結論

「――こ、こんな感じです……」


「……話は分かった」


 風呂に入ってさっぱりとはしているが、事情を語るフリューゲルは終始申し訳なさそうにしていた。


 適当に焼いて切り分けた肉の一つを口に運び、聞いた話と同時に咀嚼する。


「お前、本当に大丈夫か?」


 母の拒絶。それを受けたフリューゲルは一刻も早く昇格し金を稼ぎ、冒険者としての自分に価値があるという事を示そうとした。その結果が今回の無理なクエスト受諾。


 短絡的で少し異常な行動。駆け出しの冒険者が仕事内容に慣れる事が出来ず心を病むのはよくある話だ。


「だ、大丈夫です。自分でも変な事したなあって今は思うので……」


「ならいい」


 少なくともこうして接している感じはいつも通りだった。メシもちゃんと食えている。


「二度と今日のような事はするな。俺が居なければお前は無防備な状態で気を失ってた。それがどれ程危険かは分かるだろ」


「は、はいぃ……」


 申し訳なさそうにフリューゲルは俯いた。あまり説教臭いのは好きじゃないが、今回はキッチリ釘を刺しておくべきだろう。


「まあ、最後にぶっ倒れたとはいえ受けたクエスト自体はキッチリこなしてたのは驚いた」


「……あ!クエストっ」


「大丈夫だ、金は受け取ってある。……これが報酬だ」


 近くに置いてあった袋を取り机の上に置く。本人以外の受け取りはあまり推奨されないが、脇に気絶したフリューゲルを抱えてたから何とかなった。


「……多くないですか?」


「フォレストウルフは死体にも価値があるからな。近場に居た冒険者に移送を手伝わせた分少し減ってはいるが、こんなもんだ」


「し、死体も売れるんですね……」


「ゴブリン程度だと無価値だけどな。お前の仕留め方も良かった。無駄な傷が少ないと喜ばれる」


 アーマードベア程ではないが、銅等級が一日で稼いだ量としては破格だ。袋の中を覗いたり重さを確認したりするフリューゲルに、俺はずっと気になっていた質問をする事にした。


「その金を持ってまた、お前は家族の下に戻るのか」


「……」


「俺にはそこまでしてやる意味があるとは思えん」


 家族なんだろう。肉親なんだろう。ただそれはフリューゲルが一方的に抱いているだけの感情に思える。

 フリューゲルは少し困ったような顔をしていた。


「もう少し……もう少しだけ、考えたいんです」


「……まあこれはお前が稼いだ金だ。口出しはしないが――」


「あ、いや、今は家に帰るつもりはないんです。だからお金の使い方はちょっと考えてみます」


「そうか」


 少し安心した。フリューゲルが冒険者として上を目指す理由の中に家族が含まれているのは分かる。俺にとってはフリューゲルを縛る鎖にしか見えないが、本人にとってはそうではないのだろう。


 しかしここで家族と距離を取るという事は、以前あった家族の為に動かなければならないといった使命感のようなものが薄れているように見える。落ち着いて答えを出そうとしている証拠かもしれない。


「で、どこで暮らすんだ?」


「……あ」


「宿……は流石に金が足りないぞ。後、野宿は論外だ。睡眠の質が落ちる」


「か、考えてませんでした」


「だろうな」


 予想はしていた。


「物置に使ってる部屋がある。好きなように使え」


「……え、あ」


 フリューゲルは少し固まった後、何やら考え始めた。遠慮がちなこいつの事だ、他に選択肢がないか考えてるんだろう。結論が出たのか、緊張したような改まった姿勢で頭を下げ始めた。


「よ、よろしくおねがいします……」

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