Vacation! 10. リリィさん?
「久しぶりの連絡かと思えば、どういう意図だこれは?」
「意図もくそもねーって、リッチハート。遊びに来ただけだ」
ふんだんな魚介料理が並ぶ中、対面に座るリッチハートとチョッパーが仲良くお喋りをしている。
「それにしてと随分と派手な立ち回りだったなリディア。火消し役の立場も少しは考えろ」
「定時連絡は欠かしていない。本命の置き土産は役に立つだろう?」
おれの左隣にはリディア大佐、正面にはオルガが座り、これまた感情の抜けきった会話に花を咲かしていた。
なにこのコンビ、チョッパーとリッチハート、リディア大佐とオルガ
っていうかランキング二位のリッチハートさ、なに堂々とおれの目の前座っているわけ?
あのハリケーン・デス・レース忘れてねーぞ?
さっきリディア大佐となに話してたんだよ、マジで。
「オルガもリッチハートも久しぶりね。演習以来じゃない?」
右隣に座るミルが懐かしそうに、親しげに話しかけている。
え、おまえもこの二人と知り合いかよ。
「そうだな、ミリー。この顔ぶれを見ると演習を思い出す」
ちょっとミルと親しげな高身長イケメンのリッチハート嫌いかも。
おれは盛大な溜め息を吐き出して、お皿に盛られた料理を突いた。
結局、お昼は近くにあったこのレストランで取ることになったのだが、リッチハートとオルガが加わり、総勢十二名という大所帯でテラス席を占領していた。
大量の料理を注文し、みんな好き勝手に食べたり飲んだりしている。
「こんな情勢下で旧知の顔ぶれに出会えたことを嬉しく思う」
リッチハートは
娯楽施設だというのに、グランジア海軍正規パイロットの制服を着込んでいるのだから、どんだけ海軍大好きアピールしてんだか。
「どうした、少年? 緊張しているのか? ここは我が国が誇る一大エンターテイメントの中心地だ。そんなつまらない顔していないで、楽しんだらどうだ?」
てめーこのやろう、どの口が言うんだksg
陰キャのおれでも多少、楽しめていたっていうのに、てめーが現れたからテンション下がったんだよ、察しろぼけなす。
「ぁー……、いっそディナーアウトしてえな、この飯」
「いま外食しているだろう?」
「いや、そういう意味で言ったわけじゃないんだ……」
おれの独り言を律儀に拾うリディア大佐だ。
ディナーアウトとはスパイの隠語、外部から取り寄せるという意味だ。
つまり気分的にボッチでどこか別のところで飯を食いたいという、陰キャ思考を爆裂させているのだ、はは。
「そうだな。ちょうど私も取り寄せた置き土産に付いて聞きたかった」
オルガの鋭い視線がリディア大佐に突き刺さる。
お? 何か怒っている感じ?
いや、常にこういう態度な気もするが。
「極環境仕様のSモジュールだ。阻止していなければ宇宙センターまで輸送され、打ち上げられてしまうところだった」
「中米で回収したパッケージとの違いは?」
「まだ解析していないのか?」
「二つともつい最近だぞ、回収したのは。そんなにすぐ分かるものではないだろう?」
どうやら前のミッション、アンティル社会主義共和国関連のことを言っているらしい。
オルガの抑揚のない口調はリディア大佐そっくりで、聞いている限りではどっちが喋っているか分からない。
ミドルネームも似たような感じだったし、この二人、姉妹かなにかなのか??
あんまり似ていないけど…………?
「どっちも国籍不明機に搭載されている無人デバイスじゃないのか?」
テーブルの端っこで、ビターとコハル共々仲良く座っていた
「アタックチームが中南米で回収したのは型式番号A-BD、アーティファクト・ブレイン・デバイスだ」
「転換仕様の初期型か。対象となった被検体は……、まあいい。調べれば分かることだな」
おやおや、リディア大佐とオルガがいう無人デバイスは、アンティル社会主義共和国上空で戦った
多分、NPCの挙動を司るプログラムのことだろう。知らんけど。
「んじゃフロリダのはどんなの?」
ビターが大きいオマールエビと格闘しながら聞いた。
「型式番号S-BD、スペース・ブレイン・デバイス、平たく言えば宇宙専用の無人デバイスだ。破棄されたSDI計画を引き継いだ軍事衛星用で、使用されたらあらゆる衛星が機能停止せざるを得ない状況となっていただろう」
「それは……、過去の遺物じゃないか? 実用性皆無だろうに」
リディア大佐の説明にリッチハートが反応する。
「いや、そうでもない。過去に何度も復活していた。特にミサイル防衛の需要が高まる度に予算が組まれ、活動自体は続いていたようだ」
ほうほう、オルガさん、なかなか興味深いことを言う。
さすが自称ペンタゴン勤務。
色々ときな臭いことを知っていそうだ。
まあSDI計画っていうのは冷戦下のアメリカによる戦略防衛構想のことで。
ソ連のミサイルを阻止破壊してアメリカ人がハッピーに暮らせるようにするやつね。
「問題なのはそれらの計画を実行している
ここで口を挟む生粋の海軍パイロット、リッチハートくんのお皿はすでに空。
おいしそうな魚料理がいつの間にかやつの胃袋に消えていた。
結構な大食い野郎だが、まあ2メートル近い図体だとこんなものか。
「ああ、あれだろ? 噂のAI。極秘裏に開発された軍の
おれは危うく口に含んだボンゴレビヤンコを吹き出すところだった。
チョッパー、いま何て言った?
まさか、
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