第14話 【黄金の椋鳥】の連中が宿に押しかけて来た


2日目8



俺は自分のステータス値を改めて確認してみて目を見開いた。

筋力やら敏捷やら、細かく区分されたステータス値の全ての欄に、異常な数値が表記されていた。

ていに言えば、マルコ達のステータス値の4倍から5倍の数値だ。


もしかして……


俺は今日一日の出来事を思い返してみた。


妙に弱かったゴブリン。

戦い慣れして無さそうに見えた粗暴な男達。

俺を囲んで遠巻きにしたまま、いつまで経っても襲い掛かって来なかったダイアウルフ達。

そして、【黄金の椋鳥】の連中との戦い……


レベルが上がった事で、俺のステータス値は、俺の想定を大きく上回る成長を遂げていたようだ。

コレなら、40層であのドラゴニュート達に復讐……いや、過信は禁物だ。

思い上がってモンスターハウスに踏み込んで、返り討ちにされて、もう一回殺されかかったら、今度こそ命が助かっても俺の心が折れてしまうだろう。

まあ明日、“仲裁”終わったら、ナナと一緒に『封魔の大穴』1層目から潜り直してみよう。

そうすれば、自分とそしてナナの今の実力も正確に測れるだろうし。


そんな事を考えている内に、俺はいつの間にか夢の世界へといざなわれて行った。




3日目1



朝8時前、俺は予定通りの時間に起床した。

さて、起き……



―――ピロン♪



うわっ!?

昨日と同じく、寝起きにいきなりポップアップが立ち上がった。



【おはようございます】

【今日も【殲滅の力】を使用して、ナナの力を解放して下さい】

残り16時間08分23秒……

現在002/100



……なんなんだ、一体?

ん?

残り時間の下の“現在”って所の数値、昨日は001/100じゃ無かったっけ……?

……

まあいいや、こういうのは気にしたら負けだ。


気を取り直した俺は、ナナを起こして手早く準備を済ませてから、階下に向かった。

今日は9時からギルドの“仲裁”の場で、【黄金の椋鳥】の連中と直接対……って、おい!

なんと階下の酒場で、当の【黄金の椋鳥】の連中――マルコ、ハンス、ミルカ、ユハナ――と宿の主人ゴンザレスが、食卓を囲み談笑している!?


ナナと一緒に階段を下りて来た俺に気付いたらしいマルコが、気持ちの悪い笑顔を向けてきやがった。


「カース、おはよう。お前、ここに泊っていたんだな」


白々しい。

大方、昨夜、俺達がバーバラと一緒だったから、再襲撃する機会をしっしたまま、宿までこっそりつけてきやがったに違いない。

それにしてもなんで、ゴンザレスまで楽しそうに飲み食いしてやがるんだ。

おやじゴンザレスには、昨夜、【黄金の椋鳥】の悪行についてちゃんと説明したのにな。


俺はマルコにつかつかと近付いた。


「なんでお前等がここにいるんだ?」

「なんでって、お前、久し振りにおやじゴンザレスに会いに来て、話が弾んで、ついでに朝飯食っている所だが?」

「お前なぁ!」


マルコに詰め寄ろうとした俺に、ゴンザレスが声を掛けてきた。


「カース、4年も一緒に過ごした仲間に、そんな言い方するもんじゃない」

「おやじ、昨日も話した通り、こいつらは……」

「その事なんだがな」


ゴンザレスが、気の毒そうな顔になった。


「どうやら、お前の勘違いだったみたいだぞ?」

「勘違い?」

「ああ」

「そこから先は、私が説明しましょう」


ユハナがすっと俺達の会話に割り込んできた。


「カースさんは私達に追放されて、ドラゴニュート達から逃れる際の囮にされた……そう感じてらっしゃるんですよね?」


俺はユハナを思いっきり睨みつけてやった。

感じてらっしゃるも何も、それが事実だろ!?


ユハナは俺の燃え上がるような激情を、全く歯牙にもかけない素振りを見せながら言葉を続けた。


「事実はこうです。ドラゴニュートの大群に襲われ、あなたが殿しんがりを申し出てくれた。そのお陰で私達は地上に……」

「嘘つくんじゃねぇよ!」



―――ドン! バキっ!! ガラガッシャン!



思わずテーブルを叩いてしまったけれど、勢い余って壊してしまった。

テーブルの上の料理が盛大に床にぶちまけられ、朝食を摂っていた他の宿泊客達が、一斉に俺等の方に視線を向けて来た。


ゴンザレスが眉根を寄せながら、壊れたテーブルを調べ始めた。


「カースが殴った程度で壊れるたぁ、足が腐っていたか?」

「おやじ、ごめん。弁償するよ……」


申し訳なさで、俺の心が急速にクールダウンしていく。


しかし……


俺はユハナを睨みつけた。


「おい、一体どこから俺が殿しんがり引き受けたって話が出て来るんだ? 囮を押し付けられた、の間違いだろ?」


ユハナが身に付けている青いローブに飛び散った料理を払いながら、言葉を返してきた。


「ですからそれは勘違いです」

「勘違い?」

「いいですか?」


ユハナが、小さな子を諭すように語り掛けてきた。


「人は弱い生き物です。死の淵に立たされ、記憶が混乱する事はよくある事です」

「記憶が混乱?」

「恐らく……あなたはドラゴニュート達に文字通り殺されかかった。いえ、半分死んでしまっていたのかもしれません。そのため、私達のパーティーから離脱扱いになった。しかし神は勇敢なるあなたをお見捨てにはなられなかった。ドラゴニュート達が去り、奇跡的に息を吹き返したあなたは、記憶が混乱したままこうして地上に無事帰還した……」


俺は文字通り、開いた口が塞がらなくなってしまった。

ナンダソレ?

そんな言い訳が通じると、本気で思っているのか?


ゴンザレスが俺に声を掛けてきた。


「まあつまり、そういう事だったみたいだぞ? 朝食、作り直してやるから、お前等あっちのテーブルで一緒に飯でも食って、仲直りしろ」

「やっぱりおやじは話が分かるな!」

「ゴンザレスさん、お気遣いありがとうございます」


【黄金の椋鳥】の連中が、軽薄な感謝の言葉を口にして、ゴンザレスが満面の笑みを浮かべている。

……おい、まさかとは思うけれど、自分よりレベルの低いミルカかユハナに、魅了魔法チャームでもかけられているんじゃ無いだろうな?

まあいい。

どうせ今日は9時からギルドで俺達の“仲裁”が行われる。

そこで白黒きちんとつけてやる。


俺はナナと一緒に、隅の二人掛けのテーブルにどっかと腰を下ろした。

しかし【黄金の椋鳥】の連中は、他にも空いているテーブルがあるにも関わらず、隣の四人掛けテーブルに移動してきやがった。

そのまま無視していると、突然聞き慣れた効果音とともに、ポップアップが立ち上がった。



―――ピロン♪



俺は立ち上がったポップアップの内容に目をいた。


「どういう事だ?」

「どういう事って、見たまんまだが?」


隣のテーブルから、マルコが言葉を返してきた。


「俺が聞きたいのは、なんで【黄金の椋鳥】加入のお誘いのポップアップが、俺の目の前に立ち上がっているんだって事だ!」

「そらお前、俺がお前を勧誘しようとしているからだろ?」


意味が分からない。

一昨日に追い出した相手をもう一回加入させてどうする?

はっ!?

もしや、この前のドラゴニュート戦でおとりの重要性を認識して、とりあえず俺を確保しとこうとかそういうアレか!?

俺は思いっきり▷NOを選択してポップアップを閉じてから、マルコを睨みつけた。


「お前、どういう神経しているんだ?」


マルコがわざとらしく当惑したような表情を見せてきた。


「元の鞘に収まろうって提案じゃねぇか? お前こそどうしたんだ? あ、もしかして、新しいパーティー組んじゃっているから、とかか? それなら……」

「おま……!」


叫ぼうとしたタイミングで、ゴンザレスが、俺達の朝食を運んできた。


「おいおい、またテーブル壊したりすんなよ?」


ゴンザレスが、給仕の獣人と手分けして、手際よく料理を並べていく。


「腹が減ってりゃイライラもするさ。これ食って落ち着け」


こんな所で不毛な会話を続けても埒が明かない。

とりあえず俺は、隣のテーブルに陣取る【黄金の椋鳥】の連中を無視して、手早く食事を済ませる事にした。


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