大神殿に引き取られてから4年で聖女の座を引き継ぐこととなった。


 引退した聖女はまだまだ20代で、『これで大手を振って彼氏と歩けるわ!』と喜んでいた。



◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 二つ目の固有スキルが出てきていますが、本編には採用しない予定です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る