第24話 お手製りんごジュース

 なみだ目混じりのイモウトモードに、お姉ちゃんゴコロをすくぐられたのかどうかは分からないが、穂香ほのか(大)が、今度は腕相撲をしてみようと言い出した。いやいや、こんな謎の力持ってるらしいわたしと腕相撲なんてかなり危ないよ、とわたしは固辞したのだけれど、ちょっとずつ力を加えていってくれるならばたぶん大丈夫、何事も試してみないと分からないよ、と、穂香ほのか(大)は譲らない。仕方がないので、両手を前に合わせてう~んと何度か力を入れてみて、カッと来る力がやはり存在すること、その発動条件のようなものをどことなくつかんでから、穂香ほのか(大)と、おそるおそる手を組んだ。


 身体強化施術を受けてから、九重くじゅう連山の合宿所で先輩方と幾度となく腕相撲をした経験がある穂香ほのか(大)がはじめは連勝をした。わたしの方が、力が急爆発しそうな腕が怖くて、思いっきり力を入れられなかったのだ。

 そうするうちに、わたしは、さほど頑張らなくともクッと力を込める術があることを見い出した。わたしは穂香ほのか(大)の手のひらを握りつぶしてしまったり腕の筋を痛めてしまったりすることなく、両腕で穂香ほのか(大)に連勝できるようになった。両腕共に三連敗したところで、穂香ほのか(大)は、もうだめーと、横になってヨーガ風な服従のポーズをした。

 

 そこから先は、といっても水元公園に行って、霊長類最強かもしれない筋力を人前で体力測定してみたりすることはさすがにできない……はずなのだが、今日の穂香ほのか(大)はテンションが高い。

 ……このままでは、九重部屋や佐渡ヶ嶽部屋に行ってお相撲さんと勝負してみようなどと言いかねない……お相撲のお腹に突進するのはちょっと楽しそうだが、ふんぬっと力を入れてみたらそのまま壁までお相撲さんをぶちかましてしまう……ような壁ドン事件が起きてしまっては、わたしは人外確定だ。

 

 なので、わたしは先手を取って、わたしの握力を利用してお手製りんごジュースをつくってみようよと、提案をした。凪沙野なぎさのジャージの上にスカジャンを羽織るうちに提案は通り、わたし達は、近隣のJA週末出張ストアへとお買い物に出かけた。皮ごとジュースにしても大丈夫という超減農薬りんご(大)を一箱買い、「お嬢ちゃん力持ちだねえ」といわれながら、10㎏くらいの箱を部屋までひとりで軽々と運んだ。わたしの謎力、持久力もあるらしい。

 穂香ほのか(大)とわたしとで丁寧に一つ一つりんごを水洗いした。ボウルを用意し、わたしはフンッフンッと、一つ一つのリンゴを両手を軽々と砕いてジュースに変えていく。そのジュース作りを呆れながら笑って見ていた穂香ほのか(大)は、あくまで二階堂先輩への報告用だと断りながら、わたしのお手製りんごジュース作成の様子をムービーに記録していった。

 途中から豊穣ビールを片手にクピクピしつつ、3リットル容器ボウルいっぱいに迫るわたしの人力リンゴジュースの製造工程の過半を、穂香ほのか(大)はムービーにしていった。


「お疲れ様」

 穂香ほのか(大)は、わたしの肩をポンと叩いた。

 人力リンゴジュースをふたりで粗越しをして皮や種や破片を除いて麦茶用の容器とタッパーに入れていく。麦茶用の容器は、2人の飲み放題用としし急速冷蔵室に入れた。タッパーに入れた分は二階堂先輩へのお土産分だとして、穂香ほのか(大)が冷凍した。

 冷凍室をパタンと閉じた穂香ほのか(大)の後ろ姿に、

(お手製りんごジュース作りのムービーネタとの合せ技、二階堂先輩に受けるといいね)と心のなかで、応援エールをわたしは送った。

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