夢を継ぐ者は
草木の禿げた大地が続く場所ーーヒュグノス荒区と呼ばれる区域にて、巨大な人影が伸びていた。
ネフィリム。人を何倍にも大きくしたような姿、正に巨人と呼ぶのが相応しいこのモンスターは、一匹でも甚大な被害を発生させられる為発見後の迅速な討伐が求められる。
ただ歩くだけで地形や生態系を変える災害そのもの。討伐の難易度は高い。その対象等級は金等級である。
そんな凶悪な巨人が、苦しげな声を響かせて膝を付いていた。
「うるせ、やっぱ耳栓は必須だな」
「聴力を強化しないようにマナを操作しないといけないの、面倒なのよね」
男女二人の冒険者がその光景を眺めていた。しかし、巨人を跪かせているのはこの二人ではない。
「今日は一段とキレてんな」
男の呟きの後、再び巨人の悲鳴が響き渡った。立てた膝の裏筋に当たる部分から、大量の出血が始まっていた。
「うおっ」
巨人の声は悲鳴から怒りの声に変わり、自身の足元に向けて拳を振り下ろした。
地面が砕け、小さな揺れが発生する程の威力。しかし、事態は何も解決しない。
再び新しい傷と大量の出血と共に、巨人の叫びが響く。
「俺達……いるか?これ?」
その光景は一人でにネフィリムが斬り刻まれている、と言ってもいい光景だった。
男女は何もしていない。何も知らぬ者が見れば、次々と傷が発生し勝手に苦しんでいるとしか見えないだろう。
「お」
執拗に攻撃された両足がついには機能を失った。ネフィリムはうつ伏せに倒れ込み、巨大な身体の巨大な弱点が丸見えになる。
「――死ね」
今まで姿を見せなかった斬撃の主がネフィリムの首裏、人間でいう頸椎の部分に立ち、足元を斬り刻み始めた。
足を狙い転倒させ、頸椎を狙う。巨人系モンスターに対する常套手段ではあるが、これは本来複数での役割分担が前提の手段だ。
巨人は結局、抵抗の声を上げる事も動く事も出来なかった。そして、それを成した人物は一滴としてネフィリムの血を被っていない。
「終わったよ」
「……一人で全部やりやがって。俺達要らねえじゃねえか――フェリエラよお」
「私が一人でやった方が速い。分かるだろう?」
「ギルドも心配性よね。ま、私達はこれでも報酬が貰えるから――」
「さっさと帰るよ。間に合わなくなる」
「あっ、おい」
男の静止を待たず、その場からフェリエラは消え去った。二人の頬を風が撫でる。
「いつにも増して傍若無人ね。何かあったのかしら」
「あれだろ、オーウィンのお気に入り」
「……ああ、オーウィン信者だものね、あの子」
女は納得した様子だった。フェリエラのオーウィンに対する執着を知る者は多い。そして、オーウィンのお気に入りという存在がフェリエラにとって何を意味するのかも。
「……嫌な予感がする。大丈夫か、これ」
「同感だわ」
☆
「――うん、決めた」
突如としてフェリエラは立ち止まり、呟いた。右手だけを覆う黒い革の手袋の感触を、左手で感じながら。
「良い機会だ。殺すのはあれだから、顔をぐちゃぐちゃにしてもっとブサイクにしてあげよう。手足の関節も増やしてあげようかな――そうすれば、オーウィンさんも分かってくれる」
フェリエラは再び動き出し、風となる。
「示そう。オーウィンさんの夢を継ぎ、貴方の隣に居るべきなのは私であると」
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