二十九話
僕は母さん、シラユリさんの話を聞いた。暗示をかけられ、挙句の果てに呪縛まであると。
「まだ声が出ないのでしょう?無理はだめよ。」
「あら、うちの息子はそんなに弱くないわよ!」
中々に賑やかである。目覚めてからというもの、なんだか頭が軽い。
「ガイ?大丈夫?温もり足りてる?」
そしてずっと腕に抱きついているメリー。なんかほんと、急に成長した気がする。それともただ単に僕がメリーのことをよく見ていなかっただけか。
「それで、誰がガイに呪縛をかけたの?ねえ誰?殺さなきゃ···」
「それならあの二人が色々学園内で探ってくれてるわ。」
「ふーん、もしかしてあの少年の目ってもしかしてシラユリちゃんが?」
「ええ、そうよ。おかげで彼の見ている光景を把握出来てるわ。」
え、もしかしてあいつ···なんか可哀想になってきた。
「そろそろ報告が来るんじゃないかしら?そっちも何かしたんでしょう?」
「ええもちろん。メリーちゃんが殺っちゃった相手の一人をユーテリア君に蘇生してもらってね、色々聞き出してたのよ。」
「あ、その···ごめんなさい。」
そんなことがあったのか。
「いいのよ。それで話した内容はユーテリア君関係ばかり。ガイノスの話は一切聞けなかったわ。」
「だから君の娘が彼の護衛をしているのね。」
「どちらかと言えば護衛してもらってる気がするわね。」
「ガイくーーーん!!」
バーンっとドアが開けられ、そのまま抱きつかれた。
「おいおい、君の兄さんは病人だぞ。程々にしてやれヴェルディちゃん。」
「えへへー、ガイ君だ!こうやって甘えるのも久しぶりだね!」
「ねえ、誰の許可を得て私のガイに抱きついているの?ガイは私の。」
「ならガイ君はわたしの兄さんだもん!」
「俺のことは無視かよ。」
なんだかより賑やかになった。嬉しい気持ちはあるが二人で抱きついて睨み合うのはやめてほしい。
「ユーテリア君、久しぶりね。」
「っ!魔王様!お久しぶりであります。お元気そうで何よりです。」
「ふふ、それで何か用かしら?」
「いえ!ヴェルディ・バーンがこちらに赴きたいということで参上した次第であります。」
「あらあらシラユリちゃん?いい家臣を持ったものね。」
「ええ、私には勿体ないほどの家臣よ。あのときはごめんなさい、この場で謝罪するわ。」
「いえいえ、いいんです。妹もきっと赦してくれますよ。それにまだ死んでないと思いますし。」
「そうね、貴方達兄妹は簡単には死なないわね。これからは私もできる限り手伝うわ。よろしくねユーテリア君?」
「は、はい!光栄です!」
妹?ユーテリアには妹がいたのか。
「それよりもアリスちゃん?あの子大丈夫?」
「ガイは私の、あなたのじゃない。」
「ガイ君は私の兄さんで私と結婚するっていってくれたもん。だからガイ君は私のなの!」
「ふふふ、大丈夫よ。近親相姦にはならないわ。」
大丈夫?何も大丈夫じゃない。二人の威圧だけで僕は気を失いそうだ。
「あ、そうだ。ふたりともガイノスのお嫁さんになればいいのよ!これで解決だわ!」
「···ガイがいいなら」
「ガイ君がいいなら、私はいいよ?」
え、もしかして僕二人のお嫁さん貰うの?ヴェルディはなんやかんやで独占欲が強くてメリーなんかは最早その場を破壊しかねない気がしたんだが。これは夢だろうか。
「だって正妻は私、ガイの子供を産めるのも私ただ一人。なら構わないわ。」
「何言ってるの?私が正妻だもん!あなたは捨てられる運命の愛人よ!」
「ガイの妹でもこれ以上は許されない。それにガイは私を、私だけを選んでくれる。あなたこそ愛人にふさわしいわ。」
僕を挟んで修羅場が起こっている。声がでないため二人を説得することも出来ない。それになんだか頭が重たい···
「ガイ君!大丈夫!やっぱりまだ呪いが!」
「落ち着いてヴェルディちゃん?メリーちゃんも窓からどこに行くのかしら?」
「···ガイのために薬を」
「大丈夫よ、何日も眠ってたんだもの。きっと疲れて眠っただけよ。今は大人しくさせてあげましょう?」
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「ねえガイ君?」
目を覚ますとヴェルディが馬乗りになっていた。なんというか前にもこの光景を見た気が···
「ガイ君は···私のことどう思ってる?」
「···」
「···やっぱりまだ声、出ないだね。」
そう言うとヴェルディは顔を近づけてくる。僕は咄嗟に肩を掴み、ヴェルディを押さえた。
「ふふ、やっぱりガイ君はメリーさん一筋なのかな?なんだか寂しいな。」
僕はふと気づく。ヴェルディの体が“冷たい”ことに。
「気づいたガイ君?私ね、“時間がもう無いみたいなの”。だからその前にって思ったけど···ガイにとって私はただの妹だもんね。」
ヴェルディの言葉に僕は顔をそむけた。
「ガイ君は悪くないよ、悪いのはわがままな私だけ。でもこれだけは分かってほしい。私は生まれたその時からガイ君のこと、好きだったんだよ。」
僕はただ、ヴェルディの話を真剣に聞いていた。たった一人の妹の話を。
「だからガイ君がいなくなったときはね、私壊れそうだったんだよ。世界すべてが憎く感じた。でもガイ君に再開したらそんなのなくなったんだ。不思議だよね、ガイ君にはわからないだろうけど。」
「その時から私、ガイ君から姿を消したでしょ?あれ実はね···」
そう言うとおもむろに胸元を開け始めるヴェルディ。そこには“黒く滲んでいる魔法結晶”が埋め込まれていた。
「えへへ、そういえばガイ君にはまだ話してなかったね。私実は人間じゃないの。母さん曰く、ホムンクルスって言うらしいよ私。それでね、私あの時からずっとガイ君の呪いを吸収してたんだよ。」
「流石に魔力が尽きてガイ君の呪いを吸い切るまえに消滅するかと思ったけど、母さんが来てくれて助かったの。そして先日、少しずつ呪いを吸い取ってなんとかしようと思ったけどガイ君にはもう時間がないってわかったから···」
「わたし、一気に吸い取ったんだ。そしてこれがその代償。それでこれからガイ君の呪いを全部取り除くの。」
僕はヴェルディを押しのけようとするが体に力が入らない。
「母さんはこのことまだ知らないから···後はよろしくねガイ君?」
必死にヴェルディを押しのけようとするがやはり力が入らない。僕のためにヴェルディがいなくなるのは決してあってはならないことだ。
「メリーさんのこと、大切にしてね。そしてこれは本当に最後のわがまま···」
僕に抱きつき、そしてほんの一瞬口づけを交わした。
「えへへ、キスってこんなに幸せなんだね。」
放心状態の僕をよそに、ヴェルディは僕から呪いを吸い取っていく。からだは軽くなるがそれと同時に魔法結晶がどんどんと黒く染まっていく。
「ヴェルディっ!」
第一声がその一言だった。
結晶は砕け、ヴェルディは···消滅した。
――愛してるよ、ガイ君。――
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