第4話 剛力無双

 最後が微妙な雰囲気で終わってしまったエリアさんとの食事の次の日、ギルドを出てしばらくすると突然後ろから首根っこを摑まれた。


 薄暗い路地裏に連れ込まれた、と気が付いた瞬間お腹を中心に衝撃が走る。

 僕は吐しゃ物を吐き出しながら膝をついて痛みにうずくまる。


「てめえ、受付のエリアと食事しただろ? どうやってエリアを誑かしたんだよ」


 誑かしてない。

 てか、そんな方法があるなら僕も知りたいくらいだ。


 そう思いながら顔を上げると、僕に腹パンしたやつのステータスが見えてきた。


 B級冒険者のヒュージスという名前らしい。

 全身ムキムキで、腕なんか僕の太ももくらいの大きさがある。

 レベルは75だ。やばい。

 あと何発か食らったら死にそうだ。


「エリアはな、Bランクパーティ『剛力無双』の誰がオトせるかで競い合ってんだよ。てめえみたいな駆け出しの冒険者が食事するなんてありえねえんだ。お前F級かE級あたりだろ? 舐めた真似するんじゃねえよ」


 そう言いながらヒュージスはさらに僕に殴る蹴るの暴行を加えてくる。


「殺すまではしねえよ。だが、自分の行動には気をつけな。何度でも死なない程度に痛めつけてやるからな。わかってると思うが、このことは誰にも言うんじゃねえぞ」


 気が晴れたのか、ヒュージスは口止めをして去って行った。

 対する僕は思わず口元がニヤついていた。



腕力:272 (←41)



 そう、ヒュージスがべらべら喋っている間に僕は腕力のステータスを【交換】していた。

 ヒュージスの腕力が下がれば何度殴られても大丈夫だと思ったからだ。

 

 これでやつの腕力は544から53へと下がり、F級並みでしかなくなった。

 思った通り、2発目以降はあまり痛くなかったけどずっと痛いふりをしていた。

 

 さらに、



スキル

【初級剣術Ⅴ】(UP)



 【初級剣術Ⅰ】から【初級剣術Ⅴ】まで一気にスキルのレベルが上がっていた。

 おそらく腕力のステータスが急上昇したからだろう。


 あと、交換はできなかったがヒュージスは【ストロングⅠ】という腕力上昇の上位スキルも持っていた。

 さすがに剛力無双のパーティ名を名乗るくらいはある。

 効果は腕力を30%上昇させるものだが、交換後の腕力だと焼け石に水だろう。




 その後僕は【生活魔法】のクリーンで体についた吐しゃ物を軽く洗い流して、家に帰り着いた。

 当然家族に何があったかと聞かれたが、ダンジョンで怪我をした、とだけ答えておいた。

 



◇◇◇




 次の日は、HPが回復しきっていなかったのでヒールで治して、またダンジョンに潜った。


 半減されている腕力でもC級並なので、剣の一振りで魔物を確殺だ。

 何なら素手でいけそうな気もする。

 攻撃があたりさえすれば素早いビッグホッパーも一撃で倒せるので、魔物狩りの効率は段違いだ。


 あんまり簡単に倒せるもんだから楽しすぎて多分50体以上は倒したと思うけど、急にギルドへの納品数が増えたら怪しまれるだろうから、納品は分割して少しずつすることにしよう。


 それと、3階層まで進んでおいた。

 多分ボスだって一撃だろうけど、楽しみは後に取っておこうと思って今日は奥まで行かなかった。





 魔石を引き取ってもらうためにギルドに入ったら、ロビーのすみっこにヒュージスがいた。

 ステータスが見えるがすでに交換済みなので、見えるだけだ。

 

 驚いたのは、ヒュージスの周りにいる3人のステータスも見えることだ。


 てことはこいつらが剛力無双か。

 全員が僕に悪意をもっているということは、ヒュージスが仲間に僕のことを話したな。

 なんか遠目に僕のことを睨んでいる。


 まあでも、僕にとっては都合がいい。

 僕に悪意を向けているのだから、遠慮なく交換してやろう。


 それじゃあ、3人の仲間のなかで一番最大HPが高いやつと最大HPを交換することにしよう。


HP:140/2234(←140/190)


 というわけで最大HPも無事C級の仲間入りだ。

 半減されててもなおこのHPならしばらくダンジョンで無双できそうだ。

 ヒールを使ってみると、HPが446も回復した。

 回復系はだいたい割合なので助かる。




 問題はこのあとどうするかだ。

 まだ剛力無双の面々はこちらを見ている。

 そして受付にはエリアさんが座っている。

 おそらく僕の行動を見張るためにいるんだろう。

 暇な人たちだ。


 突っ立っててもしょうがないので納品窓口に移動して買い取りをしてもらった。


 ロビーに戻ってきたらエリアさんから別の受付嬢に代わっていた。

 そして、剛力無双はロビーからいなくなってた。


 ギルドを出てからも一応警戒していたが、剛力無双は僕の前に現れなかった。


 



◇◇◇




 ゴブリン洞窟の奥のボス部屋。

 ゴブリンウォーリアとランダムでお供のゴブリンやホーンラビットなどが2〜4体出てくる。


 お供を先に始末し、ゴブリンウォーリアも軽鎧ごと真っ二つに斬り裂く。

 光の粒子が消え去った後、魔石とドロップ品が残る。

 ドロップ品は少し無骨なフォルムをしたウォーリアソードで、これはレアドロップだ。


 今までロクなドロップ品がなかった分を取り返せた、と思うことにしよう。

 ちょっと小躍りしてしまった。

 当然買い取りには出さずしばらく自分で使うことにしよう。


 ちなみにゴブリン特攻+20%付なので、ゴブリン洞窟の周回向けだ。

 1回目で出たのはとても運がいい。

 ランクアップの規定上いくらか周回しなければいけないので、普通なら次回以降が楽になるしただの武器としてもE級のダンジョンで十分通用する攻撃力がある。


 まったく、剛力無双様様だ。

 殴られたことは許してないけど。




 ゴブリンウォーリアの魔石を買い取ってもらおうとギルドに入ったら、また剛力無双がいた。

 これで2日連続だ。

 そして受付はエリアさんだ。


 相変わらず悪意のこもった目で見てくる。

 まあ、交換してやるけども。


 交換できる残り2人のステータスを見てみると、やたら体力が高いやつがいる。


 固有スキル【鋼の肉体】を持っていて、これは最大HP20%上昇、体力40%上昇、物理被ダメージ半減、知性20%減少とある。

 また、【体力上昇Ⅳ】も持っているので合わせて体力60%上昇だ。

 パーティの盾役だったら頼もしいことこの上ない。


 では、ありがたく体力を【交換】させてもらおう。



体力:294(←35)

 


 これで防御面もバッチリだ。

 状態異常とか魔法攻撃には弱いけど……


 そして、納品窓口から受付に帰ってきたらエリアさんもいなくて剛力無双もいなくなってた。

 ホントなんなんだあいつら。



◇◇◇



 次の日、再度ゴブリンウォーリアを討伐してからギルドへ来たが剛力無双はいなかった。

 さすがに3日連続で僕を見張るほど暇ではなかったようだ。


 受付は久々のエリアさんで、剛力無双は一週間の依頼で出かけたことをこっそり教えてくれた。

 一週間後彼らが帰ってくる日にエリアさんは休暇を取るそうだ。

 

 彼らがエリアさんを口説くなんて一生無理だと思う。






◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 しばらくクラウスは脳筋です。

 様々なスキルを駆使して敵を倒していく主人公も書いてみたいのですが。

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