「はつせ」出航
日本国第三任務部隊暫定旗艦「はつせ」 二十二時五十一分
「了解、出航はなるべく早くですね」
山口提督は、そう言って受話器を置いた。そして作戦室にいる四人の参謀たちにこう言った。
「十分後に出航だ。できればそれまでに作戦案を考えること」
参謀たちはうなずいて答えた。井口艦長は機関室に電話をかける。
「機関長、燃料はどんな塩梅だ」
「まあ、本艦は腹八分といったところですかね。地球二週分はもちます」
「わかった。三十サンチ半三連装砲、一番から六番砲塔異常ないか」
「はい」
「他各部、異常があれば報告せよ」
「八番対潜ミサイルランチャーの制御盤のレバーが折れました」
「古いからなぁ……。予備部品で修理せよ」
「ありません!」
「なら工作班を回す。壊れないようにな」
「艦載機は」
「すでに再配備が済んだものは回ってこないそうだ。つまりゼロということだな」
「じゃあ格納庫は……」
「対空砲の砲弾を積めるだけ積んでおけ」
提督執務室に入った山口提督は、メモ帳を取り出して、ものすごい勢いで書き始める。時折スマートフォンで画像検索を行ってはファクトチェッカーで事実確認を行い、事実と思われる画像だけを「状況」というフォルダにダウンロードする。ものの数分もしないうちに、山口提督はひとつの結論に達した。先ほどまで書いていたページの文章の上に、
「無理」
と書き込む。そして次のページにさらにカリカリと何か書き始めた。山口提督は頭をひねりつつ、書き込んでいく。十分が過ぎ、出航時刻になった。タービンにつながるギヤのシフトが「前進」に入れられ、機関が回転する。出航の発光信号と汽笛を発し、低いうなるようなエンジン音を立てながら、旧式戦艦「扶桑」を大改造した護衛艦「はつせ」はゆっくりと父島港の特設桟橋を離れる。その艦橋では、再び作戦室に入った山口提督と四人の参謀たちが話し合っている。
「何か作戦は思い浮かんだか?」
参謀たちは皆一様に首を横に振った。
「まあ、そうだろうな。私も思いつかなかった。あのサンタ・ベルナージ要塞は難攻不落だし、おまけにマカスネシア連邦の艦隊という付録つきだ。ミサイル艇が多いのも厄介だしな。さらに、艦隊をどうするかも意見の分かれるところだろう。沈めるか、それとも拿捕するか?」
ここで、参謀の山野真哉准将が口を開いた。
「マカスネシア連邦の艦隊に空母が一隻いましたよね。あの空母も敵側に回ってるんですか?」
山口提督は答える。
「ああ、『ヴェルサイア』ならおそらく敵側にいる。よって、航空戦力がないこちら側に比べて、あちらは圧倒的に有利だ」
「航空戦力をなんとかしない限り負ける気しかしないんですが」
山口提督はため息をつきながら言った。
「マカスネシア空軍と連絡をとろうとしてるんだが、妨害電波がムンタワイ周辺から発信されていて、つながりそうにない。衛星通信も受信できないようだ。どうもこの様子だと、有線の電話ぐらいしか通じそうにないな。まあ、到着は五日後、二十九日の深夜だ。それまでに何とかなることを信じよう」
二時間後、深夜一時近い暗闇の海上で、第三イージス防空戦隊を擁する第五護衛艦隊が合流してきた。第五護衛艦隊の旗艦・「わらび」と戦艦「はつせ」は発光信号を交わした。
「第一輸送隊はもう少ししてから父島に駐屯している第三水陸機動団の戦車一個大隊及び歩兵一個大隊を搭載して追いかけてきます」
「ご苦労」
兵員室では、兵士たちが雑談していた。
「同盟国の艦隊が反乱軍なら、やっぱ沈めるのかねえ」
「いや、沈めたら賠償問題に発展するから、やっぱ拿捕だろ」
「なるほど」
「そうなると全艦が集まったところを叩かなきゃならんだろうな」
「そうだな……どうするつもりなんだろう」
消灯時間を過ぎた居住区画は騒がしくならない程度に沸いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます