第7話 新メンバーを募集する!

 

 俺とエラはパローマ市内にあるギルドに来ていた。新しい仲間を募集するためだ。今の4人じゃちょっと戦いに出るのが不安だからな。レグは子供でまだ戦えないだろうし……。


 エルとレグは生活に必要なものを買いに行ったりしてる。エルフたちの珍しいお土産を売れば結構な金になるからな。そのへんもあいつらに任せた。


 ギルドにはたくさんの冒険者が登録していて、俺は希望者を何人か面接することにした。今日は別々に4人面接する予定だった。4馬鹿に見つからないように、俺は偽名で申請を済ませた。



 ……のだったが、面接に訪れた最初の人物はなんと、カレンだった。



「で、なんでお前がここにいるんだよ」


「あんたこそ……クラーケンに襲われて死んだと思ってたわ……」


 まじで俺は死んだと思われてたのか……。見てたんなら助けてくれよ……。お前らも俺が死んだら困るんじゃねえのかよ……。


「偽名をつかったのになんでバレたんだ?しかもお前まで偽名だし……」


「べ、べつに……私もあんたが面接相手だなんて思ってもみなかったわよ。私が偽名を使ってたのは、あれよ……もしあんたが生きてて、この街にいたら、私の名前を見たらすぐに逃げちゃうでしょ?」


 たしかにそうだ。もうカレンと会いたくなどなかった。俺を見捨てた元仲間だ。恨みこそすれ、会いたいなど思うはずもない。また付きまとわれても面倒だしな。


「ずいぶんと仲がよさそうじゃないか。二人は知り合いなのか?」


 ほったらかしにされていたエラが口を開いた。


「すまん、忘れてた。紹介するよ。こいつはストーカーのカレン。こっちは今の仲間のエラだ」


 俺が紹介すると二人とも軽く会釈した。


「ちょっと、誰がストーカーよ!それに、新しい仲間って、ずいぶん綺麗な女性じゃない。まさか、手出したりしてないでしょうね!?」


 カレンが俺を睨みつける。


「いや、すでに手遅れだ。なぁ旦那様」


 エラが俺の腕に抱きつく。だれが旦那様だ。


「ぶふーー!!!」


 カレンはそれを見て噴き出した。


 かと思えば今度は怒った顔に涙を浮かべて、言った。


「ちょっとぉ……。なんでその女だけあんたの仲間でいられて、私は捨てられなきゃいけないのよー!!しかも私とは5年もいっしょにいてなんにもなかったくせに、その女とはもうくっついちゃってるし……」


 大丈夫かコイツ。情緒不安定だな……。生理か?


 ――ばしっ!


 カレンのこぶしが飛んできた。声に出てたみたいだ。


 いてて……。


「あのなぁ、お前そんなに俺のこと好きだったっけ?だったらもっとスライム以外も倒すとかして頑張ってくれよ!お前が5年も無能を晒し続けたから、俺は嫌気がさしたんだろうが!」


 俺は机をドンと叩いて立ち上がり、カレンを威圧した。こいつにはとことん分からせなきゃだめだ。泣いたって無駄だ。涙で金が稼げるわけじゃない。


「なによ!こっちは5年間必死にアピールしてたのに、気づかなかったのはそっちじゃない!それに私たちのこと無能無能って、だったらもっとリーダーらしく改善案をだすとかしたらよかったじゃないの!」


 あれぇ?そうだったっけ?いや、改善しろとは再三言ったはずだが……?


「もう、知らない!」


 カレンはそういうと、椅子を倒してそのまま走ってでていった。泣きながら。


 まじでアイツ大丈夫か?どっかおかしくなったのかな?


「ちょっと……言い過ぎなんじゃないのか?」


 エラが言う。


「いやぁ、複雑な関係なんだよ……」


 そういえば、なんでカレン一人だったんだろう?今までのパターンなら、あいつら全員で俺をまた仲間に入れようと強引に迫ってきてもおかしくないのに……。



          ◆


 

 午後になって、次の面接の時間がやってきた。次はまともなのがくるといいけど……。


「やあどうも」


 そう言って椅子に座ったのは、ロランだった。



「どぁくぁるぁ……なんでまたお前なんだよ!!!!!」



 俺はギルドのホール中に響き渡る声で言った。


「うゎああ!アウルス!?なんで!?……って、こっちの台詞だよ!……ん?また?」


「午前中はカレンだったんだよ!」


「ええー……そうだったんだ」


 ……ってことは、ロランもカレンと一緒に行動してないってことなのか?だったら2回連続でこいつらと鉢合わせするって、どういう確率だよ。やっぱ俺呪われてんのか?


 ――俺たちは午前中にカレンとしたような会話を繰り返した。


「というか、なんでお前らバラバラなんだよ」


 まあ4人で徒党を組んで追いかけまわされるよりは対処が楽でいいけど。


「あのあと、4人いっしょ誰も組んでくれないってなって……バラバラに拾ってくれるパーティを探すことになったんだ」


 まあ爆弾4つ渡されるより、1つのほうがマシだものな……。だが俺みたいな被害者を産まないためにも、コイツらは冒険者を引退して田舎に帰るべきだと思うのだが?


「まあそういうわけで、もうお前に用はないから、帰っていいぞ」


 俺はロランにしっしっと手を振ってみせた。


「そんなこと言わないで、僕だけでもアウルスのとこに置いてくれないかなぁ?4人じゃ無理でも、僕一人ならなんとか養えるだろう?」


 アホいえ。なんで俺がこんなやつ養わなきゃならん。お引き取り願おう。


「うるせぇ!消えろ!」


 俺は机を蹴った。


 ――ばこん!


 反対側に座っていたロランの腹を、机が直撃する。


「うええええん、アウルスが蹴ったぁ!ひどいよぉ」


 ロランは泣きべそをかいて、出ていった。


 なんかあいつもキャラ変わってない?大丈夫か?


「ちょっと……今のは酷いんじゃないか?」


 エラが俺を白い目で見る。


「いやぁ、俺はもっとひどいことをされたんだよ……」



          ◆


 

 次にやって来たのはミリカだった。やっぱりか。なんか俺とこいつらは磁石ででも結ばれてんのか?


「こんにちはー……って、ええ!?アウルスさん!?死んだはずじゃ!?」


 ミリカは先刻のロランと同じ反応を見せた。何回おんなじやり取りをすれば気が済むんだ……。コントじゃねえんだぞ。


「ああ、そうだよ。お前らに見捨てられて死んだんだ。だから化けて出てやった」


 俺はお化けのポーズをとってみせる。


 するとミリカは早口で慌てて言った。



「ひえええ、違うんです違うんです。あれはもうどうせ助からないだろうって思ってぇ。私たちが助けに向かおうとしたときにはもうクラーケンに捕まれちゃってて!決して、私たちが捨てられたからアウルスさんも見捨てて仕返しをしてやろうとかではないんです信じてください。私も魔法を撃ったんですけどぜんぜん当たらなくて!!!」



 だろうな。お前の魔法、当たらないもんな。だから捨てたんだ。


「おちつけ、冗談だよ」


「はぁ……よかったです」


 まあ若干いい訳がましくも聞こえたが、見捨てられたわけじゃないというのが聞けてよかったよ。いちおう仲間だったんだしな。本気で見捨てられてたら俺人望なさすぎだもん。


「まあ、お前も雇う気はないから……帰れ」


 もういい加減同じようなやり取りはごめんだ。同じことは2度なら耐えられるが、3度目は耐えられない。ドラゴンの頭も三頭までと言うしな。


「えぇ……そんなぁ。なんでもしますからぁ!」


 ミリカは飛び跳ねて胸を揺らしながら言った。やめろ、俺を誘惑するんじゃない。


「それ、まじで言葉通り受け取っていいのか?」


 俺は不敵な笑みを浮かべる。


「……う、そういわれるとなんか嫌な予感がします……。アウルスさん、目が怖い……」


 そうだろうそうだろう……。なんでもしていいんだったら、まじでなんでもするからな、俺は。


「じゃあそういうことだから、もう二度と俺の前に現れるな」


 俺が背中を押して、出口に誘導すると、ミリカはしぶしぶ歩いて行った。


「なぁ、ちょっと……あれはないんじゃないかな?」


 エラが言った。


「いやぁ、どうだろう」



          ◆


 

 俺たちはミリカを見送ったあと、次の面接は行わずに、宿に帰ることにした。そりゃそうだ。だって絶対四人目はグレッドだろ?決まっている。嫌な予感しかしないもん。


「はぁ……新メンバーは見つからなかったし、さんざんな一日だったぜ」


 俺は宿に帰るなり、机に突っ伏した。


「まあまあ、べつに私たちだけでもいいだろう?当面の資金はあるんだし……」


 エラが俺を撫でてなぐさめる。


 あ、そうだ!いいことを思いついた。


「なぁエラ、あれやってくれよ。ひざ枕!そうしたら元気が出るかも」


「え!?ええ!?なにを言い出すんだ急に!?」


 エラは顔を赤らめて言った。


「いまさらひざ枕くらいで恥ずかしがるなよ……。な、いいだろ?」


「もう……しょうがないにゃあ……」


 あ、噛んだ。かわいい。


「ああー幸せー。脳みそ溶けるー」


 俺はエラの膝の上で夢見心地だった。ふとももがすべすべで、頬っぺたが冷たくて気持いい。猫ってこんな気持ちなのかな?


 俺が至福の時間を過ごしていると、突然扉が開いた。


 ――ガチャリ。


「ただいま戻りましたー」


「もどったー」


 エルとレグが帰って来た。手にはたくさんの荷物。ちゃんと買い物できたみたいだ。


「おう、ただいま。危険はなかったか?エルは街に出るのを怖がってたけど」


 それでも自分から買い物を任せてほしいと言い出したのは、意外なことにエル自身だった。なんでもついて来たからには、少しでも俺の役に立ちたいのだそうだ。健気な子だ。あいつらとはホント大違い。


「はい、大丈夫でした。レグちゃんが守ってくれたので」


 エルはレグと固く繋いだ手を上にかかげた。


「レグ、まもったー!」


「おう、偉いぞ!レグ」


 俺はレグを撫でてやる。


 その晩、俺たちは一つの大きなベッドでくっついて寝た。部屋は節約のために一つしかとってない。レグのふかふかの耳やしっぽが温かい。その反対側にはエルのふかふかがあって、俺はそれに挟まれて寝た。


 ああ、ほんとこないだまでの悪夢が嘘のように幸せだ。


 ――こんな幸せが、ずっと続いたらいいな……。



――続く。

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