ギルド前、激励の時
「
髭を蓄え大きな一本傷を持つ武骨な顔を更に引き締めたギルド長アドラーはそう切り出した。
早朝、住人達の避難が進んでいる事もあり平時より静かな街にその声は良く響いた。
ギルド前に集まった冒険者達はそれぞれに差はあれど、そのほとんどが緊張した様子で耳を傾けている。
「冒険者を生業としている者だけではない。既に引退していた者や別の道を行った者……本来は満足に戦えぬ事情を持つ者までがここに居る」
強制参加と銘打ってはいるが、後のギルドでの振る舞いを気にしなければ招集を回避する術はいくらでもある。
その上で参加選んだ者だけがこの場所に居た。
「騎士団や得体の知れぬ魔術院にまで協力を要請した今回の事態は最早、冒険者だけの問題ではないだろう。――しかし、対モンスター戦において私達以上は存在しない!奴らの対応の核は私達だ!その事は既に、皆に知らせている戦いの流れからも理解しているだろう」
あくまで主役は我々であると語るギルド長に対し、一部の冒険者達は頬を緩めた。
功名心。大きな成果を出す事で富と名誉と地位を得る。野心ある者達にとって、これほどの機会は無かった。
「この戦いの成否は皆次第!心して戦ってくれ!」
「――!」
アドラーのその言葉に、冒険者達は自らを鼓舞するような声を上げた。
「き、緊張する……!」
「やばいねー」
アイラとシェリルはそれに混じる事無く、落ち着かない様子で手を握り合っていた。
「……」
その傍らにはフリューゲルの姿がある。何かを探すように冒険者の集団を見回していた。
「フ、フリューゲルは特に気を付けてよ!マークさん達と一緒に動くんでしょ?いくら貴女が強くても、金等級相当の相手と戦うかもしれないんだから!ほら、落ち着いて!」
「……はい」
その仕草を緊張によるものだと勘違いしたアイラはフリューゲルの両肩に手を置き、そう言い聞かせた。
しかし、この状況でフリューゲルが何かを探すとすれば一つしかない。
「――大丈夫」
「そう大丈夫よ!ギルドの戦力が集結してるんだから!絶対勝てる!死なない!これが終わったら報酬で浴びる程お酒を飲む!」
「フリューゲルじゃなくて自分に言い聞かせてるじゃん」
「しょうがないでしょ!怖いの!今度こそ死ぬかもしれないのよ!?」
騒ぐアイラ達を見て、フリューゲルはオーウィンを探す事を止めた。
今回のクエストでは銅等級は戦線の後方に配置される。前線の銀等級以上の冒険者達が強力なモンスターを相手にする為、その補助や漏れ出た危険度の低いモンスターと手負いを相手にするのが役割となっている。
つまり、オーウィンは危険度の低い後方へ。これはフリューゲルがオーウィンの危険を排除し、その力を改めて見てもらうのに好都合な配置だった。
「私が何とかする」
オーウィンが参加しているとしても、自分が全ての危険を潰してまえば良いとフリューゲルは決心した。
それと同時に、今度こそ自分に全てを託そうと思わせる――英雄に相応しい結果を示すと。
「大丈夫、勝てるよ」
「おお……」
「フロイデ!俺達の英雄!」
奮起する冒険者達の視線が、ギルド長に代わり前に立ったフロイデに自然と集束していく。
「皆が居て、そして私が居る。……負ける道理が無い」
特徴的な容姿が。地位が。実績が。その言葉に大きな説得力を持たせる。
フロイデはそのままモンスターが迫る方角へと歩き、冒険者達の先頭の位置に立った。
「それにね、本当の英雄はこれから生まれるんだ。――行こう」
言い聞かせるようにそう言って進みだしたフロイデの背を追う為に、冒険者達は歩き出す。鼓舞の為の興奮は戦う為の研ぎ澄まされた集中へ。
「……っ」
フリューゲルは自身の胸を――内に潜ませたあの羽根を確認するように触れ、その後に続いた。
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