オーウィン宅にて

「……ん、あ」


「!……起きたか」


 身じろぎと共にフリューゲルが目を覚ました。寝起きの鈍い視線が俺を捉える。


「オーウィンさん……あれ……」


「ほら、まずは水を飲め。声が酷いぞ」


「あ、はい……」


「ここは俺の家だ。お前の家は場所が分からんし放っておくわけにもいかない。仕方なく、ここに運んだ」


「……ありがとう、ございます」


 年頃の女を合意もなく家に連れ込む、という点で少し気が引けたがそうも言ってられなかった。フリューゲルも流石に文句は言わんだろうとは思っていたが。


「あの、オーウィンさん、用事があるって……」


「昼の間に終わったよ。だから別に昼からならお前に付き添う事も出来たんだが、良い機会だった。そろそろ俺が後ろに居ないという状況に慣れておくべきだと思ったからな。……用事が終わってみたらお前がクエストを三つも受けたなんて話を聞いて慌てた」


「……」


「何があった?」


 クエストの同タイミングでの多重受諾はリスクが伴う。その一つとして各クエストには受諾した状態で放置される事を防ぐ為の時間制限がある。これを過ぎても対象の討伐が確認出来なかった場合、クエストは失敗とみなされ新たに同じ内容のクエストが発行される。


 そして、失敗はその冒険者の経歴に傷として残る。


「手慣れた冒険者や複数人で分担するというのなら一斉に何個もクエストを受けるのは分かる。……お前はしっかり成長してる。範囲をブルームに絞ったのも良い。だが三つは色々と無理が生じる事くらいは分かるだろう?」


「……あ、あの、オーウィンさん、もしかして――」


「言いたい事が山ほどあるぞ」


 すっかり眠気が晴れた顔でフリューゲルは顔を引きつらせた。何を察したのかは知らんが、今の俺はかなり怒っているという自覚がある。


「睡眠不足、水分不足、食事も取っていないな。最悪だ。最悪の条件下だ。そんな状態でモンスターがうろつく森に入ってクエストをこなせと誰が教えた?」


「すっ、すいません。あの時の私、ちょっとおかしくなってたみたいで……」


「……まあ良い、それもこれも後だ。まずはメシだな。今から用意するから待ってろ。後は風呂。動けそうならメシの前に入っておけ」


「お、お風呂、あるんですか……?」


「高かったがな。不清潔は好まん」


 会話を切り上げて部屋を出ようとする際、言っておくべき事を思い出した。


「ベッドは一つしかない。清潔にはしているが……まあその、俺自身のニオイはどうにもならん。我慢するか椅子にでも座れ」


「…………」


「おい、わざわざ嗅ごうとしなくていい。……おい!」

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