第13話 ほのか(大)に話すこと、まだ話さないこと

 夕方となった。わたしは、ベランダに干してあった洗濯物を取り込み、穂香ほのか(大)のシャツや下着などを畳んだ後に、凪沙野なぎさのジャージ姿となった。そしし、台所に入る。

 はじめに、穂香ほのか(大)に買ってきてもらっていた鶏むね肉を、お肉部分と皮とに選り分ける。

 買ったばかりで切れ味鋭いセラミック刃で、サクサクとお肉を切っていく。少々の調理酒と共にお肉をフリーザバックに入れると、低温調理鍋で一時間ちょい温める。今晩はバンバンジーにするのだ。


 鶏皮をスパスパと切り分ける。こちらは、フライパンに加熱しておつまみの鶏皮センベイにする。チャーハン用の鶏油ちーゆも回収予定だ。

 

 トトントンとキュウリを千切りにしながら、わたしの脳内の香織かおりさんの記憶を穂香ほのか(大)に話したものかどうか考える。

 これまで話した限りでは、わたしと穂香ほのか(大)との間で、24歳までの記憶と経験に相違はない。


 仲宗根先輩に憧れてミカ校に進んだことから、割とレアでミリタリーな人生を歩むこととなったわたし達である。穂香ほのか(大)にも香織かおりさんの記憶は眠っているのだろうか?


 バンバンジーのスパイスとする、ネギと生姜をみじん切りにしていく。

 

 ひととおりの作業を終え、後は胡麻ダレをかけるだけという状態でバンバンジーを冷蔵庫に入れた時には、香織かおりさんの記憶の件を話すのは二階堂先輩への訪問を終えてからにしようと決めていた。


 わたしの脳内に、出会った記憶のない人がいる。一方で、出会いも別れもすべて記憶がある人がいる。ほぼすべて記憶が検証可能なのは、ユウだけだった。

 わたしの記憶通りならば、彼氏なし歴24年のはずの穂香ほのか(大)は、少し先にユウと出会うことになる(はず)。ユウにつながる話を、穂香ほのか(大)にしてしまっていいのかを、わたしはまだ決められない。


 穂香ほのか(大)に、わたしの実年齢を話す時に咄嗟とっさに26歳と言ってしまったのは、穂香ほのか(大)のこれからを知りすぎている存在にはなりたくないという気持ちが含まれていた、と思う。


 こちらがわたしのらしい制服、と先程認定したセーラー服に着替え、穂香ほのか(大)を待つ。

 

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