高校生ながら天才外科医だという事を僕は隠したい 〜この子はあの時手術した子だよな…〜

ゆうらしあ

第1話 天才外科医

「この子の名前は〜〜、血液型は〜〜、手術場所は〜〜」

 オペ室にいる看護師が紙を見ながら、説明する。


「なるほど…2時間あれば終わるな」

「「「は?」」」

 オペ室にいる全員から気の抜けた様な声が出る。


「これぐらいだったら大した事ないよ」

 僕は手術の準備を進める。


「安心してください、すぐ終わりますよ」

「ほ、本当ですか?」

 手術台に寝転がっている子が汗ばんだ顔でこちらを見つめる。


「はい」

 僕はその子に麻酔を打つ。


「それに早く終わらせないと宿題とかまだ終わってないし」

「え?」





「いや〜凄いよな! こんな人が日本にいるなんて! これならいつ怪我しても大丈夫だな!」

「確かにその通りですね!」

 少し中年の男と若い男がコンビニの前で新聞を広げ、笑い合う。



「…はぁ〜。眠い」

 僕はその男達の事を横目で見ながら、大きく欠伸をして道を歩いていく。


 僕は皆月みなづき そら。高校2年生の、そこら辺にいる男子高校生だ。


 しかし、強いて他の人とは違う所があるとしたら…




『天才外科医、マジックドクター。彼のあまりの手術の手際の良さに、それを見た看護師が魔法の様だと表現した事から、この様な異名が付いたみたいですね! 名前や顔は何故か公表されておらず、その腕は世界でもトップを争うと言われています!』

『いや〜、日本の誇りですよね!』

 ビルの大画面でニュースが流れる。それを多くの人が足を止めてニュースを眺めている。




 そう、実はそれが僕なのだ。

 海外で生まれ、日本人の両親を医者に持ち、飛び級して10歳の時には医師免許を取った麒麟児。


 小さな頃から両親からの手術の際の気持ちののぞみ方、患者に対しての接し方。色々教わってきた結果…僕が初めて手術をしたのは日本での中学2年生の時だ。


 海外で大学院まで行ったが、日本に来た時に両親が、友達が居ないのはダメだと言うので、仕方なく中学校から通う事になった。


 そして学校からの帰り道、僕の目の前で交通事故が起きた。自動車が遊んでいた子供を轢いた事故だった。

 人通りが少なかったせいか、車はそのまま逃亡。子供が1人血を流して倒れたままだった。


 僕は1人、その子供を急いで安全な所へ移動させ、救急車を呼んだ。


 その間、その時できる限りの応急処置を行いながら、その子の付き添いとして救急車に乗った。


 病院に着くと、



「何!? 手術できる人がいない!?」

「早くてもあと2時間は掛かるそうです!」

「じゃ、じゃあ研修医の方に…」

「そ、そんな!? まだ僕には荷が重いです!」


 そんな大人達の会話が奥から聞こえてきた僕は、



「あの、よかったら僕がやります」

 そう言うと、周りは一瞬静まり返る。


「悪いがそう言う悪ふざけには付き合ってられないんだ」

「すまないね。おじさん達今忙しいんだ」

「私達は今、大切な話をしている。早くどっかに行け」

「手術する人がいないんですよね? なら僕がやりますよ。手術衣を貸してもらえますか?」

「あ!? あのね君! ここは君みたいな…


 空は学校のカバンからある物を取り出す。


「「「こ、これはっ!?」」」

「僕の医師免許証です。で、更衣室は何処ですか?」

「「「……ッ!!」」」




 これが僕の初手術だった。

 この手術はきっかり1時間というありえないくらいの速さで僕は終わらせた。まぁ、現場に居合せ、どういう応急処置を行ったかも、ちゃんと知っていたから出来た芸当だが。



 この時テレビに取材をしたいと言われたが、僕はそれを断った。

 学生ながら医師をするのは、もし患者の命を落としてしまった時、責任が取れないと思ったからだ。




 まぁ、結局は親の薦めで手術を行っているのだが。

 空がダルそうに道を歩いていると、


「そーらー! おいーっす! 相変わらず眠そうな顔してんなー!」

「…うっさい」

「ちゃんと今日の数学の宿題はちゃんとやってきたか?」

「…してない」


 空の後ろから、空と同じ制服を着た男が大声で近づいてくる。

 この男の名前は浜田はまだ 雄太郎ゆうたろう。高校入学当初、席が近く、あっちから話しかけられたのがきっかけだ。


 だが…


「あ、あのさぁ、俺のエロ本何処に行ったか知らない?」


 これが僕の高校初めての会話だった。

 色々な人と話してきたが、初対面でこんな事を言われたのは初めてだった。


 コイツと居ると何かと飽きない。だから一緒にいる事が多いのだが、朝から会うとはついてなかった。



「昨日見たエロ本がさ〜〜…」


 朝からエロ本の話。寝不足の僕からしたら中々ヘヴィーだ。

 空は雄太郎の話を、はいはい、へぇーすごーい、っと言いながら学校に向かった。




 はぁ。疲れた。さっさと終わってくれ。もう眠い。

 空は教室に着くと机へ突っ伏す。



 ガラガラガラ


「はい。おはよー。今日は転校生を紹介しまーす」

 担任の晶子先生がダルそうに椅子に座ると、それまたダルそうに言う。



「マジ!?」

「女子!?」

「男子!?」

「喜べ、飢えた男子ども。女子だ」

「「「うぉーーーっ!!!?」」」

「ぶーっ! ぶーっ!」

「イケメンよこせー!」

 クラス中が騒ぎに騒ぐ。



「先生もぶっちゃけイケメンが欲しかったー。でもこれを見たら、こっちもアリだなぁって思うぞー」

 先生はそう言うと、教室の扉を開ける。


 ガラガラガラ


 クラスの視線がその扉の前に注がれる。


「失礼します」


「……」

 クラスの皆はその顔を見て静まり返る。


氷川ひかわ 麗奈れいなと言います。よろしくお願いします」

 その女の子は礼をする。


 女の子は垂れた長い黒髪を耳にかける。その仕草はとても清廉とされており、皆言葉が出ない。顔を上げると、その顔が良く整っていることが分かった。肌は白くきめ細かい。目は大きく、まるで二次元の世界に出てくる美少女の様な女子だった。


「えっと…」


「ほらー、氷川が困ってんだろー。お前ら戻ってこーい」

 先生がそう言うと、皆は目を覚ます様に動き出す。


「じゃあー、氷川の席はあの髪がいつもボサボサの空の隣なー」

 氷川さんがこちらに向かってくる。


「よろしくお願いしますね」

「…よろしく」

 空は突っ伏して横目で氷川さんを見て、答える。


 …この人、僕が手術してあげた子じゃん。

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