世界は笑っていた

門前払 勝無

第1話

「世界は笑っていた」


 引っ越そうかなぁー。


 何処に引っ越そうかなぁー。


 やたら速い鼓動が穏やかになるような土地が良いなぁー。


 まささんに相談してみよう。


 僕は大手町の平将門の首塚へ行った。ビルに挟まれて肩身狭く祀られている首塚はお線香の匂いが漂っている。

 首塚の向かいにあるツツジの横に小さな椅子に座ってワンカップを飲んでいる鎧武者がいる。逆立った立派な髭を蓄えて鎌倉初期の派手な鎧を着て赤ら顔である。まるで達磨のような顔つきであるが、何故か怖くはなかった。

「なんだ小僧、何か用か」

明らかに将門である男が声を掛けてきた。

「将門さんですか」

「みりゃわかるべ」

「そうですが、一応聞いてみました」

「お前の名前はなんという」

「サンチョです」

将門は酒を吹き出して笑い転げた。

「メキシカンか」

「日本人ですよ」

「母親はタコスか」

「雅子です」

それを聞いてまた大声で笑い転げている。

「まささん、酷いですよ」

「いやぁゴメンゴメン許せ許せ」

将門は椅子に座り直して僕をジッとみた。

 僕もジッとみたが、将門は口をくねらせながらより目になったのを僕は耐えられなくて吹いてしまった。

「なぁんすか、もう俺は相談しに来たんですから顔芸辞めてくださいよ」

「ついな、やってしまうのだよゴメンゴメン…して、なんの相談しに来たのだ」

「はい、僕は引っ越そうかなぁと思っているのですが、パンデミックとか天変地異が怖くて何処に住んだら良いのやら…そこで将門さんに相談しにきました」

「引っ越しするのに何故ワシに相談してるのかがワシには解らんぞ」

「何でも相談出来るかなぁと」

「それは嬉しいがな…安全な場所に住みたいと言うことだな」

「そうです」

「あ、カラスに聞いてみろ。紹介してやろう」

「カラスっすか」

「高尾山のカラスが良いだろうな」

「よろしくお願いします」

「早い方が良いな…今から行け」

「明日じゃダメですか」

「ダメダメ、明日に東京は地震が来る」

「え」

「死にたくなければ今から行け」

「あ、はい」

僕は将門に頭を下げて走って駅へ向かった。


 お堀のカルガモの親子は小さなリュックを背負って旅支度していた。皇居ランナー達は笑いながら集団で走っている。僕は皇居ランナーを追い抜いて駅へ走った。


つづく

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