第5話 少女スカジャン姿にイモウト認定

 そして、穂香ほのか(大)は

「ねぇ、夢伴ゆめはんに行こ? おなかすいちゃった」

とわたしに言った。

 わたしは、「そうね」と同意した。夢伴ゆめはんは、わたし達のおひとり様の伴侶とも言えよう、ご近所の和風ファミレスだ。


「ところで、わたしの外見年齢って何歳だと思う?」と聞いてみた。

中高生を卒業して久しいわたしの目には、たぶん中学生は入るか入らないかくらいだろうとしかわからなかった。


「そんなの、身長測れば、分かるじゃないの」

穂香ほのか(大)は言って、メジャーを取り出してきた。


 なるほど、と納得したわたしは、柱のところに立って背を伸ばした。穂香ほのか(大)が測定をして、わたしの身長は146.5cmと判明する。そして、冒頭で述べた計算式で、13歳と推定されたというわけ。わたしは3月生まれなので、外見年齢はほぼ中学2年生と確定された。


 メジャーを手にしたまま、穂香ほのか(大)は、わたしの頭をポンポンと叩いて、

「よし、あなたのことを、夢伴ゆめはんでは、イモウトと呼ぶことにするね。」

と、わたしを妹分認定して笑った。


 わたしは、

「わかった。」

とコクリとうなずいて、設定に同意を示すと、

「それで、お姉ちゃんよ、わたしはどの服を着ていけばいいかな?」

と尋ねた。


「う~ん、イモウトは、私の服はほぼほぼ似合わそうよね」

「そうだよね、お姉ちゃん」


 そう、穂香ほのか(大)の部屋には、今のわたしの見た目にふさわしい服はない。研究室で落ちこぼれ気味だったわたしは、なんとか決まった就職先で頑張ろうとインターンを始めることになった時に、社会人らしいスーツや、それらしい服をいつくも買い込んだ。そして、卒業後に、大学生の時の服の大体を古着屋さんにまとめて売ってしまっていた。

 

 寝室へと向かった穂香ほのか(大)は、スカジャンを手にして戻ってきた。

「これ、どうかな?」

 袖のところがコーデュロイな薄ピンクなスカジャン。

「あぁ、初鹿野はつかのさんの!」

とわたしは、目を見開いた。


 初鹿野はつかのさんは、研究室でのわたし達のひとつ後輩だった。卒業まで、大学のそば、すなわち、私の部屋から数キロメートルくらいのところに住んでいた。就職先の関係で小田急線の千歳なんとかというところに引っ越すことになった時、わたしが荷物詰めの応援に御宅訪問をした。手伝いのお礼のひとつに、と、初鹿野はつかのさんはこの可愛らしいスカジャンをわたしに手渡したのだった。

 身長152cmの初鹿野はつかのさんは、わたしと研究室のミクロちゃん仲間だった。このスカジャンは、清楚な雰囲気の初鹿野はつかのさんに若やいだ華を与えてくれていた。

 「似合ってるのに」

と言ったわたしに、初鹿野はつかのさんは

「これ着て元カレと歩いてたとき、多かったからね」、と弱く微笑んだ。

 あぁ、引越し先に持っていきたくないんだな、と納得したわたしは、きれいに焼かれた美味しいクッキーやなんかと共に、スカジャンを持ち帰った。

 

 中高生の頃に(願わずも)スパルタな生活を送ったわたしには、ちょっと、こここスカジャンは可愛らしすぎるように思えた。以来、スカジャンはクリーニングされたままの状態で、押入れに入ったままだった。

 

(存在を忘れていたなぁ)

と思いながら、わたしは、穂香ほのか(大)からスカジャンを受け取り、凪沙野なぎさのジャージの上に羽織った。


「おお、イモウトよ。さすが13歳。似合ってるよ」

穂香ほのか(大)に褒められた。


 わたしの31歳脳のどこかが、ちょい派手可愛い系のスカジャンを着ることに抵抗を感じてはいたが、他に外出の選択肢は思い浮かばない。慣れるしかないだろう。

 下も替えた方がいい、穂香ほのか(大)に言われ、わたしは緑のジャージを脱いだ。スカート含め穂香ほのか(大)のボトムスを何着か試着の末、濃いめグレーのレギンスパンツが選ばれた。ウェストサイズはベルトで調整だ。

 

 「よしっ、行こう」

と、穂香ほのか(大)は、わたしの手を取って玄関に引っ張っていく。少女系スカジャンを着たわたしを、完全にイモウト認定したらしい。

 

 エントランスを出て駐輪場に入り、わたし達はそれぞれのチャリちゃんにまたがった。

「チャリちゃん、買い替えたんだ?」

「そうだね」


夜で車通りも少ないので、わたし達は並んでチャリちゃんを走らせた。


「ねぇ、イモウトよ。それで昨日までは何歳だったの?」

そう聞かれたわたしは、反射的に

「26歳」

と答えた。


「・・・そうなんだぁ。半分の年齢になっちゃったわけね」

 これからの7年分の記憶があると言ってしまうのはマズいかも、との咄嗟の判断で、わたしの脳内年齢は26歳ということになった。

 薄ピンクな少女系スカジャンを着てるけど、もう三十路なんだよ、ということが恥ずかしかったわけではない。たぶん。

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