このパーティにはもう俺以外いらないから、お前たち抜けてくれないか?~無能な奴らに食わせるメシはねぇ!役立たずは全員追放して、俺だけの最強パーティを作ります!?~

月ノみんと@成長革命3巻発売

第1話 お前たち、出ていってくれないか?


 俺はアウルス・アルボルム。このパーティのリーダーをしている。


 パーティリーダーってのは楽じゃない。それぞれの働きに見合った給料を割り振るのも俺の役目だし、なによりみんなを一つにまとめるのが大変だ。


「よし、みんな!今月分の給料だ」


 俺は給料袋をみんなに渡した。


「ありがとう!アウルス」


 女騎士のカレンが笑顔で受け取る。赤い髪に赤い鎧、赤い大剣を装備した、名前通りの可憐な女性だ。鎧から僅かに露出した素肌が、やけに艶めかしい。


「どうも、リーダー」


 金髪僧侶のロランが鼻にかかった声で言った。顔はイケメンなんだが、キザな態度が少し鼻につく、いけ好かない男だ。まあ、悪い奴じゃないんだけどな。だからこそこうして長い間、いっしょにやってこれたわけだし……。


「ありがとうございますっ!アウルスさん!」


 魔導士のミリカもそれに続く。魔導士といっても、いかにもな服装はしてない。普通の緑のワンピースに、花の髪飾りをワンポイント。なんとも可愛らしい、女の子らしい格好だ。


「ふんっ……」


 最後に受け取ったのは、盗賊のグレッドだ。その言い方にはどこかけんがあって、俺は悪感情を抱いた。こいつはいつもこんな感じで、リーダーを敬うってことを知らない。


「あれぇ?ちょっと、私の分……少なくない?」


 さっそく袋を開けていたカレンが、抗議の声をあげた。


「僕もだ!」


 それにつられて、ロランも中身を確認した。


「私もです……。ショックです!今月のお給料で買いたいアクセサリーがあったのに!」


 ミリカも同意見のようだ。


 だが、もっと少ない給料の奴がいることを、俺は知っている。


「おい……。俺のなんか、すずめの涙ほどしかねえぞ!」


 グレッドだ。僅かな小銭を左手に置き、右手で空っぽの袋を逆さにして、アピールしてくる。眉が吊り上がり、怒りの目を向けている。


「おいおい、お前たち。落ち着けって。なにも俺は意地悪で給料を少なくしたわけじゃない。みんな、今月自分たちがした働きを、よーく思い出すんだ」


 俺は皆をなだめる。いつもこうだ。都合が悪いことは、みんな俺のせい。リーダーってのは責任重大な役職だが、それは全部の責任を一人で背負うっていう意味じゃない。パーティメンバーが無能なのは、俺の責任じゃないはずだ。



「私は今月、モンスターを18匹倒したわ!」

「僕は39000ポイントも回復しましたよ!」

「私なんて、MPを8000も消費してがんばったのに!」

「俺はモンスターから20個もアイテムを奪ったぜ!?」



 みんな口々に抗議する。だが無駄だ。「そんなこと」は俺もよおくわかってる。なんてったって、お前たちの給料を計算したのは俺だぜ?ちゃんとギルドの出したガイドラインにのっとって、算出した数字だぜ??文句をいうならギルドに言ってくれ。


「まず……カレン?」


 俺はできるだけ優しい口調で続けた。



「モンスター18匹とおっしゃいますけどねぇ?あなたが倒したのは……全部スライムですからぁ!!!」



 言い切るときには大声になっていた。やっぱ無理だ……優しくしかるのは。


 俺の怒声にカレンは「ピギィ!」と悲鳴をあげ、身体を縮こめた。


 ごめんな、そんな可愛いマネしても、俺の怒りは収まらない。だってこんな会話するのもう何度目だ?いい加減嫌になる。


「だって、スライム以外のモンスターは怖くてぇ……」


「うるさい!そんなんで仕事になるかぁ!!」


 カレンの臆病さは困ったものだ。そのゴツイ鎧はなんのためにある?スライムから身を守るため?馬鹿いうんじゃない。あんなぷにぷにした肉体、ぶつかってきても痛くないだろ?


 俺の説教は続く。


「ロラン!!!」


 また大声が出てしまった。ロランの身体がこわばる。


 それから俺は、残酷な事実を告げる。



「39000ポイントっていうけどな……お前!女しか回復しねえじゃねえか!!!俺とグレッドがどんだけ大量にポーション消費してるかわかってる!?お前のせいで頻尿になったわ!」



 正直、ポーション代を考えたら、ロランの分は赤字だ。


「だって、むさくるしい男にヒールするのって……なんだか、キモくないですか?」


「いや、キモくねえよ!!てめえのスカした前髪のほうがキメェわ!!」


 ロランにはホント呆れる。女好きだかなんだか知らねえが、男をなんだと思ってるんだ?そういうのはよそでやってくれ。まあ最初にロランの悪癖を確認しなかった俺も悪いが……。

 (冒険者の細かい情報は、採用時の書類に書いてある)



「それから……ミリカ!MPの消費量を誇るのはいいけどなぁ……あなたのそれ(魔法)、敵に当たったためしがあるんですかねぇ!!!???」



 ミリカのアキュラシー(命中精度)はゴミだ。レベルがあがるたびに、アキュラシーにステ振りしてくれと頼んでいるが、こいつはきかない。


「えー、だってだってぇ……威力が高い方が、絶対強いじゃないですかぁ!」


 甘い声で馬鹿なことをいうんじゃない。


 確かに、ミリカの魔法の威力はすさまじいが、当たらないんじゃ意味がない。その威力のおかげで、狙いが外れたばあいであっても、爆風である程度のダメージは与えてくれるのだが……なんというか、すこぶる燃費が悪い。MP回復ポーションがいくらするのか知っているのか?この女は。


「極めつけは、グレッドだ」


「なんだょ……」


 いつもはもっと威勢がいいこいつも、今日ばかりは少しビビってるようすだ。今日の俺はいつもより厳しめだからな。ドラゴンの頭も三度までってやつだ。

 (ドラゴンは賢くて慈悲深いことで知られる)


「グレッド……モンスターから20個『も』奪ったといったな……お前は」


「そ、そうだ!俺の盗賊としての腕は確かなはずだぜ!?」


 グレッドが後ずさる。俺は追い詰めるように顔を近づけた。



「お前が奪ったアイテム……全部ゴミみてえな安物ばっかりだからね!??」



「し、しかたねぇじゃねえか。盗みの成功率はスキルに依存するけど、アイテム自体のドロップ率は変えられないんだから!」


「それにしても半分がただの薬草って、運悪すぎだろ……お前!」


「うぐぅ……俺の家系は代々運が悪いんだよー。じいちゃんはギャンブルで破産してるし」


 じゃあなんで盗賊になった……。


 だいたい、盗賊なんて職業がほんとに必要なのかも疑問だ。パーティを組むときに、ギルドのお姉さんが「盗賊が一人いると、収入が安定しますよ」なんていうから、グレッドを入れたのに……。安定するどころか赤字寸前だよ!?


「というわけで、お前らの給料が低い理由は以上だ。納得していただけたと思う。演説終了。どうもありがとう」


 俺が返事を待たずに話を切り上げ、部屋から出ようとすると、グレッドに手を掴まれた。


「ちょ、ちょっとまってくれよ」


「そ、そうよ!さすがに今月は少なすぎるわ。これじゃあ食事も満足にできないじゃない」

 

 今のカレンの言葉は聞き捨てならない。


「食事ぃ???」


 あーあ、さっき俺を引き留めずに、そのままいかせてくれてたら、こんなことにはならなかったかもしれないのになぁ……。愚かな奴ら……。もう付き合いきれないぜ?


「あのさぁ、ここの宿代……俺が全部出してんだけど……知ってた?もちろん宿の食事も」


「あ、あれ?そうだったかしら?」


「へぇ、そう。気にしたこともなかったんだよね?今まで。そういうことは俺にまかせっきりでさ。お前らは自分の給料だけじゃ、生活もできてないんだよ?もっと感謝してくれてもいいと思うんだけどなぁ」


「か……感謝ならしてるわよ。あなたはみんなの頼れるリーダーだもの。ねぇ、みんな?」


 全員カレンに同意する。


 感謝ねぇ……。それだけでメシが食えたらどれだけいいことか……。正直、俺自身の取り分もそれほど多くない。最近実入りが減ってきてるし、いつまでもこいつらを善意で食わせてやるわけにもいかない。そろそろ潮時だろう。


「えらい人の言葉がある……」


 俺はもったいぶって、間を置いてから続ける。



「お前ら……『働かざるもの、食うべからず』って知ってるか?」



 みんな息をのんで俺の言葉を受け止めた。俺がいつになく真剣なトーンで言ったからかわからないが、ちゃんと事の重大さを理解してもらえたようだ。


 こいつらには悪いが、冒険者だって立派なビジネスだ。長い間いっしょにいたから、正直俺だって心苦しい。


 いや、でも俺は言うよ?


 俺は……にっこり笑って、



「このパーティにはもう俺以外いらないから……お前たち、出ていってくれないか?」



 と言った。



――続く。

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