第26話 【黄金の椋鳥】に『ござる』野郎を捕まえてみろと言ってみた


4日目5



列に並んで10分後、ようやく俺達の順番が回って来た。


「カース、お疲れ」

「いやホント疲れたよ」


俺は、リュックサックマジックボックスの中から取り出した魔石とドロップアイテムとをカウンターの上に積み上げながら、今日の午後、またも『ござる』野郎と遭遇した事をバーバラに語って聞かせた。


「で、まあさっき【黄金の椋鳥】の連中から声掛けられてさ」

「そう言えば、隣のカウンターに並んでいたわね」


俺達より一足先に換金を終えた【黄金の椋鳥】は、恐らく俺と話をするためであろう、大広間の隅に移動している。


「あいつらに『ござる』野郎を捕まえてくれたら仲直りを考えてやってもいいってカマかけている所なんだ」


俺の話を聞きながらも手早く換金処理を終わらせてくれたバーバラが、今日の報酬――4万6千ゴールド――を手渡しながら、心配そうな顔になった。


「いくらナナちゃんが強いからって、あんた自身はそんなに強くないんだから、あんまり相手を追い詰めない方がいいわよ? また待ち伏せされたりしたら面倒でしょ?」


そうか。

バーバラ的には、ナナの強さに慢心した俺が、【黄金の椋鳥】に逆に追い込みかけているように見えるんだな。


「大丈夫だよ。危なくなったらまたバーバラに助けてもらうから」


実際彼女は、一昨日、俺達が【黄金の椋鳥】に襲撃された時、心配してわざわざ宿まで送ってくれた。


「ちょっと! あたしってそんなに安い女じゃ無いからね?」

「分かっているって。もう少しお金貯まるか、【黄金の椋鳥】の連中から金庫取り戻せたら、ホント、旨いモノ奢るからさ」

「調子いいんだから。ま、気を付けて帰りなさい!」

「じゃあまたな!」


バーバラと軽口を交わし合いながらカウンターを後にした俺とナナは、大広間の隅でこちらの様子を窺っていた【黄金の椋鳥】の連中のもとへと歩み寄っていった。



近付いてきた俺達に、マルコが嫌な笑みを向けて来た。


「よお、聞いたぜ。お前、尾行けられているんだってな」


なんだよ! お前等の差し金なんじゃないのか?

という言葉を飲み込んで、俺は言葉を返した。


「ああ、お前等、何か心当たり無いか?」


マルコが小馬鹿にしたような顔になった。


「あるあけないだろ。で、どんな奴なんだ? 心優しい俺達が、特別にお前の話を聞いてやるぜ」


いちいちムカつく奴だけど、ここはぐっとこらえて、俺は『ござる』野郎の特徴について、マルコ達に説明した。


「で、さっきもユハナに話したけれど、お前等がそいつを捕まえて連れて来てくれたら、場合によっては“仲裁”取り下げて、もう一度一緒にパーティー組んでやらんことも無い」

「なんだと!?」


マルコが茹でダコみたいに真っ赤になった。


「てめぇ、カースのくせにっ!」

「待ちなさい、マルコ」


ユハナがマルコを制してから俺に顔を向けた。


「あなたはその『ござる』野郎さんに、本当に尾行されていたのですか?」

「ああ、間違いない。でなきゃ、一度目はともかく、二度目、39層の天井にへばりついていた理由が説明つかないだろ?」


ミルカが口を挟んできた。


「あんた、どうせ何かやらかしたんじゃないの?」

「はぁ!? どういう意味だ?」

「聞いている限りじゃそいつ、かなり高レベルの偵察系っぽいじゃない? そんなのに尾行け回されるなんて、あんたが何かやらかしたとしか考えられないでしょ?」


なんて言い草だ。

これで実はやっぱり『ござる』野郎は【黄金の椋鳥】の差し金でしたって判明した日には、ただじゃおかないからな!


「じゃあ聞くけどよ。何をしたらそんな妙な奴に俺がつけ回されなきゃいけないんだ?」

「例えば……」


ミルカが少し考える素振りを見せた後、言葉を続けた。


「そこのナナってコ、あんたが騙してパーティーに加えた事、そのコの関係者が怒っている、とか?」

「騙してねぇよ!」

「まあまあ、お二人とも、少し落ち着いて下さい」


当事者であるはずのユハナが、なぜか傍観者的言葉使いで俺達をなだめてきた。


「私から一つ提案があるのですが」

「……なんだよ、提案って」


「カースさんはその謎の『ござる』野郎さんを捕えたい。そして私達はそのお手伝いをしたい。これはもう、一緒にパーティーを組むしか無いですね」


ユハナの言葉に、ハンスが声を上げた。


「そうだな。尾行している奴を捕えるなら、尾行されている奴と一緒に行動するのが一番早道だ」


ミルカも同調した。


「そうね。あんたみたいな下等生物、やっぱり私達と一緒じゃ無いと、明日が見えないだろうし」


マルコが気持ちの悪い笑顔を俺に向けて来た。


「そういうわけだ。特別にお前を俺達のパーティーに戻してやるよ」

「お前ら、俺の話、聞いていたか!?」


思わず大きな声を上げてしまった。

周囲の好奇の視線が俺達に向けられる。

と、同時に聞き慣れた効果音と共に、俺に【黄金の椋鳥】加入を促すポップアップが立ち上がった。

当然、俺は▷NOを押してポップアップを消してやった。


「とにかく、『ござる』野郎をさっさと連れて来い。話はそれからだ。じゃあなっ!」


俺はナナを促して、足早にその場を立ち去った。



『無法者の止まり木』に戻り、夕飯を終えた俺とナナは、客室に戻って来ていた。


さて……


俺は視界の隅、右下に表示されている数値を確認した。



残り3時間53分30秒……

現在003/100



そう。

今夜もまたどこかで【殲滅の力】を使用してこないといけない。

1度目は、『封魔の大穴』1000層?

2度目は街の北。

3度目は街の南。

という事は、まず『封魔の大穴』に行ってみて、いけそうなら39層の奥で使用する。

ダメなら、街の東か西に向かって……


軽く頭の中でシミュレーションした俺は、ナナに声を掛けた。


「ちょっと出掛けて来るからさ。遅くなりそうなら先に寝といて」



『無法者の止まり木』を出た俺は、まず『封魔の大穴』に向かおうとして……

あの妙な違和感に気が付いた。


まさかあの『ござる』野郎、戻ってきやがったのか?


そっと周囲に視線を向けてみたけれど、この時間、通りを行き交う人の数もまだまだ多く、とても不審者らしき人物を探し出せる状況には無い。

かと言ってこのまま『封魔の大穴』にまでついてこられて、万が一にでも【殲滅の力】を使用する場面を目撃されるのは、相当にまずい。


どうする?


少し考えた後、俺は『無法者の止まり木』の中に引き返した。

そして改めてナナを伴って、外に出た。


あの妙な違和感は持続している。


俺はナナに囁いた。


「昼間の奴が戻って来ているみたいなんだ。どこにいるか分かる?」


俺の言葉を聞いたナナは、少しの間キョロキョロした後、『無法者の止まり木』の屋根を指差した。


「あそこに……『ござる』……」


俺も視線を向けてみたけれど、残念ながら奴の姿を見付けられない。

しかしナナが指差している以上、屋根の上に張り付いている事はほぼ確実だろう。


どうしようか?

またナナに焼いてもらう?

しかし……


ただ焼いただけだと、昼間と同様、結局逃げられてしまうだろう。

待てよ。

今は何も、無理して捕まえる必要は無いんじゃないかな。

要は【殲滅の力】を使用する場面を目撃されなければいいわけだし。


俺は突飛とっぴも無い事を思い付いた。

俺はレベル312だ。

腕力だけなら、マルコ剣聖ハンス重騎士も圧倒出来た。

もしかしたら、俺の脚力なら、『ござる』野郎を振り切れるんじゃないだろうか?


ナナに再び客室に戻るよう伝えた後、俺は街の通りを全速力で駈け出した。

目指すは街の東側。

街を出てすぐ上り道になっており、その先は、街を見下ろす高台へと続いている。

通りを駆け抜け、そのまま街の外に飛び出した俺は、息の続く限り、ただひたすら走り続けた。

やがて高台の中腹当たりで息切れを起こした俺は、ようやく立ち止まった。

息を整えながら、周囲の様子を探ってみると、果たして、あの妙な違和感は消え去っていた。

どうやら最初の目論見通り、『ござる』野郎を振り切れたようだ。

しかし愚図愚図していて追い付かれでもしたら元も子もない。


休憩もそこそこに再び歩き出した俺は10分後、街を見下ろす高台に到着した。


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