不死者の短編

レリスタン

スラッシュを極めてみた

今日も素振りを行う。一撃一撃が渾身の一撃になるように短期的に集中的に行う。この訓練を初めてどれだけの月日が経ったのだろうか?俺は才能のない人間だ。強いてあげるならばこの素振りを毎日欠かすことなく行ってこれたことが才能なのだと言えるのならばそうなのかもしれない。俺は只ひたすらに、我武者羅に一本の剣を振り続けている。




なぜ俺は素振りを続けているのか?それは何度も言うが才能のない人間だからだ。この世界は明確に自身の才能を目にわかる形で確認することができる。10歳になる年、教会に赴き祝福を授けてもらうことになる。その時に自身の才能、スキルと書かれた項目を確認することができる。その後も確認したいのであれば教会で簡易に祈ることで確認することもできる。一般の人であれば5つほどのスキルを確認できる。それこそ伝承の英雄と称えられた者であれば20以上ものスキルを有していたとのことだ。しかし、俺に与えられたスキルは一つだけだった。




スラッシュ:一撃の威力を瞬間的に高める。




このスキルだけだ。初めに確認したときは何とも言えない気持ちに支配されたものだ。神に何か文句を言おうにも会話のしようがない。周りは花が咲くような笑顔を振りまき今後の未来について会話に花を咲かせている。確かにそれまでの10年は自身も才能があると思った出来事はなかったが特段何かが下手というわけもなく過ごしてきた。だが、ここに来て明確に自身に才能が欠如していると突き付けられては自分は何のためにあるのだろうと意味のない自問自答を繰り返してしまう。祝福を受けたその日は親にさえも何も報告することなく眠りについた。




こんな報告をしても幻滅されて終いには追い出されてしまうのではないかと恐怖を感じしばらく部屋に閉じこもり遮断した生活を送っていたがそれも二日と続かなかった。二日目の朝ドアを蹴破り父が入り込んできた。驚いているのもつかの間首根っこを掴まれ朝食の食卓へと座らされた。何が何だかわからずに呆然としていると父が・・・




「とりあえず食べろ」




と言われ昨日何も食べていないこともあり朝食を食べた。しばらくして食べ終わると父が・・・




「何があった」




と怖く感じるくらいの低い声で優しさをにじませながらそう聞いてきた。俺はたぶん泣いていたのだろう。とぎれとぎれにぽつぽつと話し終えると




「何だそんな事か」




と酷く安堵した口調で言った。その後、俺が何を言ったのかは覚えていない。ただ泣きじゃくりながら支離滅裂な内容を話していた気がする。だが、父の最後の言葉は覚えている。




「そんなに悔しいなら、そんなに怖いなら、その唯一与えられたスキルを極めてみろ」




ただ、極めてみろと父は突然声を大にしていったのだ。この言葉だけは深く覚えている。それから俺は毎日欠かさず素振りを続けている。どれだけ忙しい日でも素振りだけは欠かさず続けている。




そんなある日、いつものように素振りをしていたのだがその日はなんだか手ごたえが違ったのだ。不思議に感じるがそれは悪い手ごたえではなくむしろ今までのが何だったのかと問いたくなるほどに素晴らしい剣筋だった。その日を境に俺の素振りは最高の剣筋が常となった。どんな角度から剣を振ろうとも最高の剣筋、威力、正確さを発揮した。俺は不思議に思い祝福を受けた日からニ回目の来訪となる教会へ赴き自信を確認した。ステータスは概ね予想どうりのステータスだったがスキルだけは違った。




スキル


スラッシュ:レベル:rlsm。c 熟練度あ;dlfkもいうぇ


一撃の威力を瞬間的に高める。【速度極】【威力極】【精度極】【鋭さ極】【耐久性極】【身体能力極】【黒化】【白化】【重ね掛け】【通常攻撃がスラッシュと同等の威力となる】【だsんl;そえ】・・・




スラッシュがバクったww






===========================================






薄々は感じていたんだ。最近の俺のスラッシュはなんだか可笑しいと。どんな武器を使ったとしても同じ威力を発揮することができる。終いには素手でも発動した。最近は獲物が黒くなり、さらに力を加えると白く変色する。それ以上に力を加えようと鍛錬していたらある時を境に飛躍的に能力が上昇した。で、最後に先日の出来事だ。情報をそのまま読み解くのであれば俺の素振りは全てスラッシュと同じ威力になったということなのだろう。




やっぱりこれはもうバグではないだろうか?




だって、そうだろう。それ以降にも何か書いてあるが全く読めない上に文字化けしている。スキルにレベルや熟練度があるなんてことも初めて知った。あの後に教会の人にいくつか質問したが要領を得ない答えばかりで誰も知らないことが分かったぐらいだ。




まぁ、俺に何か不調があるわけでもないし別にいいのか。一応両親には相談しよう。実はあれからどれだけ立っただろうとかっこいい風に話していたが8年ほどしか経っていない。探索者になったのもつい最近だしそれまでは学生として過ごしていた。学生生活は勉学以外のほとんどを素振りに費やしていたので友達が少ないのは内緒だ。ちょっと、後悔しているのも内緒だ。もう毎日の習慣になっているので素振りはやめないが・・・




うん、今日はもう寝よう。ダンジョン探索者としての新しい生活を前に確認しただけだし、問題も特になかった。明日は朝食の席で両親に話してそれですっきりしよう。うん、そうしよう。






===========================================






両親に話したら病院を進められた。さすがに底まで可笑しくなっているとは・・・なっていないよな?大丈夫だよな?まぁ、心配になる箇所は多々あるが今回は祝福を受けた日のようにならずちゃんと報告できたから良しとしよう。




今日は初めてダンジョンに乗り込む日だ。事前に準備はしている。両親にも暫く帰って来ないことは話してある。本来であればパーティーを組んでダンジョンに挑むことを探索者協会は推奨しているが生憎、俺はスキルを一つしか持っていない無能だ。数日前に数組のグループに話しかけたが尽く断られてしまった。だから俺はソロで活動することになる。




ダンジョンは大昔に突然発生した場所なのだそうだ。山奥、海の底、空の上、都心の中心など場所を問わず様々な場所で唐突に門が現れる。中は敵対生物やトラップ、複雑なダンジョンの構造などと人が住むには適さない場所ではあるが資源が豊富だ。敵対生物である魔物は倒すことにより紫色の石を残して消滅する。運が良ければその魔物の体の一部を落とすこともある。また、ダンジョン内には採取を可能とするポイントも存在する。これらの資源が無尽蔵に取得できるのだ。




世界各国はこのダンジョンの探索に力を入れることになる。始まの頃は警察や自衛隊といった武装した組織が探索を行っていたのだが既存の武力では魔物に対して無力だったのだそうだ。そこでダンジョンの出現と同時期に変化したステータスという概念を駆使することになる。広く一般の人にも公募し強い武力を集め再攻略に乗り出したのだ。今では探索者は第一次産業の一つとして認識されるぐらいに一般的な仕事となった。




この探索者は他の仕事と併用することができる。最低年齢は高校卒業の18歳から。時間の空いた日に個人の判断でダンジョン内を探索することができる。国がこれを進めており国民も概ね反対する者はいない。




まぁ、そんな簡単に説明したのが探索者とダンジョンについてだ。多くの人が小遣い稼ぎにダンジョン探索を行っている。一階層は凶暴な魔物はいないためケガもかすり傷程度で危険もない。今も周りでは日頃のストレスか必要以上に棒で叩きのめしているご婦人が目に入った。整ったキレイな化粧顔に血走った目がとても怖い。あの人とは関わらないようにしよう・・・




今日は今の俺の実力でどこまで行けるかを試そうと思っている。苦戦する階層まで進もうと思う。そのために携帯食も水も必要以上に持ち込んでいる。俺が背負っているバックパックは見た目よりも大容量だ。このバックは一般的なもので多くの人が使っている。一流の探索者は無尽蔵に入るウエストポーチを持っているのだとか。ダンジョンにはそういった常識の埒外の装備が生成されることが起こる。今回の探索でそんな装備が見つけられたらいいなと思ったり思わなかったり。




時々考えが横道にそれながらも順調に下へと降りていく。今のところ苦戦する様子はない。白く変色した木刀を振るい一刀の元に切り伏せていく。10層ほど降りたあたりから人型の魔物も増えてきたが問題ない。水平に振るい首を両断。地面に首が落ちる前に空気に溶ける様に消えていき地面に紫色の小石、魔石がころころと転がる。俺はそれを拾い上げバックパックに放り進んでいく。






===========================================






多分、50層は降りたように思う。ここまで長時間歩いているがノンストップで進んでいる。体が疲れる様子がないのはバクったスキルの影響だろうか?小腹がすいたときに水分補給と食事をするぐらいで休みらしい休みをしていない。まだ、苦戦するような魔物も現れない。ここまですべて一太刀で終わっている。




これは異常だ。学校で習った情報ならここは中堅どころが何週間もかけて到達する場所なはず。俺はソロで苦戦することなく来てしまった。情報が間違っていたのか?まぁ、今回の予定はいけるとことまで行くことだから進んでいこう。




60階層


目の前から迫ってくるラプトルのような魔物を正面から真っ二つにする。




70層


赤い肌の巨漢の棍棒の一振りをカチあげ隙だらけの胴体を右上から左下にかけて袈裟切りにする。




80層


青い肌の一つ目の巨人を膝裏から足を両断し首が下りてきたところを断頭する。




90階層


九つの尾から放たれる魔法の数々を全て切り消し一瞬の隙を見逃さす肉薄と同時にその狐の首を落とす。




100層


首なしの騎士を首なしの馬ごと胴を切り裂く。




110層


浮遊している骸骨の魔術師を斬撃を放ち豪華な杖ごと両断する。




120層


飛ばしてくる水を払いのけその水の体を衝撃波で吹き飛ばす。




130層


         ・


         ・


         ・


切る 弾いて切る まとめて切る 吹き飛ばす 細切れにする 苦戦することなく歩みを緩めることなく時折食事の休憩を入れながら進んでいく。途中、10層ごとに地上への転移門を確認しているので帰るのは簡単だ。あとは、俺がどこまで苦戦せずに進めるのか行けるところまで行くだけだ。




そろそろ二週間経ちそうだ。食料も心もとなくなってきている。次が丁度節目の200層だしここを最後に地上に戻ろうと思う。




十層ごとにある大きな扉を開いた。中にいたのはいかにも豪華な装飾が施された黒い宝箱だ。俺はここに来て初めて宝箱を目にする。俺のスキルはスラッシュだけだ。だから、隠し部屋を見つけるには余程運が良くないと見つけることができない。ここまで一度も見つけることができなかったため諦めていた。




中に入ると毎回のように勝手に扉が閉まる。後ろを少し確認し視線を戻すと宝箱が浮いていた。いや、違う足が生えたのだ。宝箱の底面から女性の足のようにすらりと伸びた太ももから下の生足が伸びている。靴は金属製で膝から下を覆う白銀の装飾がきれいな靴だ。




宝箱は半歩足を引くと予備動作なしに回し蹴りを首を斬るかのように放って来た。俺は白く変色した木刀で弾き返す。上から下へ振り下ろすが半身で避けられた。宝箱からコンパクトに素早く前足で喉を突き刺す蹴りが放たれる。首を引きすからせる。下から宝箱の中心目がけた突き。宝箱は身を後ろに投げ致命傷を避けた。




何だあの宝箱は?今までの奴らと全く違うぞ。足と宝箱だけという奇妙な姿のくせに素早さと蹴りの鋭さが異常だ。身体能力では俺の方が上の様だが少し反応速度が遅れると首を取られかねない。これは手を抜いていられないな。




上段に構え一撃で決めるべく集中する。宝箱もこちらの意図を察したのか不用意に近づいてこなくなった。俺は構わずより一層深く、深く集中していく。周りの景色から色が抜け落ちていき宝箱だけが色付く。だんだんと音もなくなり耳鳴りもなくなった。なおも集中していく。




宝箱の足が一瞬光ったかと思うと動いた。一瞬で懐に飛び込み下から上へカチ上げるように低い姿勢から回転を加えた横蹴りを放って来た。すり足で後ろに宝箱の動きと同時に下がる。鼻先をかすめるように白銀に包まれた足が天へ向けて垂直に伸びる。それを認識しつつも掲げていた腕を振り下ろした。




スゥ




音はなく、抵抗もなく、振り下ろしの姿勢で止まる。




宝箱はお見事とでもいうかのような雰囲気を残し溶けて消えた。あとに残ったのは宝箱が履いていた白銀の靴と透明度の高い紫の魔石、小さな宝石が飾られた黒い指輪が残っていた。そして脳内に「蹴り姫」というスキルを取得した旨が伝えられる。




「ふぅ~」




白い吐息が漏れた。今のは緊張した。少しでもタイミングがずれていれば俺の頭はなくなっていただろう。ここが俺のソロの限界か。これ以上は難しいだろうな。




床に落ちている戦利品を回収する。白銀の靴は宝箱が履いていた物だろう。俺に託したということだろうか?スキルも同時に獲得したことからもそんな気がしてならない。この透明な魔石は綺麗だ。今回の記念に売らずに置くのもいいかむしれない。指輪は何だろうか?とりあえず白銀の靴と一緒に装備してみる。




装備して理解した。この靴はとにかく頑丈なこと以外には何も効果がないようだ。ただ、防具としても武器としても最高品質の靴であること。指輪はすごい。装備すると夜空の星のように溶けて消えると無限収納のスキルを覚えた。名残なのか黒い輪と星が散りばめられたかのような指輪の跡が残っている。




装備の確認を一通り済ませ部屋の奥に視線を向けると地下へと続く階段とダンジョンを出る魔法陣が確認できる。俺は魔法陣の上に乗りバックパックにある魔石を載せていくと20個ほどで魔法陣が発動した。




視界が白に染まり目を開けるとダンジョンの入り口わきに立っていた。




どうやら昼の様だ。ダンジョンのなかだと明るさが変わらないため時間の間隔が曖昧になる。徐々に喧騒にも慣れてきた。体を天に伸びをすると気分を切り替える。疲れはもう少し我慢しよう。電車で移動し探索者協会で今回の魔石を換金する。俺が持ってきた量に驚いた様子だったが問題なく換金が終了する。また電車で移動し自宅へと帰還した。




今回の探索で俺でも探索者をやっていけそうなことが分かったが両親は反対の様だ。まぁ、それも仕方ない。命をチップに金を稼ぐ仕事だからな。両親との約束で探索者にはなってもいいが大学には行けと言われている。命にかかわる仕事よりも安全な仕事居ついて欲しいのだろう。俺がスキルを一つしか持っていないというのも理由かもしれない。




それでも俺は探索者を諦める気はない。ソロでも生活ができるぐらいに稼げることが分かった。別に毎回、宝箱のような強敵と戦う必要はないのだ。安全マージンの十分とれた階層で稼ぐのが最善だ。その点俺はソロで100層以上もいけた。主な稼ぎ場所をそのあたりにすれば危険は少ないだろう。




しばらく、長期の探索はお休みだ。春休みもそろそろ終わるし大学が始まる。俺の将来設計は卒業後でも問題ないだろう。




この四年間は新しく手に入れたスキルの検証だ。宝箱から受け継いだスキル、スラッシュのさらなる高みへ、やることは尽きない。あ、あと今度こそは友達を作りたい。一人だけでも親友と呼べるような友が欲しいです。




まだある可能性に妄想しながらも疲れに耐えきれず眠りに着いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る