涼雨

藤田

プロローグ

 嵐のあとの静けさ。先程まで俺の心をざわつかせていた声は、もう聞こえない。


 この無音の空感と反比例するように俺の心臓は鼓動を早めていた。


 俺は取り返しのつかない失敗をしてしまった。


 ようやく気がついた、胸にずっとあった感情の正体。


 もう遅い。


 ふと、机を見ると、肉じゃがが置いてある。ラップがしてあるが、見ているだけで記憶が刺激されあのだしの香りが鼻腔をくすぐる。


 大切りだが、よく色が染みているじゃがいも、とろんとした飴色の玉ねぎ、形が不揃いな愛嬌のある人参。


 とてもおいしそうだった。


 だが、俺にはそれを食べる資格なんてない。


 俺は彼女を裏切ったのだから。


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