過去の化身
「成程。物置が部屋になってたのは君が間借りしてたからなんだ。納得」
「ちょ、ちょっと!それはそうですけど、何で貴女がここに……っていうか、何か着てください!」
「着るよー」
フロイデは裸だった。風呂上りで湿り気の残った髪を揺らし、フリューゲルの質問を受け流しつつ目的の場所へと向かう。
「そっ、そこはオーウィンさんの……」
「私クエスト用の服以外持ってないからさ、こういう時は借りてるんだ」
そこはオーウィンの部屋だった。オーウィンが居なくなった後もフリューゲルの手によって清潔に保たれているが、この家主の居ない一ヵ月間で部屋の生活感は消え去ってしまっている。
フロイデは当たり前のように部屋へ入り、オーウィンの服がまとめて収納されているチェストへ手を伸ばした。
「わ、私のでよければ貸しますから!」
「……いや、大きさ的にちょっとキツイでしょ」
「……」
「こっちの方が良いよ。ちょっと大きいけど」
「……し、下着は?」
「履くけど?……あった。ほら、これ」
「はあ!?」
☆
結局、フリューゲルの静止の声は届かず、フロイデはオーウィンの服を身にまとい椅子に座った。
大きさの合わないオーウィンの服装という不格好さはあるが、汚れが消え純白を取り戻した髪と立ち振る舞いがフロイデの非凡さを表している。
自然と目がその姿を追ってしまう。そんな存在感のような何かをフリューゲルは感じていた。
「ふーやっと落ち着いた感じ。で、何だったっけ」
「……何で貴女が自分の家みたいにここを使ってるんですか」
「さっき服が無いって言ったけど家も持ってないんだよね。クエストが遠出ばっかりだからさ、管理とか面倒臭いの。だからクエストの合間はここに居るんだ。ま、今回はしばらく居る事になりそうだけど」
「オ、オーウィンさんとは知り合いなんですか」
「うーん……知り合いっちゃ知り合いだけど……友達?いや、違うな。家族?」
「か、家族?」
「いやね、長い付き合いだからどう言えば良いのか分からないんだよね。子どもの頃……それこそ貧民区からの付き合いだし」
「貧民区……あっ」
フリューゲルはオーウィンと共に貧民区へと赴いた際の事を思い出す。
『斬り合いの真似事だ。俺ともう一人で、朝から晩までやってた』
あの時言っていたもう一人とはフロイデの事だと、フリューゲルは悟った。
「そういう訳で、私はここを使ってる。ま、そもそもお風呂とか取り付けようって言ってお金出したの私だし、そういう意味では私の家でもあるかな。散らかしたら怒られるけど」
「……そう、ですか」
オーウィンに自分の知らない過去がある、という事をフリューゲルは理解している。
オーウィン自身がそういった話を自分からする事が滅多に無く、フリューゲル側から問いかける事も無かった。
自分の知らないオーウィンそのものが、今フリューゲルの目の前にある。
「じゃ、次はこっちから質問」
「え?」
「何でこの家に君が当たり前のように居て、部屋まで作ってるのか。何故オー君がこの家を使ってる様子が無いのか」
常に涼し気な、どこか超然とした態度と顔をしていたフロイデが明確な笑顔を浮かべて、フリューゲルに問いかける。
「教えてくれないかな」
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