旧式戦艦はつせ

古井論理

混乱の序章

 日本国国営テレビ・首都第三ニューススタジオ 二十一時八分

「先ほど入ったニュースです。マカスネシア連邦のムンタワイ諸島で戦闘が発生しているとのことです。現地から入った情報によりますと、マカスネシア連邦軍の船舶が激しく攻撃しあっているとのことですが、マカスネシア連邦軍からはまだ何も情報は発信されていません。ただ、現地からの情報によりますと、邦人に少なくとも三人の死傷者が出ている模様です。戦闘が発生しているのは、セント・ヘルナデス島沖とのことですが、戦闘が発生している地域は徐々に拡大しています。現場の支局の村中さんに電話がつながりました。村中さん」

「はい、こちら村中です」

「現場の状況を説明してください」

「こちらセント・ヘルナデス島では、沖合いに戦闘の火が見えています。また、戦闘が発生する直前には、カリマンタ語で『我々はマカスネシア政府に対し独立を宣言する。我々はもうマカスネシア連邦海軍というちっぽけな存在ではない』と、沖合いにあるサンタ・ベルナージ要塞のスピーカーが放送していました」

「市民の皆さんの様子はどうでしょうか?」

「島のこちら側の港には、陸軍の高速艇が先ほど到着しました。これから避難が行われるとのことです」

「わかりました。ほかに気づいたことなどは?」

「沖合いにマカスネシア軍の空母『ヴェルサイア』がいましたが、先ほどその船上で旗をおろす作業をしているのが見られました。詳しいことは不明です」

「ありがとうございました。以上、現場の村中さんからでした」


 日本国首相官邸 二十二時二十六分

「もちろん、今すぐ検討を始めさせていただきます」

 秋葉首相は電話を切り、ハア、とため息をついた。そして、

「お休みのところ悪いんだけどね」

 と、閣僚たちに集合をかけた。一時間後には、閣僚たちが官邸の会議室に集合した。

「同盟国であるマカスネシア連邦国内で反乱が発生しておる。マカスネシア連邦軍の艦艇のほとんど全てが属する連邦海軍がマカスネシア政府に対し起こした反乱だ。知っていると思うが、予断を許さない状況だ。そこで、赤塚防衛大臣に質問したい。動かせる部隊はあるか」

 首相が始めた。平坂官房長官が質問する。

「ということは……まさか集団的自衛権を適用し、わが国の自衛軍を鎮圧に出すのですか?」

「すでにアメリカ合衆国との関係が悪化しているマカスネシア連邦政府からも要請が出ており、アメリカ合衆国の軍事介入は避けつつも反乱は速やかに鎮圧しなければならないが部隊と練度が足りず、自軍だけでは心許ないとのことだ。プランを考えているヒマはなさそうだ。ぐずぐずしているとグアム・フィリピン駐留のアメリカ軍が介入する可能性もある。なるべく迅速に部隊だけでも動かせないか」

 赤塚防衛大臣は意を決した。

「では、現在小笠原諸島周辺で訓練中の第五護衛艦隊の第三イージス戦隊・第一輸送隊に父島に第五任務艦隊提督山口長門少将以下首脳陣を乗せて停泊中の『はつせ』をつけて、第三任務部隊として出撃させましょう。首相、指示をお願いします」

「わかった。なんと言えばいいんだ?」

「防衛出動を命令すると言えばいいのでは?」

「そうか……日本自衛軍に、防衛出動を命令する!」

 浜中統合幕僚本部長が『はつせ』の山口長門提督に指令を出す。

「作戦は移動中に立ててくれ。とにかく急いで部隊を出撃させること。わかったな?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る