第3話 はじめての学校
最初の夜は、眠れなかった。どうして朝って、必ずやってくるんだろう。
朝日が昇り、明るい光が室内に届くと、どれだけ嫌だと思っていても、ベッドから起きなければならない。
体をムクリと起き上がらせて、まだ慣れない自分の部屋を眺める。
机と、ベッドと、小さな収納と、生活に困らないように用意されていた。
机の上には、エリさんがスタンド式のかわいいデザインの鏡を置いてくれて、ゾーイがお花とお気に入りの人形を飾ってくれている。
私のために色々と準備してもらっているからには、最初から嫌だと言ってばかりはいられない。
朝の身支度くらいは自分でできるから、気が進まなくてもそれを終わらせる。
エリさんが用意してくれた朝ごはんの味は、わからなかった。昨日の歓迎会のごはんがおいしかったから、なんとなくエリさんに申しわけなく思った。
ウィルにならって、使ったお皿をキッチンのシンクまで運ぶと、後片付けもエリさんにお任せして、いよいよ初登校だ。
初めて通う学校に、ドキドキしていた。楽しみだからじゃなくて、ひどい緊張のせいでだ。
隣をウィルとゾーイが一緒に歩いてくれているけど、足は上手く動かせない。多分、無意識下で拒絶しているからだ。
上手くいきっこない。
もう、すでに吐きそうだ。
「お兄ちゃん、お姉ちゃんと一緒のクラスでいいなぁ」
ゾーイの明るい声が木々に囲まれた通学路にひびく。
ハーバートさんの家は、町からほんの少しだけ離れているから、家々が並ぶそのはしっこに行くまでに、木々に囲まれた道がある。
茂みから何かが飛び出してきそうだけど、魔物などは寄せ付けないようになっているらしい。
人を襲う魔物は、その辺に当たり前のようにいるものだから、魔物除けの向こう側には行かないでと、それだけは何度も言われた。
昨日はわからなかったけど、歩いて行くと、田舎町なのに立派な校舎が見えて驚いた。
二階建ての煉瓦造りで、王都にある大学や教会みたいだった。まだ新しいものだと思う。
ここには、近隣の町や村からも、大きな馬車に乗って、こども達が通ってくるって聞いた。
午前中は授業を受けて、お昼に無料で食べられる給食を食べて、午後からは絵を習ったり、音楽をならったり、工作をしたりと、自分の好きなものが受けられるようだ。中には、武器や罠の扱い方を学ぶ訓練もある。
学校関係だけでも、たくさんの人が働いていそうだ。
ゾーイとは広い玄関で別れて、ウィルに案内されて、職員室に向かった。
ウィルが声をかけたクラス担任の先生は、若い男の先生で、茶色の髪なのだけど、前の方の向かって右側が一房だけ赤く、反対側の一房が緑色をしている。部分的に染めているのだと思う。
なんだか少し派手な感じの人で、想像とは違って驚いた。
「はじめまして、ミア。待ってたよ。俺はランド。これから約一年よろしくな」
「…………………………よろしくお願いします」
椅子に座ったまま私に話しかけてきたランド先生は、口調が軽くて、明るい印象だから、余計に信用できない。
ヘラヘラ笑っている裏で、何を考えているのかわからない。
私のことは聞いているはずだから、貴族の子供のくせに、まだ字が書けないのかって、思っててもおかしくない。
これ以上、自分の弱みを見せてはいけない。気を許してはいけない。
余計なことは話さないまま、目も合わせないまま、ランド先生とウィルと教室に向かった。
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