Vacation! 11. 無人兵器と予算


 かつて人工頭脳SBDのリリィは言っていた。

 敵は同じ人工頭脳SBDだと。

 そしてチョッパーは言った。

 人工頭脳SBDが暴走したと。


 これってひょっとして、もう【FAO】プレイヤーの中じゃ敵の情報が割れていて周知の事実ってことなのか?

 いかん、おれが仮想世界メタバースで陽キャエンジョイしている間に、界隈での考察が進んでいて情報惰弱になりつつある。


「チョッパー。その暴走したAIのSF設定について詳しく」


 おれは口から飛び出しそうになったボンゴレビヤンコをしっかり飲み込んでからチョッパーに聞いた。


「いやな、俺様の情報部ダチの伝手でよ、今回の国籍不明機空襲事件。調べてくっとあらゆる国家、軍、犯罪組織、それとは無関係な勢力とかが複雑に重なり合って全容をぼかしているらしくてよ、でも最終的に一つの答えに辿り着くんだよ」

「…………けっこう巻き込んでんな」


 まるで地球規模と言わんばかりだが大袈裟とも思えない。

 実際、インドミタブルでは市街から飛んできた小型無人機があったし、アンティルでも麻薬工場を運営する犯罪組織が絡んでもいた。


「んで、その答えって何だ?」

「それがよぉ、コード89915101に辿り着くんだってさ」

「え」

「まさに、え!? だよな」


 と言って大声で笑うチョッパーだが、マジで笑いごとじゃない。

 おれがリンを見ると、彼女も力なく苦笑するだけだ。


「スヴェート航空実験部隊のコードと変わらないが、もともとは部隊コードを表すものではない」

「今は航空遠征打撃群よ」


 オルガは怜悧な顔で注釈を加えるが、その部隊名をミルが訂正する。


「犯人はうちらってことにされてる?」

「流石にそこまで馬鹿ではない。この部隊コードは包括的次世代パイロット育成プログラムの前身である、古い計画に付けられたコードだ」

「その古いのに繋がりがありそうなのはわかったけど、計画の内容ってなんだ?」


 勿体ぶらずにさくっと答えを教えて欲しい。

 考察はあとからいくらでもできるからね。


「完全無人兵器の研究だよ、少年。我が国も共同研究の一端を担っていた」

「おおう……。天下の合州国様も関わっていのか」

「というより、今ここに所属しているメンバーの国すべてが関わっていた」

「マジか」

 

 リッチハートが壮大なプロジェクトを強調するように言った。

 まあ、黒幕なんだからそれぐらい大きくないと物語上面白くない。

 とはいえ相当な規模なので互いに突っつき合うと、痛くない腹も探られて変にぎくしゃくしそうな国家間事情になりそう。


「少年は無人兵器の開発経緯を知っているかな?」

「一般的な知識で述べるなら、自国の軍人が死なないので犠牲は少なくて済む、政治的にも安定する、ぐらいが説得力ありそうだね」

「まあ、その通りだ」


 端正な顔のリッチハートが笑うと白い歯が輝いて眩しい。

 なんか知らんけど腹が立つ。イケメンが。


「では一般的でないほうの見解はなんだ?」

「国防予算の圧迫で将来的な軍事計画の破綻を招きかねないから」

「…………貴様、随分と詳しいな」


 ここでオルガが多少の驚きを交えた視線でおれを見る。


「少年の言う通り。パイロットの腕もそうだが知性も兼ね備えているとは驚きだよ」

「イケメンに褒められても嬉しくない」


 ぼそぼそ話すおれの言葉はもちろん聞かれていない。

 でもこの程度は褒められることに入らないだろう。

 なんたってこれ、日本の高齢化社会と構造は似たようなものだからだ。

 おれが知る限りの例、約十年前ぐらいでのアメリカ退役軍人の福利厚生はとんでもない額だった。

 実に五〇〇億ドル(今のドル高で換算したら七兆円!?)という日本の防衛費を超える金額なのだからびっくりだ。

 例えば民間企業の年金受給が六十五才だとすると、アメリ退役軍人の受給は四十代から始まる。

 そして退役軍人の数は、現役軍人一五〇万人を越す一九〇万人という数で、ペンタゴンは九〇才や一〇〇才の退役軍人にずっと年金等を払い続けているのだ。

 残酷な面で言うならば下手に四肢を失う怪我をするよりも、戦死してくれたほうが安上がりで済むという話だってある。

 まるで日本における高齢者への尊厳死に対する議論のようなものだ。


 いやだね、お金の話って…………。


「あくまでもそういう側面もあるって話だけどね、おれが知ってるのは」

「そうだな。だが、かつての担当者や関係者が無人兵器開発の時流に乗ったのも、そういう事情があるからだ。現役軍人がペンタゴンで福利厚生削減の話をしてみろ。たちまちのうちに立場を失って左遷させられるぞ」


 リッチハートはまるでそうなった誰かを知っているかのように笑ったが、これはあながち間違いでもない。

 退役軍人は現役に比べて、二世代も三世代も前のだ。

 当然、人脈もあり現役将軍や政治家に繋がりもある。

 自分達の年金が減らされると知れば、そうしようとする人間を追い払うのも簡単なのだ。

 だからペンタゴンでは、この手の話は御法度とされている。


 信じるか信じないかは、あなた次第です!


「んで、コードの話は?」

「国防予算における福利厚生の問題は何も我が国だけではない。だからこそ水面下での協同研究が進んだ。特に人材育成に金がかかる部署はな」

「……でたよパイロット育成問題」

「空軍も海軍も、陸軍でもそれぞれのパイロットはいる。なので軍全体と見ても過言ではない」


 どこの国も国防予算の中での福利厚生、人件費は頭の痛い問題なのだ。

 アメリカ国防総省予算内で福利厚生を含む人件費は全体の三割を占めるが、フランスなんて国防予算の半分が人件費という目も当てられない状況らしい。

 これで何が困ると言えば、有事の際に弾薬がすぐに底を尽きて継戦不可能状態に陥るところだ。

 日本の自衛隊が抱える弾薬問題は、実に各国共通というまるで笑えない話が蔓延している。


「ハイテク産業としての無人兵器開発、ハード面に関してはどこの国も企業も始めていた。しかし、コード89915101はソフト面からのアプローチだった。無人化を示す本質的な部分。すなわち、人間そのものの扱いだよ」

「うわっ……、真っ黒すぎる」


 ていうかゲームの話だよねこれ?

 こいつら現実の話も交ぜてないよね?

 ちょっと恐いんだけど?

 リディア大佐のリアル人体実験もあるんだしさ。


「ねえねえ、さっきから難しい話ばっかしてない?」

「マジ空気読めしアゼルっち、テンション上げ上げで行こうぜぷちょへんざっput your hands up!」


 ここで重くなりそうな話題をギャル二人組がばっさりぶった切った。


 まあせっかく夢の国なんだし、よりによって楽しい食事時にネタバレ的な会話をするリッチハートは、まったく空気が読めないヤツだよね。


 ざまあみろイケメン!


 あ、おれを名指ししてたのね。







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異世界ファンタジーですが、内容はWW1の塹壕戦を扱うヤバい物語です!

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