第136話 浄化完了 

(エルフのクラウディアに示されたS級ダンジョンで全員のレベルアップを果たしたクラウスたち。準備ができたクラウスたちはスパイトの浄化に挑むのであった)




 スパイト王国の中心地。


 瓦礫はあらかた撤去されたが荒廃したままの王都の中心地に僕とレティ様、プリンさん、ミストラルさんが立っていた。

 トラブルがあってはいけないので、周辺は立ち入り禁止にしている。

 そもそもあんまり人がいないけれどね。



 これ以上ないほどレベルを上げ、聖女の力を底上げする聖衣ミスティアローブを身につけて2人の聖女が背中合わせに東西を向く。

 その手には賢者の石を持っている。



「レティ様、プリンさんお願いします。無理はしないで下さいね」


 僕は一応何かあった時の待機要員だ。

 ミストラルさんも同じ。



◇◇◇



「はあ、聖女はやめたのにまだ働かされるのね……」


「レティシア様、それはどうかと思いますが、こんな大役が回ってくるとは私も思いませんでした。では、やりましょうか」


「「賢者の石、知恵の扉を開けよ!! 神に捧げるは汚れなき御子の祈り、安寧の地を求める者に導きを示せ、穢れし土地を浄化する、ソウルピュリファイ!!」」



 2人が賢者の石の力を解放し、聖女の魔法を乗せる。

 聖女の足下から広がる浄化の光は波打つようにあまねくスパイトの地に広がっていく。

 清白の輝きは賢者の石からも放たれている。


 このままうまくいくかと思われたけど……



「これはキツイわね……」


「レティシア様、ここでやめるわけにはいけませんわ」



 2人の顔がどんどん険しくなってきた。

 そして光が暴れ始める。

 先ほどまでの静かな光から一転して凶暴な気配を見せ始める。



 ん、これはやばいやつだ。

 魔力の暴走というやつで、生まれたばかりのエルフが魔法を使おうとして時々やるやつ。

 MPが100しかない人間だと起きるはずもないが、賢者の石なんて膨大な魔力を使っているから起きてしまった。

 制御されない魔力はやがて周りに破壊をもたらす。


 解決する方法は……



「わっ」


「きゃっ」


 僕は二人をまとめて抱きしめた。


「落ち着いて。僕が魔力の制御を助けます。お二人は魔法の発動だけに集中してください」


 エルフが魔法を暴走させかけたときの対処は、その者と身体を合わせて魔力の制御を肩代わりすること。

 ヴェルーガの記憶だと身体が触れている部分が多ければ多いほうがいいようだ。

 

 やがて荒れ狂った魔力が徐々に静けさを取り戻す。

 賢者の石の大きさが半分ほどまで縮んでいた。


「このままやれば大丈夫です。続けてください」


 そして、どれくらい経ったか僕にもわからない。

 賢者の石二つ分の魔力制御なんてしたことのある人間はいないだろう。

 僕はとにかく暴れ狂う魔力を制御するのに意識を割いていた。

 

 いよいよ賢者の石が消えてなくなりそうなとき、ひときわ大きな光が発生し視界が真っ白くなった。



◇◇◇



 王都では、クロスロードとエリアが王城のテラスからスパイトの方向を眺めていた。


 やがてスパイトの地から巨大な白い光の柱が立ち上る様子が見える。


「なんて神々しいのかしら……」


 呟くエリア。


「あれほどの光なのに全く圧を感じないな。成功したか」


 クロスロードは浄化の成功を確信していた。

 


◇◇◇



 聖メルティア教国の新しい教皇ランド=アルマークは大聖殿からスパイトの地を見守っていた。


「おお…… 積年の怨念や悔恨が浄化されていく…… これぞ神の御技……!」




 スパイトの地から立ち昇った光の柱は、ティンジェル王国、聖メルティア教国、カイル帝国のほとんどの者が目撃することとなった。





 後日、ティンジェル王国と聖メルティア教国の連名で旧スパイト王国領土の完全浄化が発表され、あわせて両国がこの地を共同管理とすることも発表された。



◇◇◇



 うう……。


 どうなったんだ?


 光に包まれてそれから気が遠くなって……



「うう、ここは……」


「クラウス、こんなところで大胆なんだから……」



 おっと、僕は2人に覆い被さるように倒れていた。

 慌てて起き上がる。

 

「クラウスぅ、ご褒美にチューくらいいいでしょ〜」


「レティ様、その様子なら元気ですね」


「兄さん、大丈夫?」


 プリンさんがミストラルさんを起こしていた。


「ええ、大丈夫ですよ、プリン。浄化も成功したようですね」


 先程までの汚くて澱んだ空気による不快感はもう感じられなかった。

 とても清々しくて、大げさだけど生きててよかった、と思えるような空気になっていた。

 ここにいるみんなが浄化は成功した、と確信していた。



「クラウスさん、これは歴史に残る偉業ですよ! これまで誰もできなかったスパイトの浄化を成し遂げたのですから!!」



 珍しくミルトラルさんが興奮している。



「え、あ、でもミストラルさん、ごめんなさい、プリンさんを抱きしめてしまいました。あのとき賢者の石の魔力が暴走しかけていて、それを止めるには僕が魔力の制御をしなくていけなくて、そのためには身体をくっつける必要があって……」



「クラウスさんが慌てるなんて珍しいものが見れましたね。何か理由があってのことと思っていましたから大丈夫ですよ。プリンもまんざらでもなかったようですし……」


 プリンさんは少し顔を赤らめて俯いた。


「ねーねー、あたしは〜?」


「レティシア様は役得だったと思ってるからいいんじゃないですかね」


「ミストラル冷たいな~」


 とにかく、これでスパイトの浄化は終わりかな。

 しばらく様子を見る必要はあるけど。


 プリンさんとミストラルさんを教国に送って、僕らは陛下に報告だ。




◆◆◆◆◆◆


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