成らず者
『――プギャッ!?』
俺が振り下ろしたリュートのボディ部分が、スライムのどてっぱらに命中した瞬間だった。
心地いい手応えや悲鳴とともに、青いゼリー状のモンスターは木っ端微塵となり、俺の脳内に《経験値を1獲得》という文字が表示された。
よしよし……サクサクとまではいかないが、風の音を使って体が軽くなった効果が早くも出ているし、この調子ならジョブレベルが上がる日もそう遠くはないだろう。
「シオン様、ナイスです。その調子ですよー」
エリュネシアの声援を受けながら、俺はリュートを振り回してスライムを殴り倒し、経験値を稼いでいった。
はっきり言って順調だ。順調なんだが……正直単調すぎて、30匹ほど倒したところで飽きてきた。
一匹倒しても経験値を1しか稼げないし、ジョブレベルが上がる気配はまったくない。そうだ、あとどれくらいで上がるのか心の声に聞いてみよう。
《あと68です》
なるほど……って、あと68匹もスライムを倒さなきゃいけないのか。しんどいな……。
「なあエリュ、標的をスライムからゴブリンに変えようか? 経験値もスライムよりは多いだろうし」
「い、いけません! シオン様、ゴブリンはスライムよりもずっと強い上、群れてかかってきます。そう簡単には倒せませんよ……?」
「そうか……」
そうだ、ほかに覚えられる音でもないだろうか? 気分転換にもなりそうだし。
《不可。現在、習得できる技は一つまでです》
え? じゃあどうやって技を増やせるんだ?
《ジョブレベルを上げることで増やすことができます》
なるほど。今のところジョブレベル1だから1つしか覚えられないってわけか。上書きもできないっぽいし、レベルが上がるまで我慢するしかなさそうだな。
「シオン様、そろそろお休みになられますか? レベル上げなら明日でもいいかと……」
「いや、やるよ」
「シ、シオン様、なんという素晴らしい忍耐力なのでしょう……」
「ははっ……」
飽きてはいるものの、別にそこまで苦痛なわけでもないけどな。それから俺は地道にスライムを68匹倒すことに。武器が剣なら楽なんだが、それじゃ経験値を貰えないし仕方ない。
「――お、終わった……レベルアップだ……」
「ヒールッ! シオン様、おめでとうございますっ!」
ようやくだ。《ジョブレベルが上がりました》という文字が脳裏に刻まれたあと、俺はステータスを開示してみた。
名前:シオン=ギルバート
性別:男
年齢:15
職業:吟遊詩人
ジョブレベル:2
習得技:風の音
よしよし、ちゃんとレベルが上がってるのがわかる。
さて、もう一つ音を習得するとしよう。とはいえ、音なんてそこら中に溢れてるわけで、いざ覚えようと思うとなんにするか迷うな――
「――おうおう、そこにいるのはシオンちゃんじゃねえか」
「お、シオンがこんなところにいるなんて珍しいじゃーん?」
「え……」
そのときだった。それぞれ剣と槍を手にした二人組の男から、にこやかな顔で声をかけられたのだ。
「てか、シオンちゃんのその格好、なんだよ。【遊び人】にでも転職したのか?」
「いや、シオンのステータスを見てみろよ、こいつ【吟遊詩人】だよ。あんま見たことないジョブだけど、シオンにぴったりじゃん。ま、無職のほうが似合ってんだけど」
「「ププッ……」」
「……」
今度は笑い始めた。なんなんだよ、こいつら……。
「あんたら、誰だ?」
「「あぁ……?」」
笑顔から一転して、二人から鬼の形相で凄まれることに。妙に馴れ馴れしいし旧シオンの知り合いなんだろうが、ろくな連中じゃなさそうだ。
「シオンちゃん、何しらばっくれてんだよ、コラ。まさか、俺らに喧嘩売ってんのか?」
「こいつ、たまに不服そうな面するしさー、また痛い思いしたいんだろ。ドMなんじゃね?」
「こいつ――」
うざすぎるので追い払ってやろうかと思った矢先、後ろからエリュネシアに手を握られた。
「――シオン様、いけません。ここは、一旦逃げましょう……!」
「な、なんでだ、エリュ?」
「今のシオン様では、到底かなわないからです。この人たちのステータスをご覧になってください……」
「あ、あぁ……」
彼女に小声で言われた通り、二人組の情報を開示してみる。
名前:ランガス=ウェイン
性別:男
年齢:16
身分:F級冒険者
職業:剣使い
ジョブレベル:5
習得技:バッシュ
名前:ロビン=ゴルファス
性別:男
年齢:16
身分:F級冒険者
職業:槍使い
ジョブレベル:5
習得技:ローリングスピア
ランガスにロビン、か。なるほど、二人とも冒険者ランクはともかくジョブレベル5なんだな。今の俺のレベルでは、エリュネシアが逃げようというのもわかる。
「でもこいつら、なんかしょぼくないか?」
「シ、シオン様……確かに【剣使い】や【槍使い】は、剣と槍を扱う職では最も下といわれていますが、それでもジョブレベルは5ですし、しかも二人がかりです。かないませんよ……」
「……そうかなあ? 俺はそうは思わないが……」
「シ、シオン様ぁ、そんなこと仰らずに、早く逃げましょうよ……」
「いや、待ってくれ。ジョブレベル5なのにスライムエリアにいて、しかもレベルが低い相手を脅してるわけだろ。それは物理的に傷つく心配がないと思ってるからだ。そんな怖がりな連中に負ける気はしない」
「シオン様……格好いいです……でも、さすがに無理ですよ……」
「エリュ、これを見ろ」
俺は木刀をエリュネシアに見せてやった。一応、使うことがあるかもしれないと思って持ってきてたんだ。
「あっ……! そういえば、シオン様はそれを使うのがお上手でしたね……!」
「あぁ、これがあれば大丈夫だ」
「おいシオンちゃん、さっきから何ぐだぐだ喋ってんだ? あ? その女をお前の目の前で犯されてえのか?」
「シオン、それが嫌ならとっととついてこいって。お前の父親の形見を売ったときみたいにさー、みんなでパーッと豪遊しようぜ?」
こいつら、とんでもない下種どもだな。脅されて形見を売った旧シオンも悪いが、そうなったのもこいつらが元凶だろう。思い知らせてやらなければ……。
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