ゴーレム工房のステラ

桑昌実

第一章 地獄の修道院

地獄の修道院

「この……

 門、を……、

  くぐる……者?」


【アレクトー】修道院――――人呼んで「焦熱地獄インフェルノ」修道院。

 その高い塀の前で、修道服姿の少女が黒塗りの鉄柵を見上げていた。


 見たところ、十代半ば。

 おとなしくしてはいるが、まるで体の中の何かがいまにもうずうずと動き出したがっているようだ。

 瞳に輝く星が映すのは、期待か――――それとも好奇心?


「早くいらっしゃい。受け入れ先の院長さまをお待たせしては失礼ですよ」


「はーい」


 付き添いの修道女のあとに続いて、少女も柵の内側へと足を踏み入れた。





 ゴィイイィ…………


 重い扉を開けて、監獄を思わせる威圧的な建物(アレクトー修道院には「女の要塞」という異名もあった)に入ると、大柄な女性がふたりを出迎えた。


 奇妙な服装だ。

 現代風にいえばスポーツブラと二分丈にぶだけのスパッツ、修道院だというのに体の線があらわで、その上から革製のエプロンを着けている。


 赤くけた肌はまるでオーガ。岩のような筋肉のせいで、体が分厚い。

 黒髪に白いメッシュ、目尻や口もとには深いしわが刻まれているが、若いころは誰もがふり返る美女だったにちがいない。

 目力めぢからが強かった。





「おぉ~」


 少女はその視線に怖気づいたようすもなく、妙にキラキラした目で見つめ返す。

 が、大女は避けるでもなく受け止めるでもなくひと声、

「エコー!」

 と呼ばわった。


「はい、マダム」

 返事とともに進み出たのは、すらりとした若い女性だ。


「私はちょっと外す。そのあいだ、この娘の相手をしててくれ」


 そういうと、【マダム】は付き添いの修道女を別室へ案内した。





「こんにちは。わたしはエコーといいます」


【エコー】は優しそうな目で、少女ににっこりと笑いかけた。長い栗色の髪をうしろで束ねている。


「こんにちは! …………あのっ」


「なあに?」


 少女は名乗るのも忘れてエコーにたずねた。


「ゴーレムって、どこにいるんですか?」


「えっ?」


 興奮を抑えきれないらしく、その瞳は妙にキラキラと輝いていた。


「わたし、早くゴーレムを作りたいんです!」

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