第15話 ギルドで“仲裁”に臨んだ


3日目2



【黄金の椋鳥】の連中を無視したままさっさと朝食を終えた俺とナナが立ち上がると、なぜかまだ食事を終えていないはずの【黄金の椋鳥】の連中もまた、立ち上がった。


「……お前ら、まさか……」


マルコがへらへら軽薄そうな笑みを浮かべて言葉を返してきた。


「ギルド行くんだろ? 一緒に行こうぜ」

「一緒に行くわけ無いだろ!?」

「まあまあ、そうつんけんするなって」


マルコが、へらへら笑いながら、俺の肩に右腕を回してきた。

そして小声で、しかしドスの効いた声で問いかけて来た。


「なあ、お前のスキルについて、もう一回説明してくれねぇか? って、イテテテテ……」


俺は肩に回されたマルコの右腕を捩じ上げながら外した。


「説明も何も知っているだろ? 俺をパーティーに加入させれば、お前等には“しょぼくて初心者ブーストの役にしか立たない”スキルが一つずつ付与される。俺を追い出せば、供与されていたスキルも使用不能になる」

「その事なんだけどな……」


マルコが、右腕をさすりながら俺を睨んできた。


「お前……追放された腹いせに、俺達が元々持っていたスキル、奪っただろ?」

「はぁ?」


何を言っているんだ、こいつは。

そんな事が出来るならやってやりたいところだけど、俺の持つスキル『技巧供与』にそんな効果は無い。


「てめぇ、じゃあなんでそんなに強くなっているんだよ? おかしいだろ? 俺やハンスが腕力でお前に押し負けるなんてよ!」


腕力で……

それは単純に俺のレベルが312まで上昇した事に起因すると思うけれど、こいつらは、そんな事、知る由も無いわけで。

と、俺はここで違和感を抱いた。


―――スキル、奪っただろ?


そういやこいつ、昨日ギルドで絡んできた時第11話も、似たような事口走っていたな……

まさか……?


「お前ら、俺が供与してやっていたスキル以外で、使えなくなっているスキル、あるのか?」


マルコが苦々し気な表情になった。


「何を白々しい……てめぇ!」


マルコが、俺の胸倉を掴んできた。


「おいおい、お前ら! 他の客の迷惑だよ!」


騒ぎに気付いたらしいゴンザレスが、俺達の間に割って入った。

マルコが、苦笑いを浮かべながら手を離した。


「すみません、ちょっとカッとなってしまって」

「マルコ、お前はそのすぐに頭に血が上る性格、どうにかしろ!」


マルコとゴンザレスの会話を横目で見ながら、俺はナナに合図した。


「行こうか」


俺とナナが歩き出すのと同時に、マルコ達【黄金の椋鳥】の連中も、俺達を追いかけるかの如く、歩き始めた。

俺は数歩歩いて足を止めた。


「付いて来んじゃねぇよ!」

「そんな事言われても、俺達もギルドに行くんだしな」


なあ、みたいな感じで、勝手に皆でうなずき合っているけれど、こいつらの魂胆は分かっている。

どうせ、ギルドへの道すがら、今回の“事故”は、あくまでも誤解の産物、みたいな方向で俺を説得、或いは脅迫しようと考えているに違いない。


俺達の様子を見ていたゴンザレスが、やれやれといった感じで切り出した。


「誤解とは言え、一度生じたわだかまりは、なかなか消えないからな……仕方ない、俺がお前らをギルドまで送ってやるよ」

「え? あ、いや、おやじ、それはさすがに悪いよ!」

「そうですよ、ゴンザレスさん。私達は4年も一緒に過ごした仲間です。ちょっとした誤解なんて、ギルドへの道すがら、話し合えばたちまち解決するはずです」


……やっぱり俺を説得脅迫する気満々じゃねぇか!

しかし待てよ?

ゴンザレスがギルドまで付いて来てくれるなら、結果的にこいつらの動きを封じる事に繋がらないか?


「おやじ、悪いけれど、付いて来てもらってもいいかな? おやじがいてくれれば、俺も安心できるというか」

「お、おい、カース!」

「カースさん、ゴンザレスさんはお忙しいんですよ? お手を患わせるわけには……」


【黄金の椋鳥】の連中が、必死になってなんとかゴンザレスが付いてくるのを阻止しようと頑張っていたけれど、結局、面倒見の良いゴンザレスは、俺達がギルドに行くのに付き添ってくれることになった。



ギルドへの道すがら、ゴンザレスの両脇をミルカとユハナが固め、おやじゴンザレスの鼻の下がすっかり伸び切っているのを確認したかのように、マルコが気持ちの悪い笑顔で俺に囁いて来た。


「なあ、とりあえず一度、【黄金の椋鳥】に戻って来てみないか?」

「ふざけんな! どうせまた何かあった時の囮要員って事だろ?」

「違うって……」


マルコが顔を寄せて来た。


「ちょっと確かめてみたいんだよ」

「確かめる? 何を?」

「だから俺達のスキルをお前が奪ったかどうか、だ」


俺はマルコを睨みつけた。


「奪える物なら奪ってやりたいけどな、残念ながら、俺のスキル『技巧供与』にそんな効果は無い!」

「そんな事言ってお前、実は最初から分かっていたんじゃ無いのか?」

「何の話だ?」

「いいから、一回戻って来てみろって。それではっきりするからよ」

「断る!」

「お前……ナナちゃんだっけ?」


マルコは俺の隣、マルコとは反対側を歩くナナに視線を向けた。


「あんな弱そうな奴と二人っきりのパーティーじゃあ、碌なクエストも受けられないだろ?」


俺はマルコを思いっきり睨みつけてやった。


「少なくとも、4年も一緒にパーティー組んでおいて、いざとなったら片足斬り飛ばして囮にするような奴には、そんな事、言われたくないな」



結局、ゴンザレスが同行してくれたお陰か、それ以上特筆するべき何事も起こることなく、俺達は9時前には予定通りギルドに到着した。

ギルド職員の案内で、俺達は小会議室のような場所に通された。

そのまま椅子に腰掛けて待つ事数分、ギルドマスターのトムソンとバーバラが部屋にやってきた。

そして二人が、俺達の正面の位置に腰掛け、“仲裁”が開始された。


トムソンが口を開いた。


「事前に話は聞いているが、改めて当事者の口から直接、何があったのか話してくれ。まずはカース、お前からだ」


俺はバーバラに話したのと同じ内容をトムソンに伝えた。

ドラゴニュートの大群から【黄金の椋鳥】の連中が逃げる際の囮にされ、大穴に投げ落とされ、途中の知らない広間でナナと出会い、パーティーを組み、【完救の笏】で全快してもらい、地上に帰還した……


話しながらそっと横目で【黄金の椋鳥】の連中の様子を観察してみた。

やつらにとっては初めて聞く話のはずだけど、そんなに驚いている雰囲気は感じ取れない。

まあもともと、俺に実際何が起こったかに関わらず、『無法者の止まり木』でゴンザレスに話していた“言い訳”で押し通すつもりだから、なのかもしれないけれど。


俺の話を、目を閉じて腕組みしながら聞き終えたトムソンが、目を開けた。


「よし、それじゃあ次は【黄金の椋鳥】……マルコの言い分を聞こう」

「俺達は……」



―――コンコン



マルコが話し始めたタイミングで、部屋の扉がノックされた。

バーバラが立ち上がり、扉を開けて外に居る誰かと二言三言言葉を交わした後、外の人物が部屋の中に招き入れられた。

入って来たのは、中肉中背の若いノームの男性だった。

俺も顔だけは見知っているけれど、確かギルドの職員だったはず。

彼は俺達にチラッと視線を向けた後、トムソンに近付き、その耳元で何かを囁いた。

見る見るうちに、トムソンの表情が険しくなっていく。


「本当か?」


トムソンが聞き返し、ノームの男性が頷いた。

トムソンは、しばらく何かを思案する素振りを見せた後、俺達に申し訳無さそうな顔を向けて来た。


「すまんな。ちょっと緊急で俺が出向かなきゃいけない事になった。この続きは後日改めてって事にしてもらいたい」


ユハナがトムソンに問いかけた。


「何かあったのですか?」

「何かと言うか……」


トムソンは一瞬口ごもったけれど、すぐに言葉を続けた。


「まあ、別に秘密の話でも無いから説明しておこうか。実は昨夜、ここからロイヒ村に向かう街道脇の森の中で、謎の大爆発があったらしいんだ。で、その調査に冒険者達を向かわせていたんだが、どうやらあいつらだけでは手に負えないって事で、俺が呼び出されたって話だ」


ロイヒ村と言えば、確か昨日のクエストの目的地だったよな。

謎の大爆発って……

もしや……?


俺の心拍数が一気に跳ね上がる中、“仲裁”の続きは後日に持ち越しとなってしまった。


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