Moody Color

宵町いつか

第1話

 深夜、ポテチを食べながら絵に現実とはかけ離れた純粋で綺麗な色を付けていく。

 タブレットにペンを走らせていると、ピコンっと趣味で使っているパソコンがなった。

 パソコンの液晶を見ると「あなたのフォローしているキシロロアさんの絵が更新されました」とだけ表示されていた。

 時刻を見ると丁度2時だった。几帳面な彼女は毎週この時間に投稿している。

 慣れた手つきでサイトを開き、絵を見る。

 雨の中、セーラー服を着た少女が軒先で物憂げに佇んでいる絵だった。


 コメント

 ・やっぱりキシロロアはすごい。この絵の子、好みだわ。

 ・天才ってこの人のことを言うんだよ。

 ・才能の塊。

 ・あ……尊い犠牲絵をありがとうございます、キシロ先生!

 ・てえてえな

 ・透明度高っ


 ――やっぱりキシロはすごいな。投稿したらすぐにこんなにも沢山見られて、コメントがついて、褒められて。

 それに比べて私は。

 私は手慣れた動作でアカウントページに移動する。

 すぐにパソコンに目を背けたくなるような現実が無慈悲に映される。

 フォロワー数二桁。閲覧数良くて200前後。悪くて30前後。コメントなんて一個付けばいい方だ。

 確かに私は彼女より絵は下手で投稿頻度も低い。でもそれが私にとっての本気なのだ。

 できる限り彼女に近づこうとした。睡眠時間を削って、テスト勉強の時間を削っても彼女には届かなかった。

 才能の差ってやつなのかな?やっぱり。

 彼女と私には雲泥の差がある。

 私はパソコンの電源を切り、タブレットに向き直る。



 ピコン。


 地面に放置されている携帯から通知が来る。

 そこには今一番見たくない名前の彼女からのライン。

「どう?」

 送られた文はたったそれだけ。

 それは自分のことを上だと思っている人間が言い放つ、見下すイントネーションではなくただ単純に自分に自信がない人間が言う感想を求めるイントネーションであることを知っている。

 だから……。

 私はなんて醜いんだ。

 ぐちゃぐちゃになった感情が胸の中に渦巻いている。

「木城はやっぱすごいね。今回の絵も凄かったよ。これだったら」

 と、そこまで書いて一度消す。

 結局返したのはたったこれだけ。

「みんなからの反応もいいね。流石だよ」


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