献上品


「んん……シオン様ぁ、まだ早いですよぉ……?」


「いや、俺はもう我慢できない。そろそろ行くぞ、エリュ」


「も、もう少し……」


「ダメだ」


「うぅ……」


 さあ、今日もレベル上げだ。


 俺は朝早く起きるのは慣れているので、エリュネシアを起こす形で屋敷を出た。

 彼女を置いて出ていくことも考えたが、思詰めた彼女に命を狙われる可能性もあるしな。


「お待ちくだされ」


「あ……」


 声をかけてきたのは女騎士ルチアードで、領兵たちを引き連れてこっちへやってくると、胸に手を置いてひざまずいてきた。


「シオン殿、それにエリュネシア殿、おはようであります」


「ああ、おはよう」


「ふわあ……お、おはようです、ルチアードさん!」


「ルチアード、俺たちに何か用事かな?」


「シオン様の屋敷の周りの見回りをしようかと。しかしまさか、こんな朝早くからお目にかかろうとは……」


「あぁ、俺の力を見せる期限が今日を含めてあと五日だから、ゆっくり休んでる暇はないと思ってね」


「なるほど。それにしても、いつも昼までぐっすりお休みになられることで有名だったあのシオン殿が、本当によく変わられたものです……」


「ははっ、俺は生まれ変わったから……」


 決して嘘は言ってない。


「ルチアード様、ちょっといいですかい? 領主様はお忙しい立場だし、あんまりお邪魔したら悪いんじゃありませんかねえ?」


「そ、そうであったな……」


 後ろにいる顎鬚の男の台詞に対して、ルチアードが気まずそうにうなずいた。灰色のローブといい髑髏の杖といい、姿もそうだが雰囲気も魔術師っぽいな……。


「その前に、シオン殿に献上品を……」


「献上品?」


「これでございます」


「こ、これは……」


 ロングソード……ではあるんだが、弦と空洞が刀身の根本についているのがわかる。

 ギターのボディ部分を極端に小さくして、その下にグリップをつけてネックの上半分がブレードになったような代物なんだ。


「武具屋の『双竜亭』を訪ね、シオン殿のためにと特注で作らせました。ただの楽器で戦うには、あまりにも勿体ない腕だとお見受けしたゆえ……」


「なるほど。これなら一石二鳥、いや、四鳥にもなりそうだ」


 なんせ、楽器を手放して普通の剣で戦うにしても、経験値は稼げないし音の効果も上乗せできないんだが、これがあればマイナス要素をすべて排除できる。


「本当にありがとう、ルチアード……」


「っ!?」


 俺がルチアードの手を両手で握ると、はっとした顔で払いのけられた。つい喜びのあまりやってしまった。さすがに馴れ馴れしすぎたか。


「悪かったな」


「い、いえ、全然結構でございます……」


「え?」


「い、いえっ……」


 耳まで真っ赤だな。もしかしたら、かなりシャイな子なのかもしれない。俺も人のことはいえないが……。


 あ、そういえば彼女のステータスを見てなかったな。この際、開示してみるか。


 名前:ルチアード=ステイシア

 性別:女

 年齢:21

 身分:兵長

 職業:騎士

 ジョブレベル:16

 習得技:クリティカルピアース シールドアタック スイープランス

     スピアブーメラン ホーリープロテクション


「……」


 圧巻だった。今まで見た中では彼女は確実に一番強い。さすが領地を守る兵士たちのトップなだけあると感じた。


「おっとっと!」


「あ……」


 ローブ姿の男がバランスを崩したのか勢いよくこっちに向かってきて、俺は寸前のところでかわしてみせたわけだが、結構危なかった。


「ふう……これは失礼しました、領主様。どうやら石ころに足を取られたようで……」


「そうか……」


 おそらくわざとだな。俺に挨拶代わりに恥をかかせようとしたが失敗したってところか。領主に対してあまり快く思ってないんだろう。


「ところで、お前は誰だ?」


「え。ええぇ?」


「あ……」


 そうだった。本当に誰なのかわからないので素で訊ねてしまったが、本来なら知っておかないといけないんだった。


「ご、ご冗談を、領主様……ゲラードですよ……」


「ククッ……」


 気まずそうに顎鬚を掻く男を見て、ルチアードが可笑しそうに口を押さえている。


 わざと体当たりしてきたこのゲラードという男に対して、こっちも手痛い挨拶で返してやったって格好だし、まあいいか。


「領主様、随分と変わられましたなあ。まるで別人のようで……」


「おいゲラード、やめぬか」


「まあまあ、ルチアード、最近よく周りからもそう言われるよ。でも、気のせいじゃないかな。ねえ、エリュたん」


「む、むうぅ、その言い方は、確かにあの男……いえ、領主様のもの……」


「ふふっ。ゲラードさん、驚かれたようですが、シオン様は変わられたんですよ? 参りましたか?」


「こ、これは参りましたなあ……」


 エリュネシアのしたり顔に対して、ゲラードは苦手に感じてるのかやや引き気味だ。そうだ、彼のステータスについても調べてみるか。


 名前:ゲラード=ジャスティン

 性別:男

 年齢:28

 身分:副長

 職業:魔術師

 ジョブレベル:19

 習得技:ファイヤーボール アクアスティック ウィンドカッター アースドリル ダークミスト ライトシャワー


 これまた、結構な立場の人間な上、ルチアードに負けず劣らずの強者だった。四代元素の魔法に加えて闇と光も完備している。


 というかこの男、なんとなく勘が鋭そうだしあまり接触しないほうがよさそうだな。

 ちらちらと疑いの眼差しを感じるし、俺が本当のシオンじゃないことがバレたら、後々面倒なことになりそうな気がする……。

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