第18話 ナナと一緒にモンスターを狩りまくった


3日目5



さて、どうしようか?


俺はダレスの街の冒険者必携アイテム、『封魔の大穴の歩き方』に掲載されている各階層のダンジョンマップを眺めながら悩んでいた。

4年前に冒険者になって以来、ほぼ毎日【黄金の椋鳥】の連中と一緒に『封魔の大穴』に潜り続けて来た。

そのため、39層までなら、地形や罠の位置はほぼ全て頭の中に入っている。

しかし40層より先は違う。

40層に入ったのは、あいつら【黄金の椋鳥】にいきなり追放された一昨日が初めてだった。

つまり40層以降は、例え『封魔の大穴の歩き方』のダンジョンマップを見ながらでも、罠に引っ掛かったりモンスターに追いかけられたりすれば、簡単に道に迷う可能性がある、という事だ。


ダンジョン内から地上に一瞬で帰還出来る『帰還石』とうアイテムもあるが、100層以深に出現するモンスターのレアドロップ品という事で、結構な値段がする。

在庫にも左右されるけれど、大体、1個100万ゴールドだ。

そんなものをダンジョンに潜るたびに使っていては、たちまち大赤字。

だから通常、『帰還石』は、深層に潜るパーティーが全滅回避の最後の手段として、1個だけ常備しておくってパターンが圧倒的に多い。


ちなみに探索系の職やスキルを持っていれば、ダンジョン内での自身の位置を簡単に知る事が出来るらしい。

しかし俺はもちろんそんなスキル等持ってはいない。

そういや、ナナはどうなんだろう?


「ナナは、ダンジョン……」


マップを覗き込んで来るでも無く、すぐ近くでぼーっとした雰囲気でつっ立っているナナに話しかけようとして、俺は途中で言葉を飲み込んだ。


「なに……?」


ナナが不思議そうに小首を傾げてきた。


今日一緒にダンジョン潜ってみた感じからすれば、多分、どういう聞き方をしても、困惑したような顔で首を横に振るだけだろう。

ならば論より証拠。

ここは39層に潜ってみて、途中で彼女にここがどこだか分かるか聞いてみよう。

それで彼女がどう答えるかで、彼女の探索系のスキルの有無が判別出来るだろう。


善は急げで、俺はナナを連れて早速39層へと足を踏み入れた。

大人が数人並んで歩けるくらいの、岩肌がごつごつした手掘り洞窟のような通路を、奥へ奥へと進んで行く。

他の階層もそうだけど、壁やら床やら、そして数m近くある高い天井やら、至る所からほのかな燐光が発せられており、特段照明器具が無くても、移動に不便は感じられない。

途中2回、計4体のモンスターを特に何の問題も無く斃した後、俺は少し広間になった部分の隅で、ナナに問いかけてみた。


「ここがどこだか分かる?」


俺の問い掛けに、ナナが小首を傾げた。


「封魔の……大穴?」


いや、そこは別に疑問形じゃ無くていいよ。

今日は朝から『封魔の大穴』に潜ってみようって二人で話してここにいるわけだし。

まあ、いつの間にか違うダンジョンに迷い込んでいたら、そっちの方が怖いけど。


「封魔の大穴の、何層目のどの辺にいるか、とか分かる?」


ナナは少し考える素振りを見せた後、右手を差し出してきた。


「どうしたの?」

「マップ……」

「マップ?」


ナナがコクンと頷いた。


え~と、つまりここの詳しい位置までは分からないって事なのだろう。

まあいいや、せっかくだしマップを見せてみよう。


俺はリュックサックマジックボックスの中から、『封魔の大穴の歩き方』を取り出した。


「ほら、見ていいよ」


ナナは俺から『封魔の大穴の歩き方』を受け取ると、39層のマップを開き、熱心に指で追い始めた。

数秒後、彼女が地図上の一点を指し示した。


「ここ」


確認してみると、見事正解!

……

うん、ナナが“地図が読める女”だという事だけが判明した。

やはり、探索系の職かスキル持ちの冒険者、ウチ【死にぞこないの道化】に加入してもらった方がいいかな……


気を取り直した俺は、途中で昼食休憩を挟みつつ、さらにこの階層でモンスターを狩り続けた。

そしてリュックサックマジックボックスの収納限界まで魔石が手に入ったところで、今日のダンジョン探索を切り上げ、地上に戻る事にした。


39層の大分奥深くの地点で、俺は一応、ナナにたずねてみた。


「地上に一気に戻れたりする?」


ナナは小首を傾げてから、すぐに俺達が今来た道を指差した。


「あっちに……地上……」


……

そりゃ、俺達、あっちから来たしね。


とりあえず、ナナが方向音痴では無さそうな事だけが類推出来た。

ギルドに戻って換金してこよう。


俺とナナは元来た道を地上への出口に向けて引き返し始めた。

帰り道、さらに4回、計10体のモンスター達に遭遇したけれど、全て危なげなく斃す事が出来た。

10個の魔石とドロップアイテムが3個程手に入ったけれど、当然、そのままでは満杯のリュックサックマジックボックスに収納出来ない。

ナナは手ぶらだけど、腕一杯に魔石やらドロップアイテムやら抱えさせるの、なんだか可哀そうだしで、仕方なく俺は、1層スライム10層ボーパルバニー20層ガスクラウド30層ベビージャガーで手に入れた魔石を捨て、代わりにここ39層で手に入れた魔石を放り込んだ。しかしそれでも魔石6個はその場に放置せざるを得なかった。


……お金貯めて、もう少しランクの高いリュックサックマジックボックスに買い替えるか、低ランクの安物でもいいから、ナナ用にもう一個買っておくか…….


ここまで考えた時、俺は重大な問題に気が付いた。


今、俺のリュックサックマジックボックスの中には、ウロボロスの魔石やダイアウルフの魔石を除いて、レベル39のモンスター達がドロップした魔石が97個入っている。

当然、換金すればそこそこの金額になるはず。

換金すれば……だけど。


どうしよう?


バーバラは俺の事、まだレベル40だと思っているはず。

そんな俺が、いきなりレベル39のモンスターがドロップした魔石97個も持ち込んだら、大騒ぎどころでは済まないだろう。

下手したら、俺が本当はレベル312だって事がバレるかもしれない。

もしそうなれば、なんでだ? って話になるわけで、

当然、あの謎の広間の話やら、1000層?のウロボロスの話やら、ナナの事やら【殲滅の力】の力やら、

とにかく滅茶苦茶ややこしい事になるのは目に見えている。

下手したら、国が出てきて、俺を監禁してあんな事やこんな事になって……



―――ぶるっ!



ダイアウルフの魔石を20個手に入れた時以上の焦燥感に襲われた。


だけどしかし、今後どうする?

せっかくモンスター斃して魔石を手に入れても、換金出来ないんじゃ意味が無い。


一生懸命無い知恵を絞った末に、俺はナナに相談を持ち掛けた。


「なあ、君が実は凄い実力者だって話、バーバラにだけ伝えてもいいかな?」

「?」


ナナが小首を傾げている。


「バーバラは、あれで口は結構堅いんだ。職務上知り得た秘密は~とかいう……なんだっけ? そう、守秘義務ってやつだ」


ナナは小首を傾げたままだ。


「で、ここからが本題だが、俺達はとりあえず、かねを稼がないといけない」

「金を……稼ぐ?」

「そう。でないと、宿にも泊まれないし、食事もままならない」


ナナは何かに納得したような顔になった。


「カースは……宿に……泊って……食事を……したい?」

「そりゃそうだよ。っていうか、ナナもそうだろ?」

「私は……別に……」


……まあ、あんな真っ白な謎空間で出会った元???さんだ。

もしかしたら本当にご飯なんかどうでもいいと思っている可能性あるけれど。


「まあそんなわけで、今後ギルドで換金する際、何か突っ込まれたら、実はナナが実力者で、モンスターいっぱい斃してくれたって説明したいんだ。あ、もちろんその事は、絶対誰にも言わないでくれって念を押しておく。いいかな?」


実際、今日のモンスター、半分以上はナナが斃したんだし、そんなに嘘は言っていない。


「カースに……まかせる……」


ナナはそう口にしてにっこり微笑んだ。

うん、外身そとみ中身なかみも、まがう事無き正真正銘の天使だ。


ともあれ、バーバラはナナの実力を知らない訳だし、俺について説明するより、ずっと簡単な話で済むはずだ。

で、ナナの実力に関しては、しっかり口止めしておく。

ナナを、噂を聞きつけた他の実力派パーティーに引き抜かれたら普通に泣くし、ナナが実力者だって話をきっかけに、俺の事を勘ぐって来る奴が現れないとも限らないからな。


そんな事を考えている内に、俺達は無事、39層を出て、地上に辿り着く事が出来た。


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