第68話 エルフとの問答
「私の名はクラウディアよ。スタンからどこまで聞いている?」
「エルフは実在していて、人間社会のことはよく知っている。争いは好まず人間社会に基本不干渉ということです」
「私のこと変わり者って言ってなかった?」
「いいえ、普通に振舞っていれば問題ないと聞いています」
「エルフと人間の普通って同じなのかどうかわからないけど、クラウスに危害を加える気はないわ。あなたのスキルにも反応はないでしょ?」
「はい。やはり僕のスキルが見えるんですね」
「そう。エルフは皆【鑑定】持ちだからね。なかなか面白いスキルを持っているじゃない。レベルとステータスが全く嚙み合っていないわ。そのステータスならA級ダンジョンなんて余裕ね。つまんないでしょ?」
「つまらないと思ったことはないです。ただ少し飽きるな、と思うことはありますけど」
「そのステータスだと敵が弱すぎて熟練度溜まらないからスキルレベルあまり上がらないもんね。人間はみなスキルレベルを上げるのが好きみたいだから」
「たくさんの人間を見てきたんですね」
「伊達に1000年以上生きていないわよ。それでも時の香りがする人間なんて初めてだわ。【時空魔法】が見当たらないけど、どこかでなくしたの? いったんは持ってたはずよね」
「ええ、虹色のスライムを倒したら【時空魔法】が生えてきたんですが」
「ああ、レインボーサムシングか。本人に適した珍しいスキルをくれるのよね。遭遇条件はマイナススキルを10個以上保持し続けることが条件だったはずだけど。そしてそのダンジョンボスは必ずランクが上がるはず。ということは15歳のときに固有スキルと共にマイナススキルがたくさん生えたのね」
「ええ、そうです。そんなことまで知ってるなんてやはりエルフなのですね。【隠蔽】スキルで見た目を変えている可能性があるかとも考えていたのですが」
「見た目については使ってないわよ。強いスキルであればあるほどマイナススキルがくっついてくるからね。でも10個以上は実際に見たことないわ。よく生きていたわね」
「固有スキルのおかげで死なずにすんでいます」
「そうね、大事にしなよ。話を戻すけど、どうして【時空魔法】がなくなったの? 【強奪】スキルのせいかしら?」
「はい。訳あって転生者と対峙したのですが、その時に奪われました」
「強奪系のスキルはなぜか異世界からの転生者が持ってることが多いのよ。不思議。異世界って治安が悪いのかしら。でもその手のスキルはスキルの保持者が死ねば返ってくるはずだけど」
ホントに何でも知ってるな。
「最初に僕の固有スキルを奪われまして。そして奪われた【交換】スキルで【時空魔法】を交換されたので、転生者が死んでも【時空魔法】は返ってきませんでした」
「そっかー。惜しいことしたね。【時空魔法】は人間が自力で修得できないスキルだからね。【時空魔法】がなくてもその固有スキルなら問題なさそうだけど」
「あの、【時空魔法】って何ができるんですか? 僕はディメンジョンボックスしか使えなかったのですが」
「それは一番の初歩だね。あとは知っている場所に転移したり、時間を止めたり、異空間からものを召喚したりとかかな。結界も使えるよ。ただ、人間の君が【時空魔法】のスキルレベルを上げることができるかどうかまではわからないけど。この場所に来るのにスタンから地図を持たされたでしょ? 地図に時空魔法をかけているの。この家は時空を歪めて人間には認識できないようにしているけど、地図を持っていれば認識できるようになるの」
そんなことも出来るのか。
タケヤマに盗られなければ僕にも出来たかもしれない。
「そんな存在がなぜ伝説上のものとされているんでしょう?」
「んー、別にエルフがそうしたわけでもないんだけどね。人間世界に不干渉だから、ほとんど姿を見せることがないからじゃないかな。私は変わり者だから人間の社会にいるけど。ただ、大勢に知られると面倒だからこの国の王族と貴族の一部にしか存在を示さないようにしているわ」
「なぜ僕の前に姿を見せているのですか?」
「面白いから。やっぱり外から見ている分には人間って面白いのよ。時々あなたみたいなのが出てくるし。珍しいものがあったら自分の目で見てみたいでしょ? ギルドや軍があなたの扱いに困っていて面白そうだったのよ。それに、あなたは伝説級のスキル保有者に気に入られているし」
「誰のことなんでしょうか」
「いずれわかるわよ。楽しみはあとに取っておきなさいな。私ばっかり喋ってるからクラウスの話を聞かせて?」
「わかりました、クラウディアさん。何からお話しすればよいでしょうか」
「そうね…… 固有スキルをもらったあたりからでいいよ」
とにかく思い出したことを片っ端から話していく。
王国武闘会の話しあたりでクラウディアさんが割り込んでくる。
「魔物を捕獲したり操ったりする魔道具か。さすが【錬金魔王】。歴史は繰り返すのね……」
「スパイト王国にサファイアと同じ【錬金王】のスキルを持った者がいるということですか?」
「そうだよ。サファイアとはまた懐かしい名だね。くそ真面目だが天才だったよ。レオンが呟いた『王国民をまとめて管理するカードとかねぇかなー』って言葉を真に受けてシビルカードを作ったんですものね。レオンのことが好きだったんじゃないかな。あ、ちなみに今回現れたのは【錬金王】じゃなくて【錬金魔王】だからね」
「何か能力に違いがあるのですか?」
「【錬金魔王】のほうは軍事的な物の発明が得意ね。それと、スパイト王国は、国土自体が呪われていてね。そこで生まれ育った者はスキルが偏るの。【虚栄心】というスキルを見たでしょう? 【錬金王】も汚染されて【錬金魔王】に変質しているの」
「それはスパイト王国がかつて罪人の流刑地だったからですか?」
「そう。若いのによく知っているね」
ミストラルさんから聞いたことがあったんだよね。
「何百年か前に流刑地ではなくなったけど、それまでに積もり積もった呪怨が未だ消えることがなく、スパイト王国民を蝕んでいるの。国土そのものが自然に浄化されるにはいったいどれだけの年月がかかるか私にも分からないくらいよ」
「あの、もしかして聖メルティア教国がスパイトと手を組んでいるのもご存じなのですか?」
◆◆◆◆◆◆
いつもお読みいただきありがとうございます!
サファイアの話は第49話で少しだけ出てきています。
思いのほか長くなったのでいったんここで切ります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます